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第2節 

2 環境影響評価の実際−むつ小川原開発の場合

 前述のような認識の深まりを背景として、これまで、大規模な開発計画の決定や個別の事業等の実施に当たって、その態様は様々であるが、環境影響評価を意図した作業、手続が数多く行われてきている。ここでは、大規模開発に関する環境影響評価の具体例としてむつ小川原開発の場合について、その計画の作成から決定に至る過程において、環境影響評価に係る作業、手続がどのように行われたかを振り返ってみよう。
 同開発は、新全国総合開発計画(44年5月)の中で、「小川原工業港の建設等の総合的な産業基盤の整備により、陸奥湾、小川原湖周辺……………(中略)………に巨大臨海コンビナートの形成を図る」ものとして盛り込まれた。国は、青森県が提出した第一次基本計画を検討した結果、47年9月、開発の基本方針を了解する一方、公害防止など環境問題を中心として基礎的な調査を継続し、その成果に基づいて逐次計画の具体化を図るものとした。青森県はこれに従って必要な調査を進め、50年12月、「むつ小川原開発第2次基本計画」を作成した。
 むつ小川原地域は、青森県の東北部にあって、陸奥湾と太平洋にはさまれた下北半島の頸部を中心とする地域であり、ほぼ中央に当たる小川原湖周辺一帯は、標高40〜80m内外の緩やかな起伏をもって東及び東南に展開した段丘台地で、北から尾鮫(おぶち)沼、鷹架(たかほこ)沼、小川原湖等の湖沼群がある。地域の人口は、十和田市、三沢市を含む10市町村で約18万4000人(50年国勢調査)、就業構成は第一次産業42%、第2次産業16%、第3次産業42%(同20%抽出集計)であり、県内での雇用機会が不足しているため県外への季節的出稼ぎが恒常化し、また、若年労働力の多くも県外へ流出している。
 第2次基本計画によれば、むつ小川原開発は、総面積5,000ヘクタール余を対象とし、その中核となる工業基地開発計画の主な業種と規模は、石油精製1日当たり100万バーレル(60年目標の第一期計画では50万バーレル)、石油化学1年当たり160万トン(同80万トン)、火力発電320万キロワット(同120万キロワット)等である。このほか、工業基地建設に伴う住宅移転及び工場従事者のための新市街地計画、道路、鉄道計画、むつ小川原港建設に伴う港湾計画並びに新たな水需要の増大に対処するための小川原湖を主たる水源とした水資源開発計画が、むつ小川原開発を構成している。(第3-6図参照)。


 環境庁は、51年9月、「むつ小川原総合開発計画第2次基本計画に係る環境影響評価実施についての指針」を作成し、青森県に示した。なお、同指針に示された環境影響評価の実施手順は次のとおりである。
? 地域概況の把握
? 地域環境の現況と解析
? 環境特性の考察と計画策定の制約条件の推定
? 開発計画案の予備的な検討
? 開発計画案の環境影響要因と影響を受ける環境要素の推定
? 想定活動規模等に基づく環境影響の予測
? 予測結果の評価と許容される活動規模の推定
? 環境管理計画の立案
? 環境影響評価結果の総括
? 環境影響評価報告書案の作成
? 環境影響評価報告書案の公表及び関係行政機関、地域住民等の意見聴取
? 各方面よりの意見の検討と最終報告書の作成・公表
 青森県では、この指針を参考として環境影響評価を実施し、52年2月に、「むつ小川原開発第2次基本計画に係る環境影響評価報告書案」を作成した。同県は、報告書案の公共実施要綱を定め、関係10都市町村において同案を4週間にわたり公衆の縦覧に供したほか、説明会を開催した。説明会は20回開催され、延べ1,310名が参加した。さらに、同要綱に基づいて、縦覧期間の開始日から5週間の間に、関係市町村の住民から知事に対し、報告書案について環境保全上の意見が提出された。青森県は、これらの意見及び関係行政機関の意見等を踏まえて、52年8月22日、「むつ小川原開発第2次基本計画に係る環境影響評価報告書」を作成し公表した。
 国は、同年8月30日の閣議において、むつ小川原開発事業の重要性にかんがみ、関係省庁が、環境保全等に十分配慮しつつ、地域住民の理解と協力のもとに事業の推進を図るものとし、このため必要な施策等について適切な措置を講ずるものとする旨了解した。
 このようにして、むつ小川原開発は、住民参加を得た慎重な環境影響評価を経た後、実施に移されることとなった。

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