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第2節 

1 環境影響評価推進の歩み

 各種の開発事業等環境に著しい影響を与えるものが公害の防止及び自然環境の保全の見地から適正に行われることを期するため、適切な環境影響評価を行うことの必要性が、今日広く認識されている。ここで、国の基本的な経済計画や国土総合開発計画等において、この問題についての考え方がどのように表わされ、深められてきたか、その歩みを振り返ってみよう。
 昭和30年代後半は、国民所得倍増計画(35年)や国土総合開発法に基づく全国総合開発計画(37年)を背景にして、大型コンビナートの立地等、大規模な地域開発が急速に推進された。また、他方で深刻な公害が全国各地で発生することとなった。この中にあって、40年度から大規模な工業開発について産業公害総合事前調査が実施されることとなり、さらに44年5月に閣議決定された新全国総合開発計画は、「新たに工業基地化する地域については、公害防止のための事前調査等を行ない、その結果に基づいて工業立地の適正化を図る。」と述べている。40年代前半は公害問題が現実に深刻化しつつある中で、工業立地に際しての公害防止のための事前調査の重要性がようやく認識され始めた時期であったといえよう。
 47年6月には「各種公害事業に係る環境保全対策について」の閣議了解が行われ、国の行政機関はその所掌する公共事業について、事業実施主体に対し「あらかじめ、必要に応じ、その環境に及ぼす影響の内容及び程度、環境破壊の防止策、代替案の比較検討等を含む調査研究」を行い、その結果に基づいて所要の措置をとるよう指導することとなった。また、四日市ぜん息損害賠償請求事件に関する同年7月の津地方裁判所判決は、被告企業がその工場立地に当たり、「付近住民の健康に及ぼす影響の点について何らの調査、研究をもなさず漫然と立地した」として「立地上の過失」を認定したが、このことはまた環境保全における立地問題の重要性を改めて認識させた。一方、このような産業公害ばかりでなく、人口の都市集中、消費生活の高度化に伴う都市の環境悪化も大きな問題として考えられるようになった。
 このような状況の中で、翌48年2月に閣議決定された経済社会基本計画は、「新規工業開発や都市開発に際しては、一定の環境保全水準が確保されるよう環境の受容能力の範囲内で開発を進める必要があり、そのために、開発主体に対し、事前に環境に及ぼす影響を十分調査検討し環境アセスメントを十分行なうよう義務付け」るとの考え方を明らかにすることとなった。なお、この年には、公害水面埋立法の一部改正、瀬戸内海環境保全臨時措置法の制定等を通じて、所要の法令の整備が行われた。
 一方、同年11月には、自然環境保全法に基づいて自然環境保全基本方針が閣議決定されたが、同方針は、「資源のもつ有限性に留意し、大量生産、大量消費、大量廃棄という型の経済活動に厳しい反省を加え、公害の未然防止に努めるとともに、経済的効率優先の陰で見落とされがちであった非貨幣的価値を適正に評価し、尊重していかなければならない。更に、自然環境の適正な保全に留意した土地利用計画のもとに適切な規制と誘導を図り、豊かな環境の創造に努めなければならない。」との認識に立って、「自然環境を破壊するおそれのある大規模な各種の開発が行われる場合は、事業主体により必要に応じ当該事業が自然破壊に及ぼす影響の予測、代替案の比較等を含めた事前調査が行われ、それらが計画に反映され、住民の理解を得たうえで行われるよう努める」と述べている。
 環境保全行政は、国土の総合的、計画的利用全体の中で推進されなければならない。49年には、「国土が現在及び将来における国民のための限られた資源である」との理念の下に国土の適正な利用を図るために国土利用計画法が制定されたが、同法に基づく国土利用計画(全国計画)は、51年5月に閣議決定され、「良好な環境を確保するため、開発行為について環境影響評価を実施することなどにより土地利用の適正化を図る。」と述べている。
 更に、同じく51年5月に閣議決定された昭和50年代前期経済計画は、「環境影響評価のための制度等の体制の整備、国土利用の適正化等により、環境保全施策の総合的な推進を図る。」と述べ、環境影響評価のための制度等の体制の整備の必要性を唱えた。
 そして、52年11月に閣議決定された第三次全国総合開発計画は、「この計画に基づき実施される事業については、その具体化に当たって、住民の意向を反映するとともに、適切な環境影響評価等を実施することとし、環境影響評価の技術手法の開発を促進するとともに、効果的な環境影響評価を実施するための制度等の体制を整備を図る必要がある。」と述べている。
 以上のような国の基本的な経済計画や国土総合開発計画等に表われた環境影響評価に関する記述を通して、この問題についての認識が深められ、定着してきたことがわかる。このようにして、今日では、開発事業等環境に著しい影響を与えるものの実施に際しては、住民の意向をは握するとともに、環境保全の観点からこれらが適正に行われるようにするため環境影響評価を実施する必要性が広く認識されるようになったのである。
 なお、国際的にも、OECDの理事会が49年11月に「重要な公共及び民間事業の環境への影響の分析」に関する勧告を行い、その中で、「環境の質に大きな影響を与えると思われる重要な公共及び民間事業の環境に対する影響を予測し、明確にするための手続及び方法を確立すること」を加盟各国に勧告した。また、アメリカの国家環境政策法を初めとして、スウェーデン、オーストラリア、西ドイツ、フランスなどにおいて、それぞれの国情に応じて環境影響評価の実施又は制度の確立をみている。

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