前のページ 次のページ

第1節 

1 地域開発と環境保全

 我が国では、明治以来とりわけ戦後の経済発展の過程を通じて、狭小な国土、なかでも狭隘な平野部に高密度の経済社会活動が営まれてきたが、昭和30年代後半には、東京、大阪等の大都市の過大化、大都市と地方との所得格差、地方からの人口の流出等が深刻な問題となった。
 そのため、37年に、「第一次全国総合開発計画」が策定された。「第一次全国総合開発計画」は、都市の過大化の防止と地域格差の縮小に配慮しながら、我が国に賦存する自然資源の有効な利用及び資本、労働、技術等諸資源の適切な地域配分を通じて地域間の均衡ある発展を図ることを目標とし、開発方式として拠点開発方式をとった。
 44年には、「第二次全国総合開発計画」が策定された。「第二次全国総合開発計画」は、人間と自然との調和、開発可能性の全国土への展開、国土利用の再編成・効率化、安全快適で文化的な環境条件の整備・保全の4つの課題を調和させながら、高福祉社会を目指して人間のための豊かな環境を創造することを基本的目標とし、開発方式として大規模開発プロジェクト方式をとっていた。
 このような全国総合開発計画を基本として地域開発が進められてきたが、一方、環境問題の現実の動向を見ると、この間、公害や自然破壊が深刻な問題となってきた。このため、今日、一人ひとりの生活にとって公害の防止や豊かな自然との触れ合いの確保のもつ意味はますます高くなり、これらを地域開発を進めるに当たっての基本的要素のひとつとして積極的に位置づける必要性が高まってきている。また、これまで地域開発を進めるなかで、施設整備に伴い公害や自然破壊の問題を生じたこともあったことを踏まえて、これらを未然に防止するための対策が一層重要となっている。更に、交通公害等の分野が新しく大きな問題となってきていることなども今日、地域開発と環境保全の問題を考えるに当たって重要となっている。
 52年11月には、「第二次全国総合開発計画」の見直しと、西暦2,000年を見通した超長期展望作業を踏まえて、「第三次全国総合開発計画」が策定された。
 「第三次全国総合開発計画」においては、限られた国土資源を前提として、地域特性を生かしつつ歴史的、伝統的文化に根ざし、人間と自然との調和のとれた安定感のある健康で文化的な人間居住の総合的環境を計画的に整備することを基本的目標とし、開発方式としては定住構想を選択している。
 定住構想は、第1に、歴史的、伝統的文化に根ざし、自然環境、生活環境、生産環境の調和のとれた人間居住の総合的環境の形成を図り、第2に、大都市への人口と産業の集中を抑制し、地方を振興し、過密・過疎に対処しながら、都市、農山漁村を一体とした新しい生活圏を確立することであり、落ち着きと潤いのある地域社会を目指し、これからの地域開発の方向を示唆している。また、この計画においては、公害の防止及び自然環境の保全について適切な考慮を払い、各種の施策の実施は、地域の環境保全の観点から受容可能な範囲において行われる必要があるとしている。
 地域開発の窮極の目的は、地域社会を魅力あるものとし、地域住民の福祉の向上を図ることにあり、豊かな生活を営む上で欠くことのできない良好な環境の保全は、地域開発においても重要な課題である。地域開発の規模内容、環境保全上の配慮及びその是非については、地域住民の意向を十分反映する必要があろう。
 また、地域の環境保全に十分留意した地域開発を推進するためには土地の現況及び特性を正確には握することが重要である。
 更に、地域開発の具体化に当たっては、適切な環境影響評価を実施する等地域開発による新たな公害や自然破壊の発生を未然に防止することが重要である。
 豊かな自然と独特のたたずまいを生かした魅力ある「ふるさとの創造」こそがこれからの地域開発に求められているものであるといえよう。

前のページ 次のページ