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第3節 

2 取締りの概況

(1) 増加する公害事犯
 公害事犯の検挙件数は第9-3-1図のとおり年々増加し、51年中に全国の都道府県警察が検挙した公害事犯は総数4,697件に達し、前年の3,572に対比すると1,125件(31.5%)の増加となっている。
 増加の直接の原因は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反の検挙が大幅に増加したためであって、中でも産業廃棄物の不法投棄事犯が多く、最終処分場の確保、最終処理業者の育成等の措置が望まれるところである。
(2) 警察における公害事犯の態様別及び法令別検挙状況
 51年中に警察が検挙した公害事犯を態様別に見ると第9-3-1表のとおりで、廃棄物の不法投棄が2,322件(49.4%)で約半数を占め、次いで水質汚濁1,233件(26.2%)、悪臭557件(11.9%)の順であり、この3様態で公害事犯全体の87.5%を占めている。
 また、公害事犯の検挙に適用した法令を見ると、第9-3-2表のとおりで、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」が3,549件(75.6%)で大部分を占め、ついで「河川法」500件(10.6%)、「水質汚濁防止法」272件(5.8%)の順となっている。


(3) 検察庁における公害犯罪の受理・処理状況
 最近5年間の全国検察庁における公害犯罪の受理・処理状況を見ると、第9-3-3表のとおりである。公害犯罪の新規受理人員について、47年を100とする指数で見ると、51年では254となっており、逐年激増の傾向を示している。また、処理状況を見ると、起訴人員が逐年増加し、51年には、4,540人となっている。
 次に、51年中の全国の検察庁における公害犯罪の新規受理人員を罪名別に50年と対比して見ると、第9-3-4表のとおりである。51年のこの種の事件の新規受理人員の総数は6,624人で、前年より1,120人(20.3%)増加している。これを罪名別に見ると、最も多いのは「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反の3,883人で、受理人員総数の58.6%を占め、「海洋汚染防止法」違反(「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」違反を含む。)の1,364人(20.6%)がこれに次ぎ、以下、「水質汚濁防止法」違反、「港則法」違反、「河川法」違反の順となっている。「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律」違反では4人の事件が受理されている。50年に比して受理人員が増加したのは、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反の1,227人増を初めとして「河川法」違反(57人増)、「毒物及び劇物取締法」違反(50人増)などであり、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反の受理人員の増加が公害犯罪の受理人員の増加の主な原因となっていることが注目される。一方、減少したのは、「水質汚濁防止法」違反、「へい獣処理場等に関する法律」違反等である。
 51年中の検察庁における公害犯罪の処理状況を見ると、第9-3-5表のとおりである。
 起訴人員は4,540人、不起訴人員は1,696人、起訴率は72.8%となっている。これは、前年の68.8%をしのぐものであり、この種の事件に対する処分の厳しさを示していると思われる。起訴総数の97.3%にあたる4,418人が略式命令を請求されている。公判請求されたものは122人で、そのうち多いのは、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」違反で66人、次いで「水質汚濁防止法」違反の21人となっている。また、「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律」違反で2人を公判請求している。
 なお、51年中に起訴された公害関係事件中には熊本水俣病事件、水島重油流出事件がある。
 良好な環境を保全するためには、まず適正な行政施策に実施による公害の未然防止が必要であり、刑事司法の関与する分野はおのずから限界がある。しかし、公害防止対策の一環として、公害関係の罰則の適正な運用が不可欠であり、今後ともこの種事犯に対する実行ある取締りを推進することが期待される。


(4) 公害事犯の傾向
 取締りを通じて見られた事犯の特徴的な傾向は次のとおりである。
ア 経済の低成長時代を反映し、汚水処理施設や廃棄物処理施設等の公害防止施設の未整備による違反及び経費節減を図ることに起因する違反が目立った。 
 例えば、汚水処理施設を設置しないものとか、施設があっても経費を節減するため施設を使用しないもの、故障を知りながら修理を怠っているもの等の事例が多く見られた。
イ 不況のしわ寄せと警察取り締まりの強化によりこれを潜脱せんとする一部の悪質業者の中には、汚水の排出方法や廃棄物の処理方法に工夫を凝らすなど犯行の手段方法が悪質化の傾向にある。
 例えば、隠し排水口の設置場所、排出の方法、時間などに工夫を凝らし、中にはタイムスイッチを使用して深夜排水をしていた悪質なもの等が現れており、また、廃棄物の不法投棄についても山林、原野、休耕田などの所有者をだまして不法投棄し環境汚染を生じさせるもの、排出源企業の自家処理を装うため社名入りのユニホームを貸与するもの、無許可業者に委託するに際し許可証のコピーを配布して許可業者を仮装させるなどの事例が見られた。
ウ 廃棄物に関する事犯が大幅に増加し、1事犯で数万トンの廃棄物を不法投棄するもの、処分地を求めて都道府県の区域にわたり不法投棄するものなど事犯が大型化、広域化している。

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