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第1節 OECDの活動

 OECDは、昭和45年11月に環境委員会を設置し、環境問題を科学的、技術的側面のみならず経済的、政策的側面をも含めて検討してきているが、本委員会はじめその下部機構である大気管理、水管理、化学品、経済専門家等の各グループは、OECD加盟各国の公害問題に対する関心の高さを反映して活発な活動をしている。我が国も環境委員会の活動に積極的に参加し、我が国の実態を各国に明確に認識させるとともに、各国の優れた知識、経験、対策、技術等を吸収して政策に反映させようと努めている。51年11月には日本の環境政策レビュー特別会合が日本で開催され、内外の関係者に大きな反響を呼んだ。
 以下それぞれの活動状況の概要を述べる。
(1) 環境委員会
 環境委員会は、環境政策と社会・経済政策との総合化を重要視している点に特色があり、本委員会では加盟国政府が環境政策を企画・推進する上で重要と思われる問題につき検討がなされるが、その結果は必要に応じ、理事会の議決を経てOECDの決定あるいは勧告として採択される。
 委員会の51年の主要活動として
? 日本の環境政策レビュー(日本の環境政策の検討と東京での特別会合の実施)
? 沿岸管理勧告、廃棄物管理勧告及び越境汚染勧告及びエネルギーとの環境勧告の採択
? 放射性廃棄物の海洋投棄国際協議、水銀、PCB等有害化学物質の調査報告などが挙げられる。
(2) 下部機構の活動
ア 経済専門家グループ
 本グループは、公害問題及びその対策の経済的側面を検討するグループである。
 51年には、公害防止助成に関する通報制度(50年に設立)に基づき、各国の助成額の推定、助成の貿易への影響の分析、新規設備に助成を行う場合のクライテリアを検討した。また、アルミニウム、鉄鋼及び肥料産業を対象にした公害防止コストの調査を取りまとめ、その影響を分析した。更に公害防止政策のマクロ経済への影響について西ドイツを対象に分析した。その他、フロロカーボンの規制の経済的影響について検討を始めた。
イ 大気管理グループ
? 光化学大気汚染及びその先駆物質に関する対策
 光化学大気汚染の発生機構の解明、光化学オキシダント及びその先駆物質としての窒素酸化物、炭化水素の測定方法及びモニタリング、その発生源対策について検討を行った。
 更に、52年における窒素酸化物、炭化水素及び関連物質に関するプロジェクトにおいては、日本がリード・カントリーとなり、窒素酸化物及び炭化水素自身の有害性にも着目して、プロジェクトが実施されている。
? 硫黄酸化物及び関連物質防止対策
 硫黄酸化物の監視・警報及び防止計画の実施、硫黄酸化物の排出量と地上濃度との関係分析等を行っている。また、49年に出された硫黄酸化物対策に関する理事会勧告の各国における実施状況について調査を行った。
? その他
 酸化降下物の影響についての検討、自動車公害防止プロジェクト等を行っている。
ウ 水管理グループ
 ?洗剤の生物分解機能に関する報告書及び?水管理政策手段に関する報告書を取りまとめたほか、?石油化学、電気メッキ及び繊維工業からの特定水質汚濁物質の防止対策、?発電所の熱汚染対策、?内陸水の富栄養化対策、?51年のヨーロッパの渇水問題を受けて渇水対策等について検討した。
エ 化学品グループ
? 前年に行った「科学物質の環境影響評価に関する国際調査」を受けて、化学物質に各国共通の規制を考慮するために、「人間と環境に及ぼす化学物質の影響を事前に評価するための手段と必要事項に関する指針」についての理事会勧告案を検討した。
? ?に関連して、勧告案の経済的影響の検討を行った。
? 環境中のPCB及び水銀に関する試料の継続的調査収集。
? フロロカーボンの規制に関する検討。
オ エネルギーと環境ステアリング・グループ
 ?発電所・石油精製施設等主要エネルギー施設の立地政策の調査、?エネルギーの生産及び使用に伴って生ずる環境影響の低減政策に関する勧告の検討、?都市におけるエネルギーと環境問題に関するバックグラウンド・ペーパーの作成、?都市地域のエネルギーと環境対策に関する勧告の検討?石油・ガスの沿岸開発及び生産に伴う環境影響の分析、?脱硫による燃料の良質化の検討等を行った。
カ その他
 都市環境グループでは、都市環境指標、国公有地の管理、環境アセスメント及び都市環境改善のための交通政策などの検討を行った。
 騒音防止政策アドホック・グループでは、経済的手段による騒音対策及び騒音防止コストの研究を行っている。
 廃棄物管理政策グループでは、廃棄物の再利用、製品寿命の延長についての研究、飲料容器の回収・再利用のケース・スタディ等を行った。
(3) 日本の環境政策レビュー(特別会合)
 51年11月16日より20日まで、OECDは日本の環境政策をつぶさに検討するために東京において特別会合を開催した。この会合は、50年6月以来準備を進めてきた環境委員会のプロジェクトである「日本の環境政策レビュー」の重要な一部を構成するものである。
 OECDによる国別環境政策の検討のための現地会合は、48年秋のスウエーデンについで2回目になる。
ア 特別会合の目的
 環境政策レビューの目的は、?対象国の環境政策及びその背景について可能な限り立ち入った分析を行い、?その結果から、加盟国及びOECD自体の環境政策の進展に資する教訓等を引き出すことにある。
 この目的に沿う国として日本が選ばれた理由は、世界で最も深刻な公害、環境悪化に悩まされながら、これを克服するために、世論の高まりと被害者の訴訟といった社会的な背景の下に強力な行政を展開し、大気汚染や有害物質対策等のいくつかの分野で大きな成果を挙げていることにOECDが注目したためである。
 このため、レビューのテーマは、日本の貢献が可能な分野から、?日本の環境政策の基本的な考え方及び政策手段、?基準、?補償、?立地、?経済への影響、の5つが選ばれた。また、会議の運営についても、会議を全体会議とグループ会合に分け、それらの会合と現地視察とが有機的に組み合わされた。
 グループは、上記テーマの?〜?の4つについて形成され、それぞれ、千葉、四日市、鹿島及び横浜・川崎を視察した。それぞれの訪問先では、地方公共団体、産業界、住民、その他関係者と会談し、政策の実情や問題点についての理解を深めたが、そこでの知見や問題点の整理はグループ会合での討論、更には全体会議での討論を通じて総合化されるよう配慮がなされた。
イ 会議の運営
 会議には、17か国(OECD加盟24か国中15か国及びユーゴスラビア、EC)から、イギリス環境省公害局長、フランス生活の質省公害局長等、各国の環境政策のトップレベルの代表約40名が出席し、エルダンOECD事務次長が議長を勤めた。
 開会に当たり、丸茂環境庁長官は我が国の公害防止努力について触れたのち、先進国が世界の環境問題に対して共通に持つべき自覚と責任について述べた。これにこたえてエルダン議長は、OECD諸国における環境問題の占めるウエイトの大きいことを強調すると共に、本会合に寄せる強い期待と決意を延べた。
 開会式に引き続いて、日本代表より日本の環境政策の概要が説明され、更に、OECD事務局から、日本の環境政策分析報告の概要説明があり、これに基づいてグループ及び全体討議がなされた。また、本会合の事務局コンサルタントである都留一橋大学名誉教授から、本会合で行う分析について留意すべき点について意見が述べられた。
ウ 会議の取りまとめ
 東京会合の閉会に際して、エルダン議長から検討事項の中間的な取りまとめが発表された。それは、?日本の環境政策に対する全般的な評価、?日本の現状を見た上での加盟諸国の環境政策に対する教訓、?将来に向けて国際的に取り組むべき問題、の3項目から成り立っている。以下、項目別にその概要を述べる。
? 日本の環境政策に対する全般的な評価
 日本は公害対策の分野で大きな業績を挙げたが特に大気汚染防止及びPCB等の有害物質規制の面では、世界で最も進んでいる。厳しい基準が企業にとって大きな挑戦目標になり、数年前には存在しなかった新しい技術ができている。このことは驚くべきものである。しかし、環境保全に留意した土地利用の規制、社会的インフラストラクチュアの充実等については遅れが見られる。
 全体的にいえば、日本は公害との戦いには勝ったが、環境を守る戦い、つまり広い意味での生活の質の向上という点では遅れが見られ、今後の努力が必要である。
? 日本の現状を見た上での加盟諸国の環境政策に対する教訓
 日本においては非常に野心的な環境政策が展開され、しかもそれは経済的に負担でき、結果的にはマクロ経済にさほど影響を与えることなく行われた。また、科学的、経済的データが不足しているからといって、措置が延期されることはなかった。
? 将来に向けて国際的に取り組むべき問題
a 生活の質に関連した指標を開発すること。
b 今後の新しい開発計画を立案するに当たって、その最適な規模を検討すること。
c 健康被害のみでなく、物的被害についても救済の制度を検討すること。
d 早期警報制度の確立を検討すること等。
 以上が特別会合の概要であるが、日本の環境政策レビューは舞台をパリのOECD本部へ移して、第20回環境委員会(52年5月)の場で、最終的に取りまとめられる。

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