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第3節 環境保全に関するその他の調査研究

(1) 環境保全総合調査研究促進調整費による調査研究
 昭和51年度においては、瀬戸内海中央部で底層に貧酸素水域が生じ、魚類がへい死する等海を巡る各種の問題が発生した。このような事態に対応して、環境庁及び農林省は貧酸素水域の底層流による汚濁機構解明のための調査研究を実施し、環境庁、厚生省及び農林省は共同して伊勢湾等で発生した有毒プランクトンによる貝類の毒化防止に関し、生態的な面や人体に与える影響等を中心に研究を実施した。また、通商産業省ではハマチの養殖に餌として与えるイワシ類等から流出する油脂類による環境汚染防止技術について研究を行った。このほか、既に使用禁止となっているPCBその他の有機塩素化合物に関し、厚生省はこれを含有した有害廃棄物の実態調査を行い、通商産業省は一般の紙と混在しているPCB入り旧ノーカーボン紙を回収するための簡便な判別法の開発に関する研究を実施した。更に通商産業省は、地熱発電所等から排出される硫化水素の低濃度域での分析、測定方法の確立に関する調査研究を行った。
 また、環境庁は、松くい虫が運ぶ線虫類による全国的な被害防除のため、松林へ空から農薬散布を行うに際して、自然環境保全のために配慮すべき事項等に関する調査を行った。
(2) 公害防止等調査研究費による調査研究
 環境庁においては、公害防止等調査研究費により環境庁所管行政の推進上特に重要な課題につき、次のような調査研究を実施した。
ア 環境汚染に係る健康影響は第5章第2節で述べたとおり、水俣病、イタイイタイ病、大気汚染による疾病、休廃止鉱山の廃水等に起因する疾病等について、それぞれ専門家による研究班を組織し、環境汚染と健康影響について総合的な観点から引き続き研究を進めた。
 また、「化学物資の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき、化学物質の環境中での挙動を評価するため、その分解性、蓄積性に関する基礎資料を得るため、化学物質の分解、濃縮及び蓄積メカニズムについての研究を引き続き実施した。
イ 大気汚染及び水質汚濁に関しては、環境基準及び規制基準の設定の基礎とするため、汚染物質の環境への影響、測定方法の検討、汚染予測手法の開発等各種の調査研究を行っているが、51年度においては、低周波による空気振動の実態調査、瀬戸内海の汚染状況をは握するための生物指標調査、主用な農薬の作物中における化学的変化の究明に関する調査研究等を新たに実施した。
ウ 自然環境保全に関しては、自然生態系の保護を図るという観点から、野生動物の現存量のは握、地熱発電等の自然生態系に与える影響等の調査を実施するとともに、自然環境保全のための環境管理手法及び土地利用計画の策定のための調査を行った。
 更に、51年度から自然公園内において採取を規制すべき植物の選定基準に関する調査及び自然公園内の利用状況のは握法の開発のための調査研究を新たに実施した。
 また、前年度に引き続き沖縄におけるイリオモテヤマネコの生態及び保護、野生鳥獣の異常死の究明等に関する調査研究を行った。
(3) 大型プロジェクト制度等による研究
 通商産業省においては、大型工業技術研究開発制度(通称「大型プロジェクト制度」)により重要かつ大規模な研究開発課題について、産、学、官の密接な協力体制の下に研究を進めている。この制度による公害防止関係の大型技術研開発としては51年度においては、前年度に引き続き電気自動車、高温還元ガス利用による直接製鉄、自動車総合管制システム、重質油を原料とするオレフィンの新製造法の4つの新技術開発を実施したほか、電磁流体(MHD)発電については、MHD発電現象の解明と各種コンポーネントの開発を中心とした第1期プロジェクト計画を終了し、高出力でかつ長時間運転という条件の下での技術開発を主とする第2期プロジェクト計画を実施することになった。更に、大型工業技術研究開発に準じた研究開発として実施してきた都市固型廃棄物の資源再利用技術システムの開発に関する研究を51年度からは大型プロジェクトの一環として強化し、資源化技術のシステム化と大型プラントによる実証化試験を実施した。また、51年度から新たに熱の総合的な有効利用を図り、産業の省資源、省エネルギーに資するシステムの研究開発を行う廃熱利用技術システムに関する研究を準大型プロジェクトとして実施した。
 また、農林省においては、特に大規模な組織的共同研究体制を必要とする研究課題について、別枠研究を編成しており、51年度においては、前年度に引き続き農林漁業が環境の保全に果たす役割と問題点をは握するとともに、環境保全の調和のとれた生産技術体系を確立することを目的として、農林漁業のもつ環境保全機能の計量的は握、環境保全指標の設定、環境保全的な土地利用技術と管理方式及び地域開発手法の確立並びに家畜排泄物による環境悪化の防止のための技術体系の確立を内容とする「農林漁業における環境保全的技術に関する総合研究」を実施した。
(4) 重要技術研究開発費補助金等による研究の助成
 通商産業省においては、民間企業等の行う重要な技術の研究開発に対して、重要技術研究開発費補助金によりこれを助成しているが、51年度においては、アーク炉による下水スラッジ、石油タンク等の油性スラッジ、熱分解による廃水スラッジのスラッジ処理技術について計3件、セメント焼成炉、ガラス溶融炉等についての乾式排煙脱硝技術に関し計5件の助成を行ったほか、主として中小企業に適用する各種の公害防止対策技術につき30件の助成を行った。
 また、農林省は都道府県農業関係試験研究機関の行う研究に対する助成の一環として、新たに光化学スモッグによる農作物被害対策試験について助成を行った。
(5) 工場立地等事前調査
 通商産業省においては、産業公害総合事前調査費により大規模な工場等が集中して立地している地域あるいは今後集中して立地が行われると予想される地域を中心として、これら地域において発生が予想される産業公害の未然防止のため、気象、海象データの収集のための現地調査、風洞試験、水理模型実験、数値シミュレーション等による汚染予測及び生態系の影響について調査を引き続き実施し、これらの調査結果を基に、汚染負荷量の削減、処理施設の設置、改善等の企業指導を行っている。51年度において調査を実施したのは、大気関係では釧路等2地域、水質関係では秋田等3地域であった。
(6) 地方自治体における試験研究
 地方自治体における公害関係試験研究機関は、当該地域における各種公害に関する測定分析及び調査研究を担当する機関として設置され、環境庁が行う地方公害研究所等設備費による助成措置と相伴って、その整備は着実に進められている。
 これらの試験研究機関は、大気汚染、水質汚濁等に関する監視、調査に中心的な役割を担い、各種の基準等の設定、運用に係る基礎データの収集調査等について、国の委託業務を含め広範に実施しているほか、最近においては地域に密着した問題についての研究活動も一層活発となってきている。
 環境庁においては、これらの地方公害関係試験研究機関の研究体制を一層強化するとともに、緊密な連携の下に研究の推進を図るため、前年度に引き続き地方公害試験研究機関等所長会議を開催したほか「環境保全・公害防止研究発表会」を開催し、地方公害関係試験研究機関で行ってきた調査研究の成果の発表を行うとともに、研究者間の情報交換の促進を図った。この発表会においては、水質汚濁、大気汚染、土壌汚染、騒音、振動、化学物質、廃棄物、排水処理等の広範囲な分野にわたり、事象の解明、計測技術の開発等につき68テーマの発表が行われた。

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