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第1節 自然環境保全対策の推進

 我が国の自然環境は、経済の高度成長の過程を通じ、急速に悪化してきた。このため、経済成長優先の考え方に対する反省が生まれるとともに、環境保全に対する国民の欲求も公害の防止にとどまらず、快適な生活環境、良好な自然環境の保全へと高まってきた。
 このような国民の欲求を背景として、昭和47年に自然環境の保全に関する基本法である「自然環境保全法」を制定し、更に、自然環境保全基本方針の閣議決定、自然環境保全のための基礎調査の実施、自然環境保全地域等の指定など自然環境保全政策の確立を図ってきた。
 しかしながら、従来、これらの施策はややもすれば後追い的となり、しかも各施策間の有機的一体性に欠けるきらいがあったため、長期的視野に立った自然環境保全政策の確立が望まれていた。
 このため48年5月17日の自然環境保全審議会において、環境庁長官は、「自然環境保全のための基本的方策はいかにあるべきか。」を諮問した。同審議会は自然環境部会の下に49年11月自然環境保全長期計画策定小委員会を設置し、自然環境保全に関する長期計画の策定に必要な目標、目標達成のための施策などの検討を続け、51年12月20日「自然環境保全に関する長期計画のための基本的具体的構想」(以下、「構想」という。)を取りまとめ、環境庁長官に答申した。
 同答申の要旨は次のとおりである。
(1) まず、構想は、「自然環境保全に関する長期計画」(以下、「長期計画」という。)のねらいと基本的考え方を次のように明らかにしている。
 長期計画のねらいは、国又は地方公共団体が自然環境保全のために実施すべき施策の目標を現時点における知見に基づいてできるだけ明確にするとともに、自然環境保全関連施策の決定、実施に当たって、自然環境保全上配慮すべき事項、自然環境保全に関する各種施策の総合調整の指針等を明らかにすることである。また、国民の理解と協力を得て、自然環境の保護と改善に向けて民間活動を誘導することを目的としている。
 長期計画の基本的な考え方は、48年10月に閣議決定された「自然環境保全基本方針」(以下、「基本方針」という。)の「第1部 自然環境の保全に関する基本構想」を踏まえ、具体的な施策を推進する必要があるとしている。
(2) 長期計画の対象とする自然環境を「土、水、大気、日光などを無機的構成要素とし、植物、動物などを生物的構成要素とするものであって、人間生活とかかわりあいのある自然の諸条件の総合されたもの」とし、その保全目標は次のような自然環境が確保されている状態とすべきであり、60年度を目標年次とする必要があるとしている。
○ 健康で快適な生活環境を維持するため、地域住民の生活に必要な自然環境が確保されていること
○ 国土の保全、水源のかん養等に資するため、自然の多様性とバランスが維持されていること
○ 我が国の風土を特徴づける自然の海岸、河川、湖沼、高原、山岳等の自然環境が保全されていること
○ 科学的情報源となる貴重な自然、多様な生物種を保全する自然、絶滅の危機にひんする生物種を保全する自然等が保護されていること
○ 鳥獣の良好な生息環境が確保され、我が国に生息する多様な鳥獣の保護が図られていること
○ 国民の健全な野外レクリエーションの場として必要な自然環境が適正に保全されていること
(3) 土地利用計画のもとに適切な規制と誘導を図り、豊かな環境の創造に努めなければならないという基本方針の基本的考え方から、自然環境保全のための基礎調査等に基づいて、国土利用に当たり、自然環境保全のため配慮すべき点を次のように挙げている。
? 原始的自然の保全については、我が国の自然の原型として野生動物、地形等も含めた原生の生態系が十分な面積にわたって確保されねばならない。
 また、湿原、水辺植生、高山亜高山帯の自然植生等は十分に保全されなければならない。
? 二次的自然の保全については二次林の中には、歴史的、郷土的自然環境や、自然公園の自然景観を構成する重要なもの、生活環境保全上重要な都市林などを構成するもの等があり、保全を考慮して合理的な土地利用を進める必要がある。
 また、農林業が営まれる二次的自然域については農林業の持つ生産機能とともに、国土保全、環境保全、野外レクリエーション等の公益的機能を重視し、適正な保全、健全な育成を図らなければならない。
? 都市地域における自然の保全については都市地域における樹林地、草地、水辺地及び生産緑地等の自然は、生活環境の保全上大きな役割を果たすものであるから積極的に保護、育成、復元を図る必要がある。
? 海岸線、湖沼、河川等の自然の保全については、自然海岸及び干潟は、鳥類の生息地として重要であり、また水生生物の繁殖地でもあるため、残された自然海岸及び干潟等は、極力その保全を図る必要がある。
 また、湖沼、河川は水鳥類、植生、水生動物をはぐくむ地域であると同時に周辺地域一帯の生態系にとっても重要な役割と担うものであるので極力その自然性を保全しなければならない。
(4) 更に構想は長期計画の保全目標を達成するため、総合的に推進すべき、自然を保護、復元、育成する施策を提示している。

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