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第2節 

1 カドミウム汚染に係る健康調査研究

(1) 概況
 従来からカドミウム環境汚染の要観察地域として宮城県鉛川、二迫川流域等7地域が存在しており、健康被害発生の未然防止の見地から、経年的に地域住民の健康調査が実施されている(第5-2-1表)。
 また、要観察地域以外のカドミウム汚染が認められる地域においても同様の健康調査が広範に実施されている。
 これらの健康調査により延べ814人がイタイイタイ病及びカドミウム中毒症に関する識別診断研究班において検討され、昭和52年3月末現在、イタイイタイ病患者は発見されていないが、30人について要経過観察者等と判断されている。
 これらの住民健康調査を通じ、カドミウム汚染地域においては、尿蛋白陽性率がその他の地域に比べて高いということが注目されていたが、最近の研究成果によれば、カドミウム汚染地域においては、カドミウムによると考えられる腎尿細管障害があるという報告が出されていることから、従来の健康調査方式の再検討が行われ、腎尿細管機能障害をスクリーニングするためのより適切な方法を採用して健康調査方式を改正し、51年5月10日、各都道府県市に通知した。


(2) 「カドミウムの人体影響に関する文献学的研究」
 カドミウムの人体影響については、イタイイタイ病とカドミウムの因果関係が顕在化して以降も、その発生機序、各種健康診断の意義などに関して広範な研究が行われてきている。そこで環境庁では50年度委託研究費をもって専門学者グループ(主任研究者 野見山一生自治医科大教授)に対し、主として44年以降に報告されてきたイタイイタイ病及び慢性カドミウム中毒に関する内外の研究成果の収集と整理、並びにその純学門的評価を委託してきた。
 本研究の内容は51年12月「カドミウムの人体影響に関する文献学的研究」として公表したところである。
 本論文においてイタイイタイ病の原因に関する部分は、「カドミウムだけでイタイイタイ病の発生を十分には説明できないことも事実であり、一方、他の因子だけでで矛盾なくイタイイタイ病発生の時期的、地域的、年齢的な特徴を説明することも困難である。」とし、更に、「現在のところ、イタイイタイ病の発生と進展に、カドミウムが何らかの役割を果たしたことを否定する根拠は乏しいが、カドミウム投与の動物実験で定型的な骨軟化症の再現に成功していない点や、カドミウムによる腎尿細管機能異常が骨軟化症を引き起こすことが立証されるに至っていない点は、カドミウムをイタイイタイ病のおもな原因とする上で重要な障害となっている。」と学問の現状をまとめている。

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