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第2節 

6 その他の大気汚染物質対策

(1) ばいじん、粉じん対策
 ばいじんは大気汚染対策上、硫黄酸化物、窒素酸化物と同等に重要であり、かつ、これらが相互に関連して健康影響をもたらすので、古くから注目されてきた。
 ばいじんの排出規制については、「大気汚染防止法」第3条第2項第2号に基づき、46年に規制が教化され、第2-2-14表のような基準値が定められている。
 ばいじんの排出基準は、施設の種類及び規模ごとに定められており、更に施設が密集しており、汚染の著しい地域においては、地域を限って新、増設の施設に対し、より厳しい特別排出基準を定めている。
 また、物の破砕等の機械的処理又はたい積に伴い発生、飛散する粉じんについても、46年に、法第18条の3に基づき、構造、使用及び管理に関する基準が定められている。
 ばいじん又は粉じん対策のために、各種の集じん装置が設置されており、48年度には8,600基、49年度には8,300基の装置が設置されている。
 なお、ばいじんの排出基準は46年以来強化されていないが、浮遊粒子状物質に係る環境基準を達成するため、またこの間、対策技術にも相当の進展が見込まれるので今後規制の強化を検討する必要がある。


(2) 炭化水素対策
 中央公害対策審議会は、光化学オキシダントの生成を防止するために窒素酸化物と並んで、主要な原因物質である大気中炭化水素の維持されるべき濃度レベルにつき、48年9月より「炭化水素に係る環境基準専門委員会」を設け検討を重ねてきたが、51年7月30日の同専門委員会の報告を適当と認めた上、大気中炭化水素の低減化対策が急務であり、併せて濃度レベルの監視体制の整備を推進すべきことを定期した答申を51年8月13日に環境庁長官に提出した。この答申では、光化学オキシダントの発生のメカニズムの定量的は握には、いまなお調査研究の余地を残すものの、現在の我が国の光化学オキシダントの環境基準(1時間値が0.06ppm以下)を維持達成するためには、メタンを除いた炭化水素(非メタン炭化水素)の大気中濃度について光化学オキシダント生成に寄与し得る午前6時より9時までの3時間平均値として0.21〜0.30ppmC(ppmCはメタン換算での大気中の相対濃度)以下にするべきであるという指針値を示している。これまで推進されてきている窒素酸化物の低減化対策に併せて今般の答申で炭化水素についての低減化対策の方針が打ち出されたわけで、これら二大原因物質の低減化を同時に推進することにより、我が国の光化学大気汚染対策を図っていくこととなる。
 炭化水素の発生源対策としては移動発生源からの炭化水素については、自動車に対する排出ガス許容限度の累次にわたる強化によって、削減が行われており、乗用車について見ると50年度規制適合車は、未規制時に比べ93%の削減となっている(第2-2-13図)。
 また、自動車以外の発生源については、炭化水素類は多くの産業の原材料、燃料として使用されているためその排出形態も複雑多岐にわたっているので、51年度において排出実態をは握するため、炭化水素類の排出が多い塗装、印刷、石油、石油化学を中心として、各業種において使用されている各種の設備について、炭化水素類の排出濃度等について実測調査を行った。また、排出抑制技術について学識経験者による専門的な検討を行うこととし、取りあえず固定発生源からの排出量の3分の2を占める塗装、印刷業の溶剤と石油及び石油化学工業の貯蔵施設を対象として検討を行っている。
 塗装、印刷工業については活性炭吸着、接触酸化装置等炭化水素排出除去装置を設ける方法のほか、塗料、印刷インキ中の有機溶剤の含有率の低下、水性化等、品質の改善により炭化水素の排出量を抑制することが考えられている。貯蔵施設に対しては排出除去装置を取り付けるほか、タンク屋根をフローティングルーフあるいはインターナルフロートタンクに改造する方法も考えられている。
 上記の排出抑制策のみでは対応しきれない場合には、溶剤等の場合、炭化水素の質を光化学活性の低いものに替えることも考慮し、炭化水素の光化学反応性についても検討を加えた。環境庁としてはこの検討結果等踏まえて、具体的な削減の方向を決定していくこととしている。


(3) 有害物質等に対する対策
ア 塩素水素ガスについては、塩素化エチレンの製造施設等の産業用施設について排出濃度80Mg/Nm
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(50ppm)の規制が実施されているが、廃棄物焼却炉より排出する塩化水素については、法規制が行われていなかった。環境庁では、廃棄物焼却炉からの塩化水素排出防止対策を検討するため、廃棄物の種類も多種多様であり、排ガス対策が比較的難しいことが予想される都市ごみ焼却炉について塩化水素の除去について専門家にも依頼し技術的検討を加え、50年3月報告書をとりまとめた。この報告書を基として、更に処理技術メーカー等についても調査を行い、廃棄物焼却炉に対する規制を行うこととし、排出基準値について検討中である。
イ 六価クロムについては、50年度に実施したクロム鉱さいに関する調査の結果がまとまり、51年11月に公表されたが、大気中の六価クロムは282検体中東京で1検体検出されたのみであり、その濃度も0.086μg/m
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と、諸外国において最も厳しい環境許容濃度である1μg/m
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と比較しても特に問題となる濃度ではなかった。なお、クロム酸製造工場は、全国に2工場あるが、これらの工場については自治体における条例により、敷地境界で1μg/Nm
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以下の規制が実施されている。
ウ 塩化ビニルについては、49年度、50年度の測定法の研究に引き続き規制を実施する際の参考とするため工場の測定を実施するとともに、加工工場からの排出は極めて微量であるという内外の知見から塩化ビニルモノマー、ポリマーの各製造工程における塩化ビニルモノマーの排出防止技術に絞って、専門家から研究会により検討を行った。
 環境庁としてはこの成果等を踏まえて、規制を実施することとしている。なお、アメリカでは、51年10月21日から規制が実施(適用は施行90日後、また、環境保護庁長官の許可を受けた施設は、2年間適用が猶予されることとなっている。)されているが、その内容は次のとおりである。
○ 塩化ビニルモノマー、ポリマーの製造に用いられる容器からの排出濃度10ppm以下
○ ポンプ類等付属設備については設備基準を設け、更に漏れるものについては処理装置を通した後排出することとし、その濃度は10ppm以下
○ オキシクロリネーション工程からのものは、二塩化エタンの製造量1kg当たり0.2g以下
○ 遠心脱水器前の残留モノマーについて規制
 (注1)
 ディスパージョンレジン 2,000ppm
 その他のレジン 400ppm
 (注2)
 ディスパージョンレジン:特殊な重合法による塩化ビニル樹脂
エ 大気中の鉛の健康影響については、中央公害対策審議会において、その前身である生活環境審議会公害部会での審議を引き継ぎ、46年より大気中鉛の環境基準の設定という観点から鉛に係る環境基準専門委員会を設け、検討を重ねてきたが、51年5月26日の同専門委員会の報告を適当と認め、8月13日に環境庁長官に答申した。答申では、大気中鉛濃度が現状程度に維持される限りにおいては人体に対して健康に好ましくない影響を及ぼすとは考えられないこと、また、現在の大気中濃度レベル以上のいかなる濃度において健康影響が生じ得るかについて十分に判明していないことの2点から現時点において環境基準を設定する必要が認められないとしている。しかしながら、交通頻繁な交叉点付近や鉛を排出する工場周辺等においては、大気中鉛濃度のは握に努め地域住民の健康に留意するとともに、自動車用ガソリンの無鉛化対策及び固定発生源に対する排出規制を継続する必要があるとしている。
 なお、我が国における都市の一般環境の大気中の鉛濃度の測定結果は、第2-2-15表のとおりであり、各種の対策の効果により、近年鉛濃度の減少傾向が著しい。
第2-2-15表 我が国諸都市における大気中鉛濃度の経年変化(μg/m
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