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第2節 

2 自動車排出ガス規制の経済的影響

 窒素酸化物による汚染については、地域ごとに相違があるものの、自動車排出ガスが与える影響が少なくないことから、国民の健康の保護を図るとの基本的立場に立って48年以来自動車排出ガス中の窒素酸化物に係る規制強化が図られてきた。乗用車については、50年度規制では平均排出量1.2g/km、更に51年度規制では等価慣性重量1,000kg以下の場合0.6g/km、1,000kgを超える場合0.85g/kmの規制が行われた。この結果、窒素酸化物の排出量は第3-13図に見るように、未規制時と比較して48年度規制では3割、50年度規制では6割、51年度規制では7〜8割削減されることとなった。
 このような窒素酸化物や、一酸化炭素、炭化水素に係る50、51年度排出ガス規制に適合するための費用増による乗用車価格の上昇は乗用車需要に影響を与えるものと考えられる。以下で50、51年度規制の経済影響について考えてみよう。排出ガス低減対策の費用としては排出ガス対策に伴う費用増による乗用車価格の上昇、燃費の悪化を考慮しなければならないが、ここでは資料上の規約から乗用車価格の上昇による影響だけに限定する。
 まず、乗用車価格上昇による51年の費用増を見てみよう。国産乗用車の国内販売台数は第3-14図のように推移しており、50年では269万台、51年では241万台であった。51年においては、全販売台数のほとんどが50、51年度規制対策車となっている。排出ガス対策による1台当たり自動車価格上昇を明らかにすることは困難であるが、50、51年度規制対策車の48年度規制対策車に対する価格上昇率を見ると、50年において約10%であった。この中には、原材料コスト、労賃コスト、利潤等の相異によるものも含まれるが、この価格差がすべて排出ガス対策の費用によるものと仮定した場合には、自動車産業全体で1,800億円(時価)程度の費用が増加したものと見込まれる(参考資料2参照)。
 乗用車価格の上昇が経済全体に与える影響は、第3-15図に見るように大きく2つに分けられる。
 第1は、乗用車価格の上昇によって乗用車の販売台数が減少することである。乗用車販売台数の減少は、更に乗用車の鋼板を造る鉄鋼業、タイヤを造るゴム製造業、カーラジオ、内装品のメーカー等に対する需要の減少につながる。
 第2は、排出ガス規制に適合するために、触媒などの付加的な部品に対する需要が増加することである。例えば、排気再循環(EGR)と酸化触媒を組み合わせたシステムによる排出ガス規制対策車の場合は、次のようなより精密な、又は付加的な部分が必要となる。エンジン本体部については、常に正確な比率の混合気をエンジンに送り込むためのオートチョーク付キャブレーター、加熱強化式マニホールドなどの部品の追加又は精密化を行っている。また、排気ガスの一部をエンジンに再循環するEGR装置を装着するとともに、一酸化炭素、炭化水素を無害な二酸化炭素、水蒸気に変化させる触媒コンバーターを装着する等である。これらの部品の増加は、その原材料、加工、製造等の他産業への需要を増大させることになる。
 更に、自動車需要の減少は、その他の財やサービスの最終需要を拡大するが、この効果を数量的に考慮することは困難であるので、以下の分析ではこの効果を含めないことにする。
 以上の2つの経済的影響を考慮すると、50、51年度規制対策車と48年度規制対策車の価格差10%が排出ガス対策による費用増と仮定した場合には、乗用車需要は台数で31万台、金額で1,980億円(48年価格、以下同じ)減少することが見込まれるが、一方、1台当たり10%の付加価値が増加するため、51年の販売車(241万台)全体で1,540億円の需要が増加することが見込まれる。この結果、自動車産業に対する最終需要の減少額は440億円となるが、更にこれが経済全体に及ぼす波及効果を産業連関表によって見ると、51年生産額の0.04%に相当する1,100億円だけ生産額が減少することになる(第3-16図)。
 また産業別に見ると第3-16図のように自動車産業で600億円(51年生産額に対する比率0.8%)減少するほか、一次金属で160億円(同0.1%)、自動車を除く機械産業で120億円(同0.03%)減少する。実際には、51年において自動車産業の生産額(7,950億円)は輸出の急増等によって、前年よりも1,160億円(対前年度比17%増)増加しているので、仮に50、51年度自動車排出ガス規制が行われていなかった場合には、更に600億円多い1,760億円(対前年度比26%増)増加したものと見込まれる。
 以上見てきたように、40〜50年かけて行われた公害防止投資及び50、51年度の自動車排出ガス規制の実施は、環境改善に対し大きな成果を収めてきたが、これらのマクロ経済に与える影響はそれほど大きいものではなかった。

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