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第2節 

1 公害防止投資の経済的影響

 昭和40年から50年にかけて民間公害防止投資の累計額は約5.3兆円(45年価格)であったが、この公害防止投資がこの間の日本経済に与えた影響について検討してみよう。
 公害防止投資が経済に与える影響については、大きな枠組として、投資に伴う費用増が価格面に与える影響と、投資のための需要増が所得面に与える影響との2つの側面が考慮されなければならない(第3-8図)。
 第1の価格面に与える主要な影響については、製品の需給関係によって異なるものの公害防止投資による費用増加が、その製品価格に影響を及ぼすこととなる。この製品を部分又は原材料として購入する産業の製品価格に影響を与え、更に最終消費財の価格にまで影響が波及する。これらの価格が上昇すると、各財の需要の価格弾力性の大きさに応じて、それぞれの需要を減少させる。この結果は、各産業における設備投資を減少させ、それが供給力の低下要因となる。
 第2の所得面に与える主要な影響については、公害防止投資はその投資をした産業の費用であるが、同時にその投資を受注した産業の需要増加となることである。更に、公害防止産業における需要増は公害防止設備の資材、部品の需要増となり、関連産業の投資を増大させ、供給力の増大要因となる。
 以上見たように、第1の効果は実質GNPを減少させる要因(価格効果)であるのに対し、第2の効果は実質GNPを増加させる要因(所得効果)である。公害防止投資の経済的影響を実態に即して論ずるためには、他に考慮すべき要因も少なくないが、2つの効果に焦点を当て、環境庁で開発した軽量モデルで、これらの効果を総合した結果を推定すると、その特徴は次のとおりとなる。
 第1に産業別の生産額については、第3-9図に見るように、40年から50年にかけて行われた公害防止投資によって、50年において金属機械産業6,800億円(45年価格)、一次金属1,600億円(同)の生産の増加を誘発したことになる。これらは50年の金属機械生産額の2.5%、一次金属生産額の1.0%程度に相当する。
 次に産業別の価格に与える影響を見ると、第3-9図に見るように、公害防止投資によって50年の価格指数(45年=100)が紙パルプ5.6%、窯業土石4.0%、化学3.7%、一次金属3.3%と上昇したことになる。
 次に各産業への所得面、価格面への影響を総合したマクロ経済に対する影響を見ると、第3-10図に示すとおり、50年において実質民間設備投資約7.4%増加、実質個人消費約0.4%増加、実質経常海外余剰約3,000億円(45年価格)の減少となり、実質GNPで約0.9%増加したことになる。
 これは、一般に所得効果が短期的に現れるのに対し、価格効果の方はかなり遅れて現れるからであるが、このことは同時に将来においては次第に価格効果の方が大きくなり、GNPを低下させる要因となることを意味する。
 消費者物価指数については、50年で170.4(45年=100)の水準にあったものを、公害防止投資によって約1.2%上昇させたことになる。これは40〜50年の年平均約8.3%の物価上昇率を8.4%に引き上げたことになる。
 また、卸売物価指数については、50年で154.2(45年=100)の水準にあったものを約1.7%上昇させたことになる。これは年平均では5.5%の物価上昇率を5.7%に引き上げたことになる。
 以上の試算結果を見る限り、公害防止投資の経済的影響は各産業ごとに異なるものの、マクロ経済に対しては、過去の高度経済成長過程において大きなショックとならなかったと考えられる。他方、これらの公害防止投資が環境保全に与えた効果は大きいものであったことがうかがわれる。公害防止投資が全く行われなかった場合には、例えば、硫黄酸化物の50年における排出量は、40年を100として190と推定されるにもかかわらず、実際の排出量はその約5割となっている(第3-11図)。
 これに対し、アメリカについては次のような試算結果になっている。
 45年から50年の6年間における公害防止投資の累計額は214億ドル(49年価格)であり、この間における民間設備投資の2.7%であったが、これがアメリカ経済に与えた影響は、アメリカ環境問題諮問委員会の報告によれば、第3-12図のとおり、実質GNPでは、前半、公害防止投資の所得効果によって公害防止投資をした方が実質GNPが大きくなるが、後半においては累積した公害防止ストックの価格効果によって、GNPが小さくなり、50年において実質民間設備投資3.3%増加、実質個人消費0.2%減少、実質海外経常余剰約2億ドル(49年価格)の減少となり、実質GNPが0.2%減少したことになっている。このようにアメリカの場合、我が国よりも価格効果が所得効果に比べて大きくなっているのは、我が国では最近において公害防止投資が急増したのに対し、アメリカではかなり長期にわたって漸増してきたために、過去の公害防止の資本ストック額が最近の公害防止投資に比べて大きく、長期的効果として現れる価格効果が強く働くことによるものであると考えられる。
 消費者物価指数については、50年で137.0(45年=100)の水準にあったものを公害防止投資によって1.2%上昇させたことになる。これは45年〜50年年平均6.5%の物価上昇率を6.7%に引き上げたことに相当する。
 卸売物価指数については、50年156.1(45年=100)の水準にあったものを1.5%上昇させたことになる。これは、年平均では9.3%の物価上昇率を9.6%に引き上げたことに相当する。

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