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第1節 地域別環境の特徴

 まず、公害に関する苦情件数によって地域の状況を見てみよう。
 公害に関する苦情については、公害等調整委員会において毎年全国的な公害苦情の発生状況が各都道府県市町村から回収された調査票に基づき集計されている。
 第2-1図は、昭和50年度における公害苦情件数を都市の規模別に比較したものである。
 これによると、50年度における全国の苦情件数に占める都市の規模別の件数の割合は、大気汚染及び騒音・振動については、特別区・指定都市及び人口10万人以上の市(指定都市を除く。以下同じ。)でそれぞれ67%、69%となっており、大きな都市において比較的多い。これに対し、水質汚濁については、特別区・指定都市が4%、人口10万人以上の市が24%、その他の市町村が52%、また、悪臭については、それぞれ20%、26%、39%となっており、都市の規模が小さくなるほど苦情件数が多いという傾向が見られる。
 第2-2図は、47年度から50年度までの公害の種類別苦情件数の変化を見たものである。
 50年度における苦情件数は、47年度に比べて全国では大気汚染21%、悪臭19%、騒音・振動16%及び水質汚濁5%の減少を記録している。これを特別区・指定都市、人口10万人以上の市及びその他の市町村の都市規模別に見ると、大気汚染ではそれぞれ25%、11%、24%の減少、悪臭ではそれぞれ35%、13%、5%の減少、騒音・振動ではそれぞれ26%、5%、10%の減少、水質汚濁ではそれぞれ35%の減少、6%の増加、4%の減少となっており、特別区・指定都市が著しい減少を示しているのに対して、指定都市を除く人口10万人以上の市が大気汚染及び騒音・振動については最も減少の割合が小さく、水質汚濁については増加を示していることが注目される。
 次に、大気汚染及び水質汚濁の代表的な指標であるSO2、NO2、BOD(河川)及びCOD(海域)について、地域の環境濃度の変化や地域ごとの特徴を「公害対策基本法」に基づく公害防止計画が策定されている地域のうち、50年度より前に計画が承認された第5次までの公害防止計画策定地域を中心に見てみよう。
 第2-3図から第2-6図までは、各汚染因子ごとに、第5次までの公害防止計画策定地域のうち、47年度(NO2は48年度)から50年度まで継続してデータが得られる測定局(水質は環境基準地点)のある約15地域について、継続測定局(水質は環境基準地点)の平均濃度(年平均値)の変化を見たものである。
 SO2については、おおむね各地域とも着実な改善が見られ、特に、47年度において濃度が比較的高かった地域は、濃度の低かった地域に比べ、おおむね高い改善の度合いを示している(第2-3図)。
 NO2については、相当数の地域においてわずかながら改善の傾向にあるが、各地域ともなお高い濃度にあることや一部の地域においては濃度が上昇していることから見て、今後とも改善へ向けての努力が必要であることがうかがわれる。
 特に東京、大阪等の大都市地域については、50年度においても相当濃度が高く、これらの地域の改善には格段の努力が必要である(第2-4図)。
 水質については、環境基準の類型に当てはめの行われた水域の環境基準地点の平均濃度について見たものである。
 河川(BOD)については、平均濃度で見ると、全般に改善の傾向にあり、また、海域に比べて環境濃度の改善の度合いが高くなっている。特に、47年度において濃度の高い地域は、一般に汚濁の程度の高いいわゆる都市内中小河川を擁しているが、その大幅な水質改善により、地域全体の平均濃度の改善度合いが著しくなっている(第2-5図)。
 海域(COD)については、濃度の変化は緩慢であり、水域により傾向を異にしている。三大湾について見ると、東京湾は改善の方向にあり、伊勢湾、大阪湾はやや悪化の傾向にあるが、三大湾とも依然として高い濃度にあり、大都市周辺の閉鎖性水域の水質改善の困難さがうかがわれる(第2-6図)。
 最後に、各地域ごとにSO2、NO2、BOD(河川)及びCOD(海域)の平均濃度及び環境基準に適合している測定局(水質については環境基準地点)の総数に対する割合(環境基準適合割合)を見ることにより、地域ごとの環境の特徴を見てみよう。
 第2-7図は、大気及び水質両方について公害防止計画が策定されている第5次までの25地域(第2部第1章第3節参照)のうち50年度における汚染状況の典型的なパターンを表す地域の汚染状況を見たものである。
 これによると仙台湾地域は4汚染因子とも全地域の平均濃度よりも低いという類型であり、富山・高岡地域、大分地域及び四日市地域もこの類型に属する。
 逆に、東京地域は4汚染因子とも平均濃度よりも高いという類型であるが、大阪地域、神奈川地域及び北九州地域も同じ類型に属する。
 一方、SO2、NO2が平均濃度以上で、BOD、CODが平均濃度より低いのが富士地域であり、反対にSO2、NO2が平均濃度より低く、BOD、CODが平均濃度より高いのが千葉臨海地域であるが、このほか、前者の類型に属するものとして神戸地域、後者に属するものとして苫小牧地域がある。
 また、25地域の平均に最も近い地域は、兵庫県東部地区となっている。
 最後に、これらの地域を環境基準適合という観点から見てみよう。
 50年度における25地域の環境基準適合割合は、SO273%、NO22%、BOD49%、COD68%となっており、全国のSO280%、NO28%、BOD59%、COD80%に比べて劣っているが、これを地域別に見て、代表的な類型を揚げたのが第2-8図である。
 これによると、4汚染因子とも25地域の平均適合割合より高いのが富山・高岡地域であるが、仙台湾地域もこの類型に属する。ただし、NO2の環境基準適合割合を除けば、大分地域及び富士地域は、その他の3汚染因子とも8割以上の適合割合となっている。
 逆に、4汚染因子とも平均適合割合より悪いのは大阪地域であるが、東京地域、神奈川地域及び北九州地域もこの類型に属する。
 また、25地域の平均適合割合に最も近い適合割合にある地域は神戸地域となっている。
 以上見てきたとおり、地域により環境の状況は様々であるが、特に人口及び産業がともに集中している大都市地域においては、苦情件数は着実に減少しているものの、大気汚染及び水質汚濁の主要な指標から見ると、なお一般に汚染の程度が高く、今後とも格段の努力が必要であることが認められる。


第2-3図 SO2

第2-4図 NO2

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