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第3節 

2 自然公園における自然保護

(1) 自然公園内における行為規制
 自然公園の優れた風致景観を保護するため、自然公園内に特別地域及び特別保護地区(都道府県立自然公園の場合は特別地域のみ)並びに海中公園地区を指定し(第6-3-1表参照)、当該地区内における風致景観を損なうおそれのある一定の行為は、環境庁長官又は都道府県知事の許可を受けなければしてはならないこととされている。また、普通地域においても一定の限度を超える行為を都道府県知事に届け出させ、必要な規制を加えることができることとされている。
 国立公園内の特別地域及び特別保護地区における行為の制限に係る環境庁長官の許可の状況を見ると、行為の種類別では工作物の新築、改築、増築、土石の採取が許可の大半を占めている。
 建築物等の工作物の新改増築や土石の採取等の行為については、従来その許否の判断は、個別的に行われてきたが、昭和49年11月これまでの運用の積み重ねを踏まえて共通の基準として定着してきたものを集大成して「国立公園内(普通地域を除く。)における各種行為に関する審査指針」を定め、50年4月1日から適用し、保護の適正化と事務処理の円滑化に努めている。
 以上のような許可等の運用に関し、問題となっている例について見ていくこととする。
ア 道路
 自然公園における道路の建設は、開削工事による地形、植生等の直接的改変や微気象の変化や自動車の増大に伴う騒音、排気ガス等による動植物への影響、利用者によってもたらされる廃棄物の増大、更には道路開通に伴う他の開発の誘発等種々の影響が予想され、論議を呼ぶことが多い。現在、自然公園内における道路建設について特に問題となっているものとして南アルプス・スーパー林道、八ヶ岳中信高原国定公園ビーナスライン有料道路等がある。
 これらについては自然環境保全審議会において審議中であり、環境庁の最終的な見解は自然環境保全審議会の意見を待って出されることになろう。
イ 地熱発電
 国産エネルギーの確保という観点から、地下のエネルギーを利用する地熱発電が脚光を浴びるようになってきている。地熱発電は、地下700〜1,500mの深部に賦存する蒸気をパイプで地上に取り出し、それをタービンまで導いて発電させるものである。そのような蒸気を容易に取り出せるのは、当然のことながら自然の噴気現象が見られる地域であるが、それは火山地帯、温泉地帯であり、実際上、自然公園等自然環境に恵まれた地域が大部分である。このような発電所を自然公園の核心地に建設することは、これら地域に大きな自然改変を生ずることになる。したがって、国立公園、国定公園内では一定の地点以外は認めていない。また、発電所自体が自然景観に与える影響とは別に地下から取り出される大量の熱水、ガス及びこれらに含まれる砒素等の有害な物質の放出による影響について懸念があるため、現在、井戸を掘って地下深部に注入還元させているが、それによってどのような影響があるかについては、更にモニター等による十分な調査検討を行う必要がある。
ウ ダム
 ダム建設は、ダム自体が巨大な工作物であるということもあるが、更に大面積にわたって自然の河川とその周囲の森林等が水没すること、工事により水没する人家、道路等の補修工事が新たな場所で行われること、ダム下流の流況が変化すること、水生生物に影響を及ぼすこと等の問題を伴う。洪水調節、農業用水、水道用水、発電等多目的ダムの場合は、単一目的の場合に比較して、通常1か所当たりの貯水容量も大きくなるため、それだけ影響を受ける範囲は増大する。そこで重大な影響を及ぼしそうなダム建設については、調査の段階、すなわち、「自然公園法」等に基づく地質調査のためのボーリングの許可申請書等の提出された時点で、想定されるダム建設について許否のめどをつけることとし、予定地周辺の現存動植物、河川流量、自然公園としての利用実態等の調査を事業者に行わせしめ、その調査結果を参考としながら許否を判断することとしている。


(2) 管理体制の強化
 国立公園内における風致景観を保護管理するとともに、公園事業者に対する指導、公園利用者に対する自然解説等広範な業務を行うため、阿寒、十和田八幡平、日光等主要な10公園には国立公園管理事務所を設置するとともにその他の地区については単独で駐在する国立公園管理員を配置し、管理の強化を図っている。
(3) 国立公園湖沼水質調査
 自然公園内の湖沼については、近年利用者の増大や施設の増加とともに水質の悪化も進みつつあるため、湖沼への排水について規制する必要が生じてきた。このため、環境庁長官が指定する湖沼については、湖沼への排水を規制することとなっており、46年度から湖沼の指定及びその後の排水基準設定の資料とすべく各湖沼の水質の現況をは握するための調査を始めている。
 50年度においては、丸沼、菅沼(日光国立公園)等の各湖沼について、その現況をは握するための調査を行った。
(4) 自然公園におけるごみ処理体制
 近年、自然公園においては利用シーズンには過剰利用の状況を呈しており、主要利用地域においては、空きかん等による汚染が目立ってきている。
 これらのごみについては、地理的特性から収集と終末処理が極めて困難であり、単に美観のみならず悪臭や二次汚染の諸問題を引き起こしている。
 国立公園内の総理府所管の集団施設地区とその周辺の美化については、従来から国立公園内集団施設地区等美化清掃事業を関係都道府県の協力の下に実施してきた。しかし、自然公園は日常生活圏の地域から遠隔地にあって地元市町村の清掃事業の実施が困難な状態にあること、また、当該利用地域が数市町村にまたがる場合が多いこと等により、その清掃活動の実施に支障を来している。そこで、特に利用者の多い主要な地域の清掃浄化を積極的に推進するため、都道府県に対し清掃設備の整備についての補助を行うとともに、現地において組織されている美化清掃団体が行う清掃活動について補助を行い、国立公園の清掃活動の円滑な推進に努めている。
 50年度においては、総理府所管の集団施設地区については、国の直轄事業により、それ以外の重要な地区については、清掃設備補助金及び清掃活動補助金を交付し、それぞれ国立公園内の清掃活動の一層の充実を図った。
(5) 自然公園内における自動車利用規制
 近年、自然公園内の優れた自然環境を有する地域への自動車の乗入れが増大したことにより、自然公園の保護と利用の両面にわたり種々の支障が生じてきている。
 例えば、自然保護の面では、道路の拡幅、駐車場の拡張等による地形、植生の改変、道路外への不法な乗入れによる植生の破壊、排気ガス汚染等による植生の衰弱、夜間の通行による動物の殺傷、生息環境の悪化等の種々の問題が生じている。
 また、自然公園の利用の面では、過剰な数の車の侵入により静穏な環境や安全な利用が損なわれたり、交通渋滞により計画的、効果的公園利用に支障を来す等の種々の問題が生じ、その対策が各方面から要請されている。
 このため、環境庁では、国立公園内における自動車利用の適正化対策を講ずることとし、49年度には十和田八幡平国立公園奥入瀬地区、日光国立公園尾瀬地区並びに中部山岳国立公園の上高地地区、立山地区及び乗鞍地区をモデル地区に選定し、警察等関係機関の協力の下に、マイカーのこれらの地区への乗入れを規制したが、50年度においては、前年度のモデル地区に富士箱根伊豆国立公園富士山地区を加え、前年度の実績を踏まえ、更に対策を充実した。
 各地区における自動車利用の適正化対策は、警察等関係機関の協力を得ながら、国立公園管理事務所を中心に地元関係機関、関係団体で組織されている対策協議会で各地区の特性に応じた適正化方針を定め、「道路交通法」に基づく交通規制や代替バス輸送などの対策が関係各機関により講じられているが、50年度においては、特に中部山岳国立公園上高地地区において、7月26日から8月24日までの間、中の湯から上高地へのバス、タクシー等を除く車両の乗入れを禁止するとともに、夜間はすべて車両の乗入れを禁止するという画期的な措置を講じた。
 このため、上高地一帯は、夏期の利用シーズン最盛期にも静穏な環境の下で、自動車に煩わされずに自然公園としての望ましい利用が行われた。
 また、その他の地区において講じられた対策の概要は、次のとおりである。
 十和田八幡平国立公園奥入瀬地区においては、国道102号線の夏期及び紅葉期の過剰利用に対処するため、渋滞箇所において交通整理及び駐車禁止を強化したほか、植生保護及び歩道利用者の安全、快適な利用確保のため、林内及び歩道上への車両進入防止施設を設置した。
 日光国立公園尾瀬地区においては、ほぼ前年度と同様の対策を実施したが、群馬県三平峠口においては、大清水においてすべての車両をストップし、三平峠以奥は、従来どおり徒歩利用とした。また、富士見峠口、鳩待峠口についてもそれぞれ対策を実施するとともに、福島県側のルートについては、特に過剰利用の著しいいわゆる「ミズバショウシーズン」に、沼山峠駐車場が満車の時点で御池で規制を開始し、代替輸送バスを運行させた。
 富士箱根伊豆国立公園富士山地区においては、スバルライン終点、五合目駐車場及び路傍駐車場の利用状況に応じ、入口ゲートで乗り入れる台数を規制し、また、車止め等の施設を設けることにより、駐車場以外の地域への車両の乗入れを禁止した。
 中部山岳国立公園乗鞍地区においては、前年同様、乗鞍スカイラインの鶴ヶ池、畳平を中心に夜8時から翌朝3時30分まで通行を禁止したほか、終点部の公共駐車場の利用状況に応じゲートでの乗入れ規制及び公共駐車場以外での駐車禁止、園路への乗入れ禁止などを強力に実施した。
 同公園立山地区においては、前年同様、山ろく桂台において美女平、室堂方面へのマイカー乗入れを禁止し、定期バス及び観光バスに限り乗入れを認めた。
 以上の対策を円滑に実施するため、各地区ともあらかじめ、事前の広報に努めたので交通規制によるトラブルはほとんど見られなかった。この結果、次第に自動車利用適正化対策の趣旨の浸透及び事前の広報の効果が現われ、マイカー利用者数が減少し、踏圧、盗採などによる自然植生の破壊の減少、育雛又は抱卵中のライチョウに対する威圧などによる野生鳥獣の生息環境の破壊の排除あるいは宿泊地周辺の静穏の維持、歩行者の安全確保、快適な利用の維持など直接的な効果が見られた。
(6) 特殊植物等の保全事業
 国立公園等内に生育している貴重な植物等であって、その保護を生育環境の保全と一体として行う必要のあるものの保護増殖対策を総合的に実施するため、尾瀬湿原(群馬県、福島県−日光国立公園)、大瀬崎ビャクシン樹林(沼津市−富士箱根伊豆国立公園)について植生復元、環境等調査、害虫駆除に要する経費を県、市に対し補助した。

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