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第1節 

1 自然保護のための負担の公平化の検討

 我が国においては、近年における急激な経済成長に触発された国土の開発により、自然破壊の現象が顕著になっている。
 このような現象に対し、自然保護の立場から歯止めをかける動きが見られるが、自然保護のための費用又は負担という問題についての具体的対処方策が未熟であったことが、自然環境の保全施策を推進していく上での最も大きな障害の1つになっていた。我々の世代に残された貴重な自然を損なわないように後代に伝えていくためには、それなりの費用又は負担が必要であること、そしてそれは、しかるべきルールにのっとって負担されるべきであることに対する国民的認識が薄かったために、自然破壊に対する有効な防備策が講じられず、自然破壊をもたらす一因となったことを十分反省する必要があり、このような自然保護のための費用負担のあり方について、早急に検討する必要が生じている。
 このため、環境庁では、自然環境保全審議会に本問題の検討をお願いしているところであるが、同審議会においては、自然環境部会の下に自然保護のための費用負担問題検討小委員会(小委員長都留重人一橋大学名誉教授)を設け、昭和49年11月以降審議を続け、51年1月に、同小委員会が取りまとめた中間報告素案をもとに部会中間報告を取りまとめた。
 同中間報告の要旨は次のとおりである。
(1) 総論においては、自然保護のための費用負担の妥当性について検討するため、自然の評価と分類を行い、その負担の原則的な考え方を明らかにしている。
 負担方式との関連において、自然を、
? 自然保護を中心として考えるもの
ア 絶対保護の対象であるもの
イ 相対保護の対象であるもの

(ア) 公共財的なもの
(イ) 利用者負担の可能なもの
? 生活の利便、産業開発を重視して開発を行うことに国民的合意が成立し得るものに分類できる。
 ?のアの範ちゅうは、例えば尾瀬湿原、沖縄県のノグチゲラのように、かけがえのないことに国民的合意が得られているものであり、その保護のためには、国、地方公共団体等による対策のあり方について検討することが必要となろう。
 ?のイの範ちゅうについては、いき値的考え方(一定の限界を定め、そこまでを許容する考え方)を採る必要がある。
 しかし、いき値的な考え方の導入が可能であるといっても、その判断基準の設定は非常に難しく、国民的合意をベースにした政治的、行政的プロセス及びその積み重ねが重要な意義を持たざるを得ないであろう。
 イの範ちゅうについては、その保護のためには、更に2つの範ちゅうに分けて考える必要がある。イ(ア)については、公共財的なものとして負担問題を考えるのが妥当であり、イ(イ)については、受益の態様に応じて受益者負担の方法を導入することが考えられる。
 ?の範ちゅうについては、開発者が緑化復元、緑地帯の設置、その他の環境保護に要する費用を負担し、例えば発電所の場合は、電気料金等を通じてその利用者が負担するのが原則である。
(2) 各論においては、自然保護と費用負担の問題について自然公園を代表例として取り上げ、負担の主体、負担の態様を分析し、その問題点と対策の方向を提示している。
 中間報告は、今後引き続き小委員会において問題を掘り下げ検討を深めていくために、これまでに提起された各種の問題点と提案を整理し、取りまとめたものであり、今後、残された自然公園制度以外の他の制度を含め、利用の形態、対策の方向について、なお検討を続けることとしている。

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