1 カドミウム汚染に係る健康調査
(1) 概況
従来からカドミウム環境汚染の要観察地域として宮城県鉛川、二迫川流域等7地域が定められており、健康被害発生の未然防止の見地から、経年的に地域住民の健康調査が実施されている。(第5-2-1表参照)。
また、要観察地域以外のカドミウム汚染が認められる地域においても同様の健康調査が広範に実施されている。
これらの健康調査により延べ792人がイタイイタイ病及びカドミウム中毒症に関する鑑別診断研究班において検討され、51年2月末現在、イタイイタイ病患者は発見されていないが、30人について要経過観察者等と判断されている。
これらの住民健康調査を通じ、カドミウム汚染地域においては、尿蛋白陽性率が、その他の地域に比べて高いということが注目されていたが、最近の研究成果によれば、カドミウム汚染地域においては、カドミウムによると考えられる腎尿細管障害があるという報告が出されていることから、従来の健康調査方法の再検討が行われ、腎尿再管機能障害をスクリーニングするためのより適切な方法を採用する方向で健康調査方式を改訂することが検討されている。
(2) 兵庫県生野鉱山周辺の状況
45年秋に行ったカドミウム汚染の一斉総点検の結果に基づき、兵庫県生野鉱山周辺地域で広範な地域住民健康調査が行われ、その調査結果については県の健康調査特別診査委員会において検討されたが、イタイイタイ病は認められないと発表された。その後、環境庁が日本公衆衛生協会に委託しているイタイイタイ病及びカドミウム中毒症に関する鑑別診断研究班においても検討が行われ、現在までのところイタイイタイ病患者の発生は認められていないが、7例について県で追跡調査を行い、異常があれば研究班に報告することとされた。
一方、48年3月及び49年3月の2回にわたり石崎金沢大学教授等から市川流域に計7人のイタイイタイ病の疑いのある患者がいるとの報告が行われた。
これらの症例のうち死亡した2例について病理解剖が行われたので、その剖検所見について兵庫県健康調査特別診査委員会において検討が行われ、49年12月末にその結論が取りまとめられた。この報告を受けて、環境庁では国としての立場から公正な検討を行うため、イタイイタイ病及びカドミウム中毒症の鑑別診断に関する研究部会に検討を依頼した。
(3) イタイイタイ病及びカドミウム中毒症の鑑別診断に関する研究部会における検討
50年2月24日、環境庁が日本公衆衛生協会に委託しているイタイイタイ病に関する総合的研究班のイタイイタイ病及びカドミウム中毒症の鑑別診断に関する研究部会が開催され、要観察地域のうち長崎県の17例と、兵庫県生野地区の例が検討された。
長崎県の17例については定型的なイタイイタイ病患者は認められなかったが、うち2例については、骨軟化症の有無を確認するための参考資料として骨生検を実施すべきであるとされた。更に全例について腎障害の存在が認められ、カドミウムとの関連が問題になったが、これについては49年度に実施された他のカドミウム汚染地域住民についての腎障害調査結果を待って総合して判断することとされた。
兵庫県生野地区の2例については、剖検及び臨床所見が検討された結果、病理学的には骨軟化症の存在は否定されたが、腎臓の異常所見は認められており、また、うち1例については臨床的には骨軟化症の所見ありとする意見もあるので、この2例について所見とカドミウムの関連についても、49年度に実施した他のカドミウム汚染地域住民についての腎障害調査結果の総合判断を待って、最終的に判定することとした。
更に、イタイイタイ病に関する総合的研究班は、50年3月15〜16日に開催された「イタイイタイ病に関する総合的研究会」の成果を踏まえ、50年5月18日及び8月8日に「兵庫県市川流域に発生した骨軟化症疑似症例に関する専門家検討会」を開催して兵庫県市川流域の骨軟化症疑似症例について詳細な検討を行った。以上の検討結果を踏まえ、51年2月2日に、同班のイタイイタイ病及びカドミウム中毒症の鑑別診断に関する研究部会が開催され、長崎県の昭和49年度及び昭和50年度カドミウム汚染要観察地域住民健康調査結果による20例及び兵庫県生野地区の2剖検例についてそれぞれ検討が行われた。
長崎県の20例については、定型的なイタイイタイ病患者は認められなかったが、1例については骨生検を行って骨軟化症の有無を確認することが望ましいとされ、また全例について腎障害の存在が認められ、カドミウムとの関連は否定できないとされた。
生野地区の剖検例のうち、1例については骨軟化症の存在が否定されたが、1例についてはX線写真所見及び血液化学的所見から骨軟化症の疑いを否定できないとする意見もあったが、整形外科学的及び病理学的には骨粗しょう症とされた。なお2例に認められた腎の異常所見とカドミウムとの関連については、更に疫学的調査を加えた上で検討すべきであるとされた。