前のページ 次のページ

第2節 

1 公害防止設備投資の現状

 第1節で見たように、我が国の戦後初めてのマイナス成長は、汚染物質の発生量を減少させる結果をもたらした。一方、企業の公害防止設備に対する投資にも不況による影響が見られるようになってきた。
 我が国の民間企業公害防止設備投資額(通商産業省所管業種、資本金1億円以上の企業を対象)は、第2-4図に見るように、昭和40年には、わずか297億円で、民間企業設備投資全体に占める比率も3.1%にすぎなかった。しかし、44年には、その額は1,000億円を突破し、更に、48年度には、設備投資比率も10%を超えるなど、設備投資の動向を左右する1つの要因となりつつあり、特に、近年の伸び(48年度の前年度比55.5%増、49年度同79.5%増)は、目覚ましかった。
 ところが、50年度(実績見込)は、1兆1,783億円と初めて1兆円規模に達したものの、その伸び率は27.8%と大幅に鈍化し、更に、51年度の計画額は、1兆982億円と、調査が始まって以来初めて前年度より減少を示し、設備投資全体に占める比率も16.1%となり、50年度の18.6%より低下を示している。
 これは、これまでの公害防止投資の中心であった排煙脱硫装置、重油脱硫装置等の設置が一巡したことや、不況の進展によって公害防止装置を伴う新規の設備投資が減少していることが大きな影響を与えていると見られる。
 これを業種別に見ても、50年度においては、調査対象17業種のうち、7業種が公害防止投資額そのものが前年度に比べ減少しており、51年度の計画額では、前年度に比べ増加しているのは鉄鋼、火力発電、非鉄金属の3業種のみで、残りの14業種は、すべて減少している。
 次に、民間企業公害防止設備投資の先行指標である公害防止装置受注額について見ると、不況による影響をより明りょうに示している。日本産業機械工業会調べの50年第4四半期の公害防止装置受注額は、974億円とこれまでのピークである49年第3四半期の2,253億円の半分以下となっており、50年全体で見ても、前年比29.3%の大幅減少を示した。特に、第2-5図に見られるように、民間需要の落込みは顕著(前年比47.1%の減少)である。これに対し、官公庁需要は9.7%、輸出需要は48.3%と各々前年比で伸びている。
 ここで、公害防止設備投資額の業種別の特徴を50年度について見ると、まず、投資規模では、鉄鋼が2,590億円で最大であり、これと火力発電、石油精製、化学、石油化学の上位5業種で、合計9,167億円と公害防止設備投資全体の78%を占めている。また、各業種ごとの設備投資額に占める公害防止設備投資額の比率では、火力発電が5割近い48.2%でトップであり、以下、石油精製、鉱業、化学、紙パルプ、繊維、石油化学という順になっているが、その比率は、すべて20%を超えており、これらの業種では、設備投資動向が、公害防止投資の動きによって大きく左右されることが分かる。
 次に、公害防止設備投資額の種類別内訳を46年度と50年度とについて見ると、第2-6図のようになるが、その特徴として、第1に、大気汚染防止施設への投資が常に大きいウエイトを占めていること、第2に、公害防止関連施設への投資割合が50年度は大きくなっていること、第3に、鉄鋼、化学は、どの施設にも比較的大きな投資をしていること、第4に、産業廃棄物処理施設への投資では非鉄金属、騒音振動防止施設への投資では火力発電、セメントというように、各々の業種の特性に応じた投資が行われていることなどが挙げられよう。
 なお、生産工程の転換(特に化学工業のうちソーダ工業の隔膜法への転換)、グリーンベルトなどの工場環境整備などを内容とした公害防止関連施設への投資割合は、46年度以来一貫して上昇している。これは、単に企業が汚染物質の処理や除去だけではなく、事前の予防にも、投資を行ってきていると見ることができよう。
 次に、公害防止設備投資とはやや性格が異なるが、民間企業の公害防止に対する費用の一部を構成する公害防除に対する研究費の推移を見てみよう。第2-7表に見るように、公害防除研究費は、46年度以降急激に増大してきたが、49年度には、前年度比11%の増加にとどまり、科学技術研究費全体に占めるシェアも3.5%に低下するなど、ここにも不況と規制の一巡の影響がうかがわれる。しかし、主要産業別に見るならば、研究費規模が圧倒的に大きい自動車工業及び総合化学工業、建設業の研究費が急激に伸びていることが注目されよう。
 このような民間企業における公害防止投資の現状に対し、公的部門における環境保全のための投資はどういう状況にあるかを見よう。
 まず、公共投資の部門別投資額の構成比の推移を見ると、下水道、廃棄物処理施設、都市公園等を事業内容とする環境衛生部門は、35年度では公共投資全体の2.4%にすぎなかったが、40年度には3.9%、45年度には4.1%となり、50年度(見込み)では6.7%にまで上昇している。これは、38年度に第1次下水道整備計画や清掃施設等を対象とする生活環境施設整備計画が策定され、更に47年度には第1次都市公園整備計画も策定されるなど、環境保全に対して計画的な施設整備が図られるようになってきたことが大きな要因となっている。
 次に、公共投資のみでなく、全体の環境保全経費等の推移を見ても、その増大が顕著となってきている。第2-8図のように45年度における国の環境保全予算は、829億円にすぎなかったが、51年度においては、その6倍の4,845億円に達している。特に、51年度の一般会計における環境保全経費の伸びは、前年度比27.8%増であり、一般会計全体の伸び14.1%増をはるかに上回っている。更に、国の財政投融資対象機関の公害対策関係事業費も、45年度のわずか303億円から51年度には3,852億円となっており、特に、51年度は全体の財政投融資の伸び14.1%増に対し、24.0%増と高い伸びになっている。このように一般会計、財政投融資を通じて環境保全に対し資金が重点的に配分されてきているのである。
 また、地方公共団体の公害関係経費決算は、45年度の3,735億円から、49年度には、1兆円を超える規模となり、地方公共団体の歳出額の5.2%に達している。

前のページ 次のページ