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第1節 

1 公害健康被害補償制度の実施

 経済の急速な拡大、都市化の進行等を背景に環境汚染は進行し、大気の汚染や水質の汚濁による健康被害の発生は大きな社会問題となってきている。
 公害健康被害者の救済については、昭和44年12月15日民事責任とは切り離した社会保障の補完的な役割を持つ行政上の救済措置として「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法」(以下「救済法」という。)が制定され、また、47年には「大気汚染防止法及び水質汚濁防止法の一部を改正する法律」(いわゆる無過失責任法)が制定されて民事上の見地からも被害者救済の強化が行われることとなった。しかし、救済法においては、逸失利益に対する補償がない等給付の内容が限定されているという問題があり、また、無過失責任法においては、民事訴訟という手段により損害賠償を求めるものであるため、その解決には相当の努力と時日を要するという問題があって、被害者の救済に万全を期するとはいい難い状況にあった。
 このような事情を背景として、中央公害対策審議会の答申(48年4月5日)に基づき、公害に係る健康被害者の迅速かつ公正な保護を図ることを目的とした「公害健康被害補償法」(48年法律第111号、以下「補償法」という。)が制定され、48年10月5日付けをもって公布された。また、同法の実施は公布の日から1年以内で政令で定める日とされ、その間政令等で具体的な事項を定めるため準備作業が進められた。
 なお、制度の費用負担面のうち移動発生源に係る費用の負担については、別に法律で定めるところによることとされていたが、49年度及び50年度においては自動車重量税の収入見込額の一部を引き当てるという方式を採ることとし、これに関する補償法の一部改正法が49年6月11日付けをもって公布された。
 制度実施のための具体的な細目の検討については、49年5月中央公害対策審議会に環境保健部会が設置され、同月環境庁長官から同審議会に「公害健康被害補償法の実施に係る重要事項について」という諮問がなされ、同部会で検討が進められたが、8月に、諮問事項に対する答申が行われた。この答申を受けて、政令、府令等が定められ、9月1日から制度実施の運びとなった。
 補償法の施行に伴い、従来の救済法は、45年2月に実際の給付が開始されて以来、4年有余の歴史を経たのち、新制度に引き継がれ、発展的解消を遂げることとなった。
 なお、この制度の実施に関する環境庁の組織機構として、49年7月、企画調整局に環境保健部が設置されている。

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