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第7節 

1 水銀汚染

(1) 経緯
 政府は、水銀による魚介類及び環境汚染問題の広域化かつ深刻化に対処するため、昭和48年6月12日に水銀等汚染対策堆進会議を設置し、環境基準の改定、排水基準の強化、工場に対する点検、水銀の排出抑制、漁民等に対する救済、へドロ除去対策の推進、環境調査及び健康調査の実施等の諸対策を行ってきた。
(2) 水銀汚染対策
ア 環境調査の実施等
 全国的な環境調査として、48年度に、これまでの各種の調査で高濃度に水銀を含有した魚介類が発見された水域、水銀取扱工場及び水銀鉱山の周辺水域等において、魚介類、水質、底質及び土壌・農作物の調査を行った。このうち、9水域(水俣湾、八代海、有明海、徳山地先、新居浜地先、水島地先、氷見地先、魚津地先、酒田港内)については、48年11月に、またその他の水域については、49年9月に調査結果が公表された。これらの調査結果の概要は、次の?から?までに述べるとおりである。
? 魚介類
 魚介類調査は、全国47都道府県の268水域において、魚介類303種類の22,403検体、プランクトン616検体、合計23,019検体について行った。この結果、水俣湾の23魚種中5魚種、徳山湾の28魚種中5魚種、直江津地先海域の14魚種中4魚種、更に、鹿児島湾湾奥部においても19魚種中5魚種がその暫定的規制値を超えていた。これらの水域のうち水俣湾及び徳山湾においては全魚種について、直江津地先海域及び鹿児島湾湾奥部においては一部魚種について、魚獲の自主規制が行われている(第4-7-1表)。なお、直江津地先海域及び鹿児島湾湾奥部においては、魚介類の調査を引き続き行うとともに、その汚染原因について詳細な調査を行っている。
 また、河川においても、9河川(渚滑川、常呂川、無加川、赤川、櫛田川、宇陀川、芳野川、名張川、川棚川)の河川魚が暫定的規制値相当を超えていた。川棚川以外の8河川においては、既に、過去の調査の結果から、流域住民に対する食事指導が行われており川棚川も追加された(第4-7-2表参照)。これら9河川においては、その汚染が自然的要因によることも考えられるが、底質における汚染等によることが認められるので、更に詳細な調査を行って原因と対策の効果を明らかにし、必要に応じ発生源の対策、底質の除去等の環境浄化対策を講ずるとともに、その間、引き続き魚介類の定期的調査を行うこととしている。
? 水質
 水質調査は、全国47都道府県の634水域の3,768検体について行った。49年9月30日に改定された総水銀に係る環境基準値を超えたものは、2.0%の76検体であり、9水域関連分を除く523水域の3,081検体中環境基準値を超えたものが1.8%の56検体、9水域関連分の687検体中環境基準値を超えたものが2.9%の20検体である。環境基準値を超えた検体に係る水域は、第4-7-3表のとおりであり、これらの水域においてその原因を明らかにし、所要の対策を講ずることとしている。
? 底質
 底質調査は、全国47都道府県の635水域の5,186検体について行った。水域ごとに定められる底質の暫定除去基準値を超えるものは、25水域の120検体(全体の23%)であり、9水域関連分を除く、523水域の3,780検体について見ると18水域(3.4%)の69検体(1.8%)である。なお、県市単独調査により、12水域の570検体中暫定除去基準を超えたものが2水域の138検体(全体の24%)である。底質除去等の対策を要する水域は、第4-7-4表のとおりであり、既に除去等の工事を完了したもの及び現在除去等の工事中のものが大部分である。その他のものについても、詳細な調査のうえ速やかに除去等の対策を講ずることとしている。
 なお、底質汚染の除去等にあたっては、2次汚染の発生防止に努める等慎重に実施するよう指導を行っている。
? 土壌農作物等
 土壌調査は、47都道府県の一般調査469地点、23都道府県の水銀取扱工場周辺58地域の詳細調査238地点の合計707地点について調査を行った。土壌中の総水銀濃度は、一般調査では、総水銀がND〜5.36ppmであり、大部分が1.5ppm以下であった。また、詳細調査では、総水銀が0.07〜6.7ppmであり、その大部分が1.5ppm以下であった。なお、有機水銀についても分析したが、メチル水銀、エチル水銀ともほとんど検出されなかった。
 農作物等調査は、一般調査464地点、詳細調査238地点の合計702地点の調査を行った。玄米中の総水銀の濃度は、一般調査では、ND〜0.17ppmであり、その大部分が0.01ppm以下であった。詳細調査では、総水銀がND〜0.12ppmであり、その大部分が0.01ppm以下と一般地域に比較して必ずしも高くはなかった。なお、有機水銀についても分析したが、メチル水銀、エチル水銀ともほとんど検出されなかった。
 今回の調査では土壌中の水銀は農作物に吸収され難く、土壌中の水銀濃度が増加しても農作物の水銀濃度は増加するとは限らないことが裏付けられたが、土壌中の水銀濃度が比較的高い地域については、引き続き土壌農作物の調査を実施するとともに、水銀の分布、汚染経路等を明らかにし、必要に応じ排出源対策を講ずる必要がある。
イ 水銀に係る環境基準の改定等
 アルキル水銀及び総水銀に係る環境基準及び排水基準は、当時妥当とされた測定方法により、魚介類又は飲料水の摂取による人体影響等から判断していずれも「検出されないこと」(定量限界は、アルキル水銀で0.001PPm、総水銀で0.02ppmである。)と定められていたが、その後、水銀に係る魚介類の暫定的規制値が定められたこと、48年度の全国環境総合調査等により環境汚染と魚介類汚染に関するデータが増加し、その関係の考察が可能となったこと、分析技術の進歩と分析機器の普及に伴い、低濃度の分析が可能となったこと等の科学的知見が拡大して来たので、49年9月30日に改定強化した。
 すなわち、その環境基準については、生物濃縮比を考慮し、総水銀にあっては、年間平均0.0005ppm以下であること(ただし、河川において自然的原因によりこれを超える場合には、年間平均0.001ppmまで許容できるものとする。)、アルキル水銀にあっては「検出されないこと」(定量限界0.0005ppm)としている。また、排水基準については、総水銀にあっては0.005mg/リットル以下であること、アルキル水銀にあっては、「検出されないこと」(定量限界0.0005mg/リットル)とした。
ウ 健康調査の実施
 48年5月、熊本県の委託を受けて研究を行っていた熊本大学第2次水俣病研究班が、熊本県有明町に水俣病様患者がいるとの報告を行い、いわゆる第3水俣病の問題が提起された。環境庁では有明海沿岸4県及び山口県に対して必要な指導、助成を行い、沿岸住民9万7千余人を対象とした健康調査の実施を図った(第4-7-5表参照)。健康調査の結果については水銀汚染調査検討委員会健康調査分科会において、48年8月から49年7月までの間にわたり慎重な検討が行われた。その結果「過去に水俣湾で海上生活をしていた者1人を除き、現時点では水俣病と診断できる患者は見いだせないと判断する」旨の結論がまとめられた。
エ 排出源の状況
 新たな汚染を防止するため、排水及び廃棄物の適正な処理及び処分が必要である。
 排水については、46年5月に「水質汚濁防止法」に基づく排水基準を定め、全国的に厳しく規制したことにより、著しく改善された。なお、分析技術の進歩等により、49年9月に、産業廃棄物の判定基準とともに排水基準を強化した。
 廃棄物については、46年9月に「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づく保管基準及び処分基準を定めた。これ以前のものにあっては、主として工場敷地内に、一部は敷地以外に、保管、埋設され、そのほとんどが周辺水域等の水質の状況から判断して問題ないと認められる。更に、一部については、コンクリート、粘土等で被覆して、降水時等の浸透及び流出防止を図る等の対策を推進することとしている。

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