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第5節 

1 瀬戸内海の汚濁の現況

 瀬戸内海においては、工業用地の造成に適した遠浅の海岸が多いこと、2千万人以上の沿岸人口を擁した内湾として工業の立地条件に恵まれていたこと、また、昭和30年以降工業化の推進による所得の増大を目指して、工業誘致の気運が極めて強かったこと等により、高度経済成長の時期を通じてコンビナートの形成を中心に重化学工業化が推進されてきた。これに伴い、工場排水等の増大により、瀬戸内海の水質が急速に悪化してきた。第3-5-1表は、それほど工業化が進んでいなかった20年代後半における水質と最近における水質を比較したものであるが、水質汚濁の一般的判断の指標となっている透明度が低下し、窒素についても、その合計の数値が高くなっているなど、瀬戸内海の水質汚濁が進行したといえる。
 「水質汚濁防止法」が46年6月に施行されたことに伴い、瀬戸内海においても同法に基づき主要な工場地帯周辺水域及び都市周辺水域に上乗せ排水基準が設定され、監視取締体制も整備されてきた。この結果、第3-5-2表のとおり主要な工場地帯地先海域のうち水質が改善されてきているものも多くなってきている。また、「瀬戸内海環境保全臨時措置法」が48年11月2日に施行され、51年11月までに段階的に産業排水に係るCOD汚濁負荷量を47年当時の2分の1にするため、上乗せ排水基準の設定又は強化の措置が採られているので、工場地帯地先海域等にあっては今後水質の改善が期待されているところである。
 ところで、環境基準の監視調査の結果を見ると、第3-5-3表のとおり、有害物質が環境基準値を超えて検出される割合は、全国的に改善が進み、48年度において0.23%まで低減した。瀬戸内海においては、46年0.22%、47年0.21%、48年0.22%と全国平均に比べ低い水準で推移している。また、瀬戸内海における河川のBOD並びに海域及び湖沼のCODの環境基準の達成状況は、河川のBODにあっては47年度の64%から48年度の58%に低下し、海域のCODにあっては46年度の70%から47年度の83%に増加したが、48年度には80%とやや低下している。湖沼のCODにあっては、46年度から順次増加しており、48年度には82%と高い達成状況になっている。これは、48年度において、全国的に渇水状態で河川流量が少なかったこと、環境基準の類型指定がなされる湖沼が年々増加し、新たに類型指定された湖沼の環境基準の達成状況が比較的に高かったこと等によるところが大きい。なお、48年度の瀬戸内海における環境基準に適合する水域割合は、全国におけるその割合と比較すると、海域及び河川で低い割合であるが、湖沼で高い割合となっている。
 各水域におけるCOD又はBODの測定水質の年間平均と環境基準値を比較すると、第3-5-3表の(3)のとおり、河川においては年々環境基準に適合している水域の割合が微増しており、海域においては46年度の60%から47年度の80%に増加し、48年度には79%と横ばいとなっている。また、湖沼においては、48年度に新たに環境基準の類型指定された2湖沼が環境基準に適合していたことにより、46年度の0%から48年度の33%に増加している。
 また、47年以降実施している瀬戸内海総合調査の結果からそのCOD濃度ごとの面積比率の変化を見ると1ppm以下の面積比率が47年以降減少している反面、1.1ppm以上の面積比率が増加しており、特に、3.1ppm以上の漁業に不適当な水域が49年に14.1%とかなり高い面積比率になっており、水質の改善が望まれるところである(第3-5-4表参照)。
 このように瀬戸内海のCODで表わされる水質は、工場地帯の地先海域において水質が改善されているが、測定点及び測定頻度の増加、水質の年次変動等もあって環境基準の監視調査及び総合調査の結果から水質改善の傾向を見いだすに至っていない。
 なお、瀬戸内海の赤潮発生件数を見ると、第3-5-5表のとおり、被害を伴う赤潮の発生件数の比率が低下しているものの、その発生件数が年々増加しており、監視通報体制の整備による増加を差し引いても依然として瀬戸内海の一部で富栄養化が進行しているものと見られる。栄養塩類は、微生物を媒体として、次第に水域内に蓄積し、不可逆的な富栄養化を促進する傾向があり、赤潮プランクトン等の生物の異状発生を起こし、2次的な有機汚染の原因となっている。
 また、瀬戸内海における石油輸送量の増加に伴い、タンカーの事故、廃油類の不法投棄等に起因する油による海洋汚染の発生件数が増加しており、瀬戸内海の油汚染問題が深刻化している。特に、49年12月に水島コンビナート地区において発生した石油タンク事故により流出した油は、瀬戸内海の水島灘一帯、播磨灘西部から紀伊水道にまで拡散し、漁業等に重大な被害を与えたが、閉鎖的な海域で起こっただけに、流出油は海岸に漂着、水中に分散あるいは海底に沈降し、長期にわたり、生態系に悪影響を及ぼす等のいわゆる後遺症が残ることも懸念され、調査を継続中であるが、あらためて石油の流出事故が起こった場合の環境へ与える影響の重大さを広く国民に印象付けることとなった。
 このように瀬戸内海における水質汚濁は、有機物による2次的な汚濁及び石油の流出等の突発的な事故によりむしろ深刻化している。

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