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第3節 

1 排出規制の強化

(1) ジーゼル事の窒素酸化物等の規制
 軽油を燃料とするジーゼル車の新車に対する排出ガス規制は、47年7月からジーゼル黒煙について実施されているが、窒素酸化物、一酸化炭素及び炭化水素については未規制であった。ジーゼル車の大気汚染への寄与は少なくないので、窒素酸化物に重点を置いて現在の防止技術で可能な限りの許容限度を設定し、49年9月から規制を実施している。
 測定方法はジーゼル用6モードで、許容限度は、窒素酸化物590ppm(直接噴射式のものは1,000ppm)、炭化水素は670ppm、一酸化炭素980ppmである。この規制によって、ジーゼル車の排出ガスの量は、規制前の生産車に比べ窒素酸化物について20%、一酸化炭素について5%、炭化水素について10%がそれぞれ低減される見込みである。
(2) 使用過程車の炭化水素等の規制
 使用過程車の排出ガス対策としては、ガソリン又は液化石油ガスを燃料とする自動車について45年8月以来アイドリング時の測定による一酸化炭素の濃度規制(許容濃度は4.5%)が実施されている。
 更に、50年1月から乗用車、バスを、6月からはトラックを対象としてアイドリング時の測定による炭化水素の濃度規制が加えられた。許容限度は、2サイクル・エンジン車7,800ppm、原動機が特殊な構造の車3,300ppm、その他の車1,200ppmである。
 また、50年1月から使用過程にあるジーゼル車の黒煙の規制も実施されている。
(3) 51年度排出ガス規制
 47年10月中央公害対策審議会から「自動車排出ガス許容限度長期設定方策について」の中間答申がなされ、このなかで、我が国の特に都市における大気汚染の深刻な状況にかんがみ、米国の1970年大気清浄法改正法(マスキー法)の予定する1975年及び76年自動車排出ガス規制と同程度の規制を我が国においても行うべきであるとの結論が示された。その内容は、50年4月以降に生産される自動車の許容限度の設定目標値を乗用車を基準として平均排出量において1km走行当たり、一酸化炭素2.1グラム以下、炭化水素0.25グラム以下、窒素酸化物1.2グラム以下とし、また、51年4月以降に生産される自動車の窒素酸化物の平均排出量を1km走行当たり0.25グラム以下とするものである。
 この答申を受けて、50年4月から実施される自動車排出ガス規制の基準となる自動車排出ガスの量の許容限度は、49年1月環境庁告示第1号で設定されるとともに告示された許容限度が確保されるよう規制を実施するため、道路運送車両の保安基準等の改正が行われた。この結果、48年度規制に比べ、乗用車については、平均排出量で一酸化炭素89%、炭化水素91%、窒素酸化物45%、軽量バス及び軽量トラックについては一酸化炭素29%、炭化水素28%、窒素酸化物17%、それぞれ低減される。
 51年度規制は、50年度規制に比べ乗用車の窒素酸化物を更に約5分の1に低減させるものであるが、この規制に対応する自動車メーカーの技術開発状況をは握するため、49年6月に自動車メーカー9社及び日本自動車輸入組合に対するヒヤリングを実施した。その結果は、各社とも51年度規制の対策技術はまだ実験室的段階を出ていない状況であり、この段階でも目標値を達成できていない社がほとんどであった。このため、8月3日中央公害対策審議会大気部会を開催し、51年度規制に関する防止技術の開発状況等について審議を依頼した。大気部会自動車公害専門委員会は、8月9日から12月5日まで自動車メーカーにおける研究、開発状況の視察を含め16回にわたる審議を経て、次の趣旨の報告を大気部会に提出した。
? 窒素酸化物に係る51年度における自動車排出ガスの許容限度設定目標値(生産車の排出量の平均値をいう。以下「当初目標値」という。)1km走行当たり0.25グラムを達成するため、還元触媒方式、トーチ点火方式、ロータリー・エンジン方式など各種の防止技術システムの研究、開発が進められており、実験室的段階では一応当初目標値を達成しているシステムもあるが、耐久性、信頼性、安全性などの基本的要件に照らした場合、実用面でのシステムの完成はいまだしの状況であり、ごく近い将来これらの技術的問題が解決されるという見通しも得られていないこと。
? 窒素酸化物排出防止技術の開発状況及び生産のためのリードタイムを考慮すると、等価慣性重量1,000kg以下の車種では窒素酸化物排出量(平均値)を0.6グラム/km程度に押えることは可能であり、等価慣性重量1,000kgを超える車種については最も厳しい場合でも0,85グラム/km程度であること。
? 当初目標値を実用段階において満足する防止技術システムは、現在まだ開発されていない上、かかる防止技術システムがいつ実現するかについては、その具体的見通しないし予測も立て難いというのが現状であるが、現時点において当初目標値の達成が不可能であると断定することもできない以上、取りあえず53年度を目途に技術開発を促進させること、及び技術開発の状況について逐次その評価を行うことにより、その達成を図るべきこと。
 これを受けて、49年12月10日、大気部会は答申案を決定し、中央公害対策審議会会長に報告したが、さらに12月17日の総会、12月27日の総合部会において審議され、その結果次の趣旨の答申がなされた。
? 自動車公害専門委員会の報告のとおりとすることが技術開発の現状から見てやむを得ないこと。
? 当初目標値は、53年度には必ず達成を図るよう努めるべきであり、このため自動車メーカーが排出ガス防止技術開発に努めるとともに、政府はできる限りの資金上及び技術上の援助措置を講ずるほか、自動車排出ガスに関連する基礎的研究を推進すること。また、技術開発状況を逐次評価し、チェックする体制を整備すること。
? 低公害車の開発と普及促進を図るため51年度規制適用車について、窒素酸化物排出量を0,6グラム/kmを基準としてその上下に十分な格差を設けること。また使用過程車から新車への代替を促進するため、使用過程車と規制適合車種の間に税制上十分な格差を設けること。
? 50年度及び51年度規制の対象外であるジーゼル車、小型トラックなどの排出ガス規制の強化を速やかに行うこと。
? 過密都市における大気汚染の改善のため自動車交通量の抑制について政府として抜本的対策を検討する必要があるが、当面、駐車規制の強化、バス優先(専用)レーンの拡大など実行可能な方策から実施すること。
 この答申に沿って、乗用車の窒素酸化物の許容限度を強化するため、環境庁は、50年2月24日自動車排出ガスの量の許容限度(昭和49年1月21日付け環境庁告示第1号)を改正した(第2-3-1表参照)。これに伴い、運輸省は道路運送車両の保安基準を改正し、51年4月以降に自動車の型式指定又は排出ガス発散防止装置の型式認定を受けた新車については同年4月から、同年3月以前に型式指定又は型式認定を受けた新車については継続生産車として52年3月から(輸入車について53年3月から)、それぞれ実施されることとなった。次に、答申に指摘された技術開発の促進、税制上の措置、自動車交通量の抑制などの対策については、50年1月17日自動車排出ガス対策閣僚協議会が設置され、鋭意検討が進められている。


(4) ガソリンの無鉛化対策
 45年、東京牛込柳町において自動車排出ガスによるといわれたいわゆる鉛公害問題が発生した。これを契機として、ガソリンの無鉛化を推進すべく産業構造審議会公害部会自動車公害対策小委員会において検討した結果、49年9月27日に、通商産業大臣に対しその具体的な実施に関する基本方針の答申が行われた。同年9月30日、通商産業省は、実施の基本方針を決定し、関係各省庁の協力の下に、
? 50年2月1日からレギュラー・ガソリンの生産において鉛を添加しないこととし、
? ユーザーに対する対策の一環として、自動車については、ガソリンの使用上において注意選択を示す4種類〔(i)無鉛、(ii)高速有鉛、(iii)混合、(iv)有鉛〕のコーションラベルを、また、農林業機械及び土木建設機械等についても、自動車に準じて貼付するよう指導を行った。
 なお、自動車用ガソリン中の加鉛量推移は第2-3-2表のとおりである。

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