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第2節 

1 環境影響評価

(1) 各種の開発事業を進めるに当たってはこれらの事業が環境に悪影響をもたらさないように、あらかじめこれらの事業が環境に及ぼす影響の内容、程度について十分な科学的評価を行うことが、公害の未然防止を図る上で極めて重要である。このような考え方は、昭和47年6月の閣議了解「各種公共事業における環境保全対策について」において政府の方針とされ、その後この方針に従って環境影響評価が推進されてきたところであり、各種の法令においてもこのような考え方に基づき、関係規定の整備が図られてきた。
 良好な環境を維持するため、開発事業を進めるに当たり環境影響評価を十分に行うことについては、国民の期待と関心は近時極めて大きいものがあり、その制度的確立に対する要請も、漸次高まってきている。
 また、国際的な場においては、49年11月、パリのOECD本部において環境担当閣僚会議が開催され「環境政策に関する宣言」が採択されたが、その第9項において「将来の環境悪化を防ぐために、重要な公共及び民間の活動が環境に与える影響を事前に評価することは、国家的、地域的及び地方的水準に適用される政策の不可欠の要素である」とうたっている。また上記宣言の精神を踏まえて緊急に行動を必要とする10の分野について理事会勧告が行われたが、その1つである「重要な公共及び民間事業の環境への影響の分析」についての勧告は、環境の質に大きな影響を与えると思われる重要な公共及び民間事業の環境に対する影響を予測し、明確にするための手続及び方法を確立すること並びに企図された計画ないし事業の環境の予想及び明確化に役立つ環境問題についての情報を交換することを勧告する等、環境影響評価の重要性に関する認識は、国際的にもますます高まりつつある。
(2) このような状況の下において、中央公害対策審議会防止計画部会は、48年6月環境影響評価小委員会を設け、同小委員会は環境影響評価を行い又はこれを審査するに当たっての運用上の問題点を整理検討し、49年6月、「環境影響評価の運用上の指針について」と題する中間報告を行った。
 同中間報告の概要は、次のとおりである。
 まず「環境影響評価の意義」の項においては、ア、環境影響評価を通じて環境保全上の保証が得られない限り、開発計画が実行に移されてはならないこと、イ、我が国においては確保すべき環境保全水準を適切に設定してできる限り客観的立場で評価することが特に必要であること、ウ、予測の実施時期とその精度は密接に関連し合うので、影響評価は政策決定の段階ごとに行われる必要があること及び諸々の要因により予測の科学性に限界があり、再評価、事後の常時監視あるいは追跡調査が重要であることを提言している。
 次に「環境保全水準」として、ア、環境基準の定められているものは、その基準を環境保全水準とすること、イ、環境基準の定められていない物質や公害現象に対しても必要に応じ適切な暫定保全水準を設定して評価すること、ウ、自然環境の保全については、その自然環境の価値を区分し、全国的レベルあるいは地方的レベルに相当するものはこれを保全し、県的レベルあるいは市町村的レベルに相当するものは、影響の最小化に努めることを提言している。
 更に、「基礎的情報の整備と環境影響の予測」の項においては、気象、水象等自然的諸条件に関する基礎的情報の整備の重要性と予測項目、予測方法等についての基本的事項と科学性の充実を図ることを提言している。
 最後に、資料「環境影響評価項目」として、開発主体者が、環境影響評価を行うに際して必要とする記載事項及び調査報告事項等を示している。その第1部は、開発前の状況をできる限り物理的、化学的、生物的に記録することを目的に項目が整理されており、第2部は、開発計画における環境保全上の対策、計画及び開発計画が実行された場合の環境質の変化予測を主体として項目が整理されている。
(3) また、適切な環境影響評価制度を確立するため、49年12月中央公害対策審議会に環境影響評価制度専門委員会を設け、現行制度の下における環境影響評価の運用の実態、技術手法の手続面への取り込み方、各種の開発事業に関する環境影響評価と地域住民との関係等を検討した。
(4) このほか、環境影響評価に関して指導及び審査を充実させるため、49年7月1日、環境庁企画調整局環境管理課に環境審査室を設置するとともに、自然保護、大気保全及び水質保全の各局にも、2名ずつ環境審査官が配置された。
 環境審査室及び審査官は、各種公共事業のうち、運輸大臣の公示事項である重要港湾の港湾計画の策定に際し、港湾審議会の場で、また主務大臣の認可を要する公有水面の埋立免許に際し、「公有水面埋立法」の手続により、それぞれ計画主体又は事業主体において実施した環境影響評価について審査を行っているほか、電源開発計画の決定、臨海工業団地の処分管理計画の届出に際し、各事業主体等が行った環境影響評価を審査している。
(5) 上記のごとく環境影響評価は、漸次具体化されつつあるが、技術上の制約あるいは制度面の検討が始められて日が浅いこと等から、環境影響評価を技術的にも制度的にも確立するには、大きな努力を要することと言わざるを得ない。そのためには、制度の方向付けや手法の開発が急務となっており、この点に関し、49年度において実施された主な調査研究等は次のとおりである。
 環境影響評価の制度に関するものとしては、諸外国における環境影響評価に関する実態調査がある。この調査は、我が国の風土に適した制度の定着を図る上において参考とするため、諸外国の立法例、更にはその運用の実態等を十分は握しようとするものであり、アメリカ、西ドイツ及びスエーデンの3国について実施した。
 また、技術手法に関する調査研究としては、第1に環境アセスメント再評価手法開発調査がある。これは、大気汚染環境影響評価における拡散シミュレーションの信頼性についての知識を得ることを目的としたものである。
 第2は、48年度に引き続いて実施した都市型大気汚染に関する環境影響評価手法の研究である。49年度は、札幌、広島の2都市を調査対象地域とし、都市における複雑な大気汚染機構を実態調査に基づくモデル化により解析、評価し、今後の都市における大気汚染防止のあり方を明らかにしようとするものである。
 第3は、同じく48年度に引き続いて実施した水質変化予測に関するシステム化を目的とする調査研究である。48年度においては、水の自浄作用の定量化のための基礎的調査研究を実施したが、49年度においては、主として水域の水利用目的及び汚濁負荷のは握方法を調査検討するとともに、それらに関連する水質汚濁指標の解析を行った。
 第4は、航空機、新幹線鉄道、高速道路、港湾建設等の公共事業に係る環境影響評価手法の開発調査である。これに関して49年度は、運輸省において設置されている環境アセスメント手法開発調査委員会が、48年度に開発した環境システムマトリックスを用い、空港建設に関する環境影響評価手法の実用化を目的とした調査を実施した。
 第5は、工場立地に関して、「工場立地法」に基づく産業公害総合事前調査の一環として、49年度は窒素酸化物の拡散予測手法、生態系影響調査手法等の開発を行った。
 その他、道路.河川、住宅、都市計画等の公共事業における環境影響評価手法の開発と調査研究体系の設定を目的として、建設技術開発会議の中に環境アセスメント手法部会が設置され、審議が始められたのをはじめ、関係各省庁において、それぞれの所管に係る問題についての環境影響評価予測手法の開発等が進められている。

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