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第1節 

1 汚染防除費用

 汚染防除費用は、公害防止施設の設置やその維持管理に要する費用などいわばフローとしての汚染の発生を防止するための費用であるが、これには、民間部門が行うべきもの、下水道、一般廃棄物処理のように公的部門がナショナルミニマムの確保の観点から行うことが妥当なものに加えて、新幹線、飛行場、高速道路からの汚染防除費用のように公的機関が汚染の発生自体に関与している場合の3つがある。
 第1の民間部門の汚染防除費用については規制の強化に応じて公害防止投資等を自ら行うなかで基本的には汚染者によって負担されている。
 第3-1図は、通商産業省の調査によって、最近の公害防止投資の動向を示したものであるが、この図からも分かるように近年その投資は急速に増大してきた。昭和49年度(実績見込額)の公害防止投資額は、5年前の9.5倍の1兆188億円となり、総投資額に対する公害防止投資の比率も44年度の5.0%から49年度は16.4%となっている。殊に、48年度と49年度を比較してみると、総額で2.1倍となっており、総投資額に対する公害防止投資の比率も10.3%から16.4%へと急速にそのシェアーを拡大している。これは、インフレーションの進行に伴う公害防止設備に要する資機材価格の高騰、一般設備投資の鈍化等による面があるものの、公害に対する規制の強化等に伴い、もはや景気変動のいかんにかかわらず企業は公害防止に対する投資を続けていかざるを得なくなってきていることを示すものといえよう。


 こうした動きを業種別に見ると、いわゆる公害多発型業種といわれてきた鉄鋼、石油、火力発電、化学、紙パルプのシェアーが高く、これらの業種で公害防止投資総額全体の72%(49年度実績見込)を占めており、その割合は増大傾向にある。
 また、施設種類別に見ると大気汚染防止施設、水質汚濁防止施設が圧倒的に多く、全体の約80%となっている。特に、大気汚染防止施設投資は、硫黄酸化物についての48年5月の環境基準の改定強化及び49年7月の排出基準(いわゆるK値)の改定強化、窒素酸化物についての環境基準の設定(48年5月)及びこれに基づく排出基準の設定(48年8月)等を反映して、49年度には前年度に比ベ2.3倍の高い伸びとなっている。
 こうした民間公害防止投資に要する資金については、政府としても公害防止事業団、日本開発銀行等を通じて融資を行っており、財政投融資計画を通ずるこれら機関の50年度の公害防止関連貸付枠は、約3,100億円となっている。
 40年10月に設立された公害防止事業団は、共同公害防止施設の設置、譲渡等の建設譲渡業務に加えて、公害防止施設を設置しようとする者(個別の大企業については、40年5月末以前に設置された工場、事業場に限る。)に対し、その設置に必要な資金の貸付業務を行っている。40年10月から49年度末までの事業実績は3,287億円に達しており、規模別に見ると、中小企業向けが約33%に上つている。また、日本開発銀行においては、公害防止施設及び公害予防施設を設置しようとする者に対し、その設置に必要な資金の貸付業務を行っており、35年4月から49年度末までの融資実績は3,163億円に達している。このほか、中小企業金融公庫等においても公害防止施設に対して融資業務が行われている。
 なお、公害防止施設の維持管理費については確たる統計はないが、最近における規制の強化、公害防止投資の増大に伴いその額も増大しているものと見られる。
 次に、第2の公的部門に関連した汚染防除費用について見よう。
 第3-2図は、国及び地方公共団体の環境保全に関する予算あるいは決算の推移を示したものである。近年その規模は着実に増加を続けており、国の環境保全予算の一般会計予算総額に対する割合は40年代前半においては1%程度であったものが最近では2%程度となっており、地方公共団体の決算総額に占める公害関係費の割合は、45年度の3.8%から48年度には5.5%ヘと拡大している。こうした環境保全に関する経費のうち、大きな比重を占めているのが下水道事業費、廃棄物処理施設整備費、騒音防止対策事業費等の公害防止関係公共事業等に要する経費である。50年度当初予算では、環境保全経費のうち、この経費の割合は76%を占めており、下水道事業のみをとっても48%となっている。また、地方公共団体においてもこうした汚染防除費用が公害関係決算額のなかで大きなウェイトを占めており、48年度決算では下水道事業費のみで60%となっている。


 最近におけるこうした環境保全経費の拡大は、汚染の防止を強化していく上に必要欠くべからざるものである。しかし、国及び地方公共団体が行っている公害防止施設の設置、運営等汚染防除費用に関しては、国又は地方公共団体と利用者との間の費用の分担について必ずしも明確な基準のない場合が多い。第3-3表は、主な公害防止関連施設等における費用負担の現状をまとめたものであるが、これからも分かるように下水道、廃棄物処理施設等について公費負担と利用者負担が混在しており、その負担の割合等に関する基準が必ずしも明らかになっているとはいえないものもある。


 下水道は、快適な生活環境を確保する上で重要な役割を有していると同時に水質汚濁の防止手段として欠くことのできないものであり、近年その普及の要請が高まっている。これに伴い普及率(総人口普及率)は年々向上し、49年度には10年前に7.9%であったものが20.5%にまで増加した。しかし、欧米のほとんどの諸国が50%以上であるのに比較すれば、その普及率には依然として大きな差がある。
 下水道は、家庭汚水に加え工場汚水の処理にも寄与している。我が国の主な都市における汚水量中に占める工場排水の割合は、第3-4表から分かるように都市によってかなり相違があり、川崎市では40%程度に及ぶが、横浜市では5%程度である。著しく下水道施設の機能を妨げ又は施設を損傷するおそれなどがある工場汚水については、「下水道法」によって除害施設の設置基準が定められており、この基準を超える汚水を排水する事業場に対し、公共下水道管理者は、条例で除害施設の設置等を義務付けることができることになっている。しかし、この基準は、排水基準に比べて緩い場合があり、こうした場合、汚染者が汚染防除に要する費用を完全に負担しているとはいい難い。
 こうした弊害が生じないようにするには、水質料金制の採用が不可欠であると思われるが、48年度末現在で水質料金制の採用市町村は調査対象172市町村のうちの9市町村にとどまっており、採用予定又は検討中のところを含めても45市町村にすぎない。
 また、水量使用料制を採用している市町村において使用料を特定工場分と一般家庭分とで区別している市町村は10%程度にすぎない。
 こうした事情をも反映し、現在の下水道使用料の徴収額実績は、下水道の維持管理費に満たない状況にあり、年々維持管理費に占める使用料収入額は低下する傾向にある。
 次に、廃棄物処理に係る費用負担の現状について見ると、さきの第3-3表に示されているように、産業廃棄物を自家処理施設により、あるいは民間処理業者に委託して行う処理については事業者の負担となっている一方、一般廃棄物処理及び第3セクターが行っている産業廃棄物処理、港湾管理者等が行っている廃油処理については公費負担が導入されている。すなわち.産業廃棄物処理については、高知県、愛知県、長野県等において処理公社が設立されており、こうした第3セクターによる処理施設については、生活環境の保全及び中小企業対策等の見地から人件費、建設費を公費負担とし、人件費を除く維持管理費を利用者負担としている場合が多い。港湾管理者、漁港管理者が設置している廃油処理施設については建設費の50%の国庫補助が行われている。また、一般廃棄物については、プラスチック、粗大ゴミ等通常の処理方法では処理が困難あるいは費用が高くなるいわゆる処理困難物も含め、大部分公費負担で行われている。例えば東京都の場合、廃棄物処理手数料を徴収するのは、1日平均10kgを超える量又は一時に200kgを適える量を排出する事業者等に対してのみであり、こうした手数料及び使用料収入は都清掃局予算の3.0%(49年度予算)程度である。
 次に、第3の、新幹線、飛行場、高速道路等公的機関自らが汚染の発生自体に関与している場合の汚染防除費用についてみると、施設あるいはサービスの利用者が料金を支払うなかで通常負担すべきであるが、こうした高速輸送機関等から発生する汚染については、これまで必ずしも万全の防止対策が講じられてきたとはいえないような事例も見られ、環境保全対策を一段と強化する必要があり、このためには.かなりの費用を要するものと思われ、その負担が適切に行われることが重要となっている。

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