前のページ 次のページ

第1節 

1 環境保全から見た国土利用の現状

 公害を防止し、自然環境を保全していく上で、最近特に土地利用のあり方が問題とされている。
 昭和47年7月に判決の下された四日市の公害訴訟においては企業側にコンビナートの設置に関し立地上の過失があったと認定された例、幹線道路沿道において大気汚染、騒音等の公害が発生した例、自然の優れた地域に観光道路を建設し、周囲の景観や生態系を破壊した例等土地利用に十分配慮しなかったために引き起こされた環境問題は少なくない。
 我が国は、約37万km2の国土に約1億1千万人の人間が居住し、しかもこれらの人口の約半数は国土の1.7%に当たる狭い地域に集中して生活している。また、我が国は世界第2位の国民総生産を挙げ、狭い国土で活発な経済活動が営まれていることを考えると、土地利用に対する配慮が欠如し、あるいは周辺の土地利用との調整が十分に行われなかったために自然環境の破壊を引き起こし、公害を発生させる結果につながるものと考えられる。
 土地の有する諸機能としては鉱物資源の採取の対象、農林業等の生産要素、市街地、工業用地等各種施設等のための敷地、森林、農地、緑地等の環境保全の機能等各種の機能が考えられる。
 我が国の国土は極めて限定されていることから同一の土地が以上のような多様な目的のために複合あるいは競合して利用されることが少なくないが、環境の保全を図るためには土地の有する多様な目的に十分配慮した上で当該土地の特性に応じて適切な利用を図ることが必要となっている。
 現在、我が国の土地利用がいかなる状況にあるかを主要な形態ごとに見てみると、まず第1に、国土の68%、2,531万ha(47年現在)を占める森林が挙げられる。このうち、「森林法」に基づき水源かん養保安林、土砂流出防備保安林等に指定され立木の伐採等について許可が必要とされる保安林面積は688万haであり、森林面積の27%に当たる。
 第2に、農地で「農業振興地域の整備に関する法律」に基づき指定されている農業振興地域ほ49年においては1,738万haであり、そのうち農用地区域内の農用地442万haほ農地の転用等に関し特別の規制がかけられている。なお、耕作地は48年においては565万haあり、そのうち畑が237万ha、水田が327万haを占めている。
 第3に、「都市計画法」に基づく都市計画区域は、48年において1,079区域、799万haであり、そのうち既成市街地及び今後10年以内に市街化を図るべき地域として指定された市街化区域は117万haである。
 第4に、「自然公園法」に基づき指定された自然公園面積は49年において515万haであり、国土面積の14%を占めている。そのうち国立公園は201万ha(国土面積の5.3%)、国定公園は113万ha(同3.0%)、都道府県立自然公園は201万ha(同5.3%)であり、これら自然公園のうち、工作物の設置、木竹の伐採、鉱物の掘採、水面の埋立て等が許可の対象となっている特別地域の面積は278万haである。
 このほか、自然環境の保全を図るための土地利用制度として、近く指定が予定されている「自然環境保全法」に基づく原生自然環境保全地域、自然環境保全地域等や「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」に基づく鳥獣保護区等がある。また、都市及びその近郊の自然環境を保全するための土地利用制度として、「首都圏近郊緑地保全法」及び「近畿圏の保全区域の整備に関する法律」に基づく近郊線地保全区域、「都市緑地保全法」に基づく緑地保全地区、「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」に基づく歴史的風土保存区域等がある。
 土地は人間の生存にとって不可欠な基盤であり、土地利用は現代社会のあり方をも規定するものといってよいが、土地の多目的利用が無秩序に行われるならば地価の高騰、良好な環境の破壊等により、国民生活に著しい悪影響を及ばすこととなる。
 このような土地を巡る幾多の問題を解決し、健康で文化的な生活環境を確保し、均衡ある国土の発展と環境の保全を図る見地から、総合的かつ計画的な国土利用を推進するため、49年6月に「国土利用計画法」が制定された。
 「国土利用計画法」は、国土利用計画(全国計画、都道府県計画、市町村計画)及び土地利用基本計画の策定、土地取引の規制の実施、遊休土地に関する措置等をその内容としている。
 国土利用計画は、今後の我が国の国土利用のあり方を示す行政上の指針ともいうべきものであるが、その内容は、国土の利用に関する基本的構想の下に、利用目的に応じた区分ごとの土地利用の方向とその達成のための措置を定めようとするものであり、現在国土庁を中心として策定作業が進められており、環境庁も環境保全の立場からその作成に参画している。
 また、土地利用基本計画は、適切な土地利用を図るために、土地取引規制、開発行為の規制、遊休土地に関する措置等必要な規制を行う際にその基礎となるものであり、都道府県知事が当該都道府県の地域について策定するものである。土地利用基本計画では土地の利用区分を都市地域、農業地域、森林地域、自然公園地域、自然保全地域の5地域に区分して、それぞれの地域の土地利用のあるべき姿を示すとともに相互の調整等が図られることになっている。
 土地利用基本計画は、国土利用計画の全国計画等を基本とすることとされているが、国土利用計画の策定には今後なお時間を要するので、現在、暫定的な土地利用基本計画作成の作業が進められている。

前のページ 次のページ