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第1節 

1 自然環境保全基本方針

 自然環境保全法第12条に規定された自然環境保全基本方針は48年10月26日閣議決定された(参考資料9参照)。この基本方針は我が国全体の自然環境をどのようにして保全していくかについての基本的な構想と、自然環境保全地域等地域指定の基本的事項を定めたものである。
 内容は第1部と第2部とにわかれ、第1部の基本構想は自然環境の保全について政府の基本的な姿勢を打ち出し、現段階における政府全体の共通の認識のうえに立って、実際の行政に反映させるべき具体的な方針を定めたものである。したがって、今後関係省庁が自然環境の保全に関する施策を実施するうえで、配慮すべき理念を定めたものであると同時に、一般国民においても自然環境の保全のため、この基本的な方向に沿った努力がなされるべき旨を鮮明にしたものである。また、自然環境の保全に関する施策とは、直接的に自然環境の保全を目的とする施策にとどまらず、自然環境の保全に関連性を持つ施策、例えば公害行政や農林行政、更には経済政策に至るまで、その関連する側面をも包含するものである。
 第2部は、地域指定の方針や基準を定めたもので、自然環境保全法の規定に基づいて新しい制度を実施するために必要な行政技術的な性格をもつものである。その内容は、原生自然環境保全地域、自然環境保全地域、都道府県自然環境保全地域の3種類の保全地域の指定・保護についての方針及びこれらの地域と自然公園法その他自然環境保全を目的とする法律に基づく地域との調整の方針を明らかにしている。その内容は次のとおりである。
(1) 自然環境の保全に関する基本構想(第1部)
 第1部の前文に述べられた自然環境保全の基本的な考え方は、おおむね次のように要約される。
? 自然が生命をはぐくむ母胎であるとの認識に立って、我々が保護・保全の精神を身についた習性とすることが、政策以前の問題として必要であること。
? 自然環境を保全する対策の出発点として、生態学を踏まえた幅広い思考方法を尊重し、人間活動も自然を構成する諸要素間のバランスを乱さないことを基本条件としなければしなければならないこと。
? 現実を振り返ると、自然環境の破壊は容赦なく進み、極めて深刻なものがあるが、特に問題なのは開発が一部集団に利益を、一部集団には不利益を与える形で進行している複雑さがあること。
? 今後、資源の有限性に留意し、大量生産、大量消費、大量破棄という型の経済活動に厳しい反省を加えなければならないが、従来の経済効率優先主義から、経済的価値に換算できない価値を評価する政策でなければならないこと。
? 自然保護を中心とする自然環境保全政策は科学的な論拠を持つものでなければならないが、現代の科学的知見によっては、直ちにそのような理論を持つことは困難であること。
? そこで、当面の対策としては、一度破壊された自然は元に戻らないから、将来に禍根を残すことのないよう先取的な、より積極的な姿勢が必要であること。
 続いて当面の施策として、
? 国土に存在する多様な自然を体系的に保全すること。
? 自然環境を破壊するおそれのある大規模な開発に当たっては、必要に応じて事前の環境アセスメントを実施すること。
? 自然環境保全に関する研究調査を推進すること。
? 環境教育を積極的に推進するとともに自然に対する愛情とモラルの育成に努めること。
? 自然環境保全の見地から野外レクリエーション政策の調整を図ること。
 等を掲げている。
 最後に、第1部の結びとして開発行為に対する規制、土地の持つ公共的性格の重点等に勇断を要すること並びに地域住民の生業の安定及び福祉の向上、財産権の尊重等のため必要な施策を総合的な見地から講じ、自然の恵沢の享受と保全に関し、受益と負担の両面にわたって社会的公正を確保しなければならないことを述べている。
(2) 自然環境保全地域等に関する基本的事項(第2部)
 第2部は、自然環境保全法に基づく三つの地域の指定、保全施策等に関する基本的事項を定めたものである。
? 原生自然環境保全地域
 我が国の各種森林帯に残されている植生及び野生動物等の生物共同体が原生状態を維持している典型的な地域を指定し、人為を加えず、自然の推移にゆだねることを保全の原則としている。
? 自然環境保全地域
 破壊されると復元困難な弱い自然、貴重な自然等指定の優先性を定めるとともに保全対象としてとらえた自然環境のタイプに応じ、生態学的調査結果等を踏まえた復元等その適正な管理を図る。なお、この場合、国土保全、地域住民の生業の安定等に配慮することとしている。
? 都道府県自然環境保全地域
 国の自然環境保全地域に準じて、指定及び保全施策を行うこととしている。
? 自然環境保全地域等と自然公園との調整の方針
 原生自然環境保全地域は、その重要性にかんがみ、自然公園等に含まれていても、それらを解除して優先的に指定すること等を規定している。また、都市計画区域においては、自然環境保全地域と都道府県自然環境保全地域の指定は、原則として市街地区域については行わないものとし、その他の区域については良好な都市環境の形成を目的とする緑地保全地区と重複しないようにする等の調整を図りつつ行うものとする。

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