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第5節 

2 瀬戸内海環境保全臨時措置法の制定

 瀬戸内海の環境保全を図ることの重要性は以前から指摘されており、政府においても、環境基準のあてはめ、上乗せ排水基準の設定、下水道の整備等の施策を推進してきたところであるが、第71回国会において、瀬戸内海の環境の一層の悪化を防止するための「瀬戸内海環境保全臨時措置法」が成立し、48年11月2日から施行された。
 この法律の目的は、瀬戸内海が「わが国のみならず世界においても比類のない美しさを誇る景勝地として、また、国民にとって貴重な漁業資源の宝庫として、その恵沢を国民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきもの」であることにかんがみ、政府に対し、速やかに、瀬戸内海の環境保全上有効な施策を実施するための瀬戸内海の水質の保全、自然景観の保全等に関する「基本計画」を策定すべきことを義務づけるとともに基本計画が策定されるまでの間における当面の措置を定めるものである。
 当面の措置の第1は、環境庁長官は、瀬戸内海及びこれに接続する河川等に排出される産業排水に係る化学的酸素要求量(COD)で表示した汚濁負荷量を47年当時の2分の1程度に減少させることを目途に、瀬戸内海関係府県に対し当該汚濁負荷量の限度量を割り当て、関係府県においては割り当てられた汚濁負荷量を3年間で達成するため、上乗せ排水基準を設定することとしている。この負荷量の割当ては、49年1月31日に瀬戸内海環境保全審議会の答申を得て、同年2月1日に定められた。
 当面の措置の第2は、特定施設の設置、変更について許可制を採用したことである。水質汚濁防止法においては、特定施設の設置、変更については届出制をとっており、その際、事前審査を行い、排水基準に適合しないと認めるときは計画変更命令を出す方式をとっているが、本法においては、汚濁負荷量の割当てを達成するため、汚濁負荷量を増大させるような特定施設の設置、変更については府県知事の許可を受けなければならないこととして瀬戸内海の環境保全を図っていくこととしている。なお、許可申請があった場合には、公衆の縦覧、利害関係者の意見書の提出等、地域住民の意見を反映させる道を開いたことも特記される点である。
 当面の措置の第3は、埋立てについての特別の配慮規定を置いたことである。関係府県知事は、瀬戸内海における公有水面埋立法の規定による免許又は承認に当たっては、前述した瀬戸内海の「景勝地として、また、漁業資源の宝庫として、国民がひとしく享受し、後代の国民に継承すべきもの」であるという特殊性について十分配慮しなければならないこととし、本規定の運用についての「基本方針」を瀬戸内海環境保全審議会において調査審議することとしている。
 その他の当面の措置として、本法は次のような事項を規定している。
? 国及び地方公共団体は、瀬戸内海の汚染の現状にかんがみ、下水道及び廃棄物の処理施設の整備、汚でいのしゅんせつ、水質の監視又は測定のための施設・設備の整備等の瀬戸内海の水質の保全のために必要な事業の促進に努めなければならない。
? 国は、?の事業を実施する者に対し、財政上の援助、必要な資金の融通、あっせん等の援助に努めなければならない。
? 政府は、瀬戸内海の汚濁した水質の浄化を図ることを目的とする大規模な事業に関する計画を設定するよう努めるものとし、そのための技術開発等を促進するとともに必要な財政上の措置を講ずるものとする。
? 政府は、速やかに、赤潮の発生の防除技術、船舶内における油の処理技術等瀬戸内海の環境保全のための技術の開発に努め、その結果に基づき、必要な措置を講ずるものとする。
? 政府は、速やかに、瀬戸内海およびこれに接続する海域以外の公共用水域に排出される排水の規制に関し、量規制の導入について必要な措置を講ずるものとする。
? 政府は、瀬戸内海において赤潮、油等による漁業被害が多数発生している状況にかんがみ、速やかに、当該漁業被害を受けた漁業者の救済について必要な措置を講ずるものとする。
 なお、従来水質汚濁問題の重要事項に関しては、中央公害対策審議会水質部会において調査審議されてきたところであるが、瀬戸内海における環境保全の重要性にかんがみ、本法においては、瀬戸内海環境保全審議会を環境庁に設置し、瀬戸内海の環境保全に関する重要事項を調査審議することとした。

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