3 農業被害

(1)　農業被害の現況
　かんがい用水の汚濁による農業被害は、近年における社会、経済の急速な発展、工業化、都市化等の進展に伴い、ますます増加の傾向にある。このような農業用水の汚濁は、作物への直接被害のほか、土壌の理学化性の悪化による土地生産性の低下及び農村労働環境の悪化をもたらし、農業生産環境保全上重要な問題となってきている。
　45年度に実施した調査では、全国の水質汚濁による農業被害地区は、約1,500地区、被害面積約19万4千ヘクタールとなっており、我が国水田面積の約5.7%に相当する状況にある。汚濁源別にみると、工場排水によるものが全体の39%、都市汚水によるものが34%と極めて高い比率となっている。同様の調査を33年、40年にも実施しているが、最近の傾向としては、都市化や工業化に伴う農業被害の増加と広域化が特徴として現れている。
　また、水質汚濁により農業被害が発生している地区について水質汚濁の概況をは握するため、46年度から都道府県に助成して「農業用水水質調査」を実施してきたが、47年度調査結果によれば、第3-2-1表のとおり、都市化の進展に伴い全窒素、COD等は多くの地区で農業用水基準を超えている。

(2)　被害発生の態様と汚濁の形態
　水質汚濁による農業被害の発生態様は、汚濁物質の種類、程度により異なっている。すなわち、都市汚水、パルプ工場、でん粉工場等の排水では、有機物の過多、窒素分の過剰等により、土壌の理化学性の悪化、水稲の過繁茂、倒伏等が生じ、収量の低下、品質の悪化等の被害が発生する。また、化学工場や鉱山から排出される無機排水では、酸性又はアルカリ性による被害、有害金属の過剰蓄積等による被害が発生している。これらの被害は、汚濁物質の種類、程度のほか、農作物の種類、品種、生育時期、肥培管理の方法等によって被害の態様が異なり、また、作物生産が土壌を媒体として行われている関係上、被害発生の態様は極めて複雑である場合が多く、その実態を正確には握することは容易ではない。
　農業用水路の汚濁の形態を区分してみると、河川、湖沼へ流入した汚水が農業用水路へ流入することによって汚濁されている場合が34%、農業用水路、ため池等へ直接流入することによって汚濁されている場合が32%、両者の重複が33%となっているが、この結果からも、農業用水路の地区内汚染のほか、農業用水路の取水点においても汚濁されていることが認められる。
　このように、水質汚濁による農業被害は、複雑な様相を呈しているが、特に窒素成分の除去については、多くの困難を伴い、このため、過剰窒素による被害は今後とも著しく増加することが予想されるので、農業用水としての良質な水質を保全するためには、多面的な改善対策が必要となっている。