2 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律
PCB(ポリ塩化ビフェニール)による環境汚染及び健康被害の発生は、大きな社会問題となったが、これを契機にして、従来の化学物質の安全性に関する考え方に再検討を加える必要のあることが痛感された。すなわち、新しい化学物質の開発と利用は、国民生活の充実向上に寄与する反面、それらのなかには、その使用に際して又は使用後の破棄を通じて環境を汚染し、人の健康に害を及ぼすおそれのあるものもあるため、単にPCBの問題としてだけでなく工業的に生産される化学物質一般について、被害の未然防止体制の確立を図る必要性が明らかになった。
政府は、46年7月のPCB汚染対策に関する国会決議並びに通商産業大臣の化学物質の安全確保対策についての諮問に対する答申等を受けて立法化作業を進め、第71回国会に「科学物質の審査及び製造等の規制に関する法律案」を上程した。同法律案は、48年法律第117号として成立し、48年10月16日に公布された。
本法は、PCBのような難分解性で、生物体に蓄積されやすく、かつ、人の健康を損なうおそれのある化学物質による環境汚染を防止するため、新規の化学物質の製造又は輸入に際し、その安全性の事前審査制を設けるとともにこれらの性状を有する化学物質の製造、輸入、使用等に必要な規制を行うことを目的としている。
この目的のために、? 新規の化学物質の製造又は輸入に際し、事前にその化学物質がPCBのような性状を有するかどうかを審査する制度を設け、その審査によって安全性が確認されるまではその化学物質の製造又は輸入を禁止すること、? 審査の結果、前述の性状を有するとされた化学物質については、特定化学物質として政令で指定し、その製造又は輸入は許可制とし、その使用については環境汚染を生ずるおそれのない一定の用途に制限するとともに製造業者又は使用業者には一定の技術水準を遵守させる等厳しい管理を行うこと、?既存の化学物質がPCBのような性状を有すると判明したときには、その化学物質を使用した製品も含めて、その回収を図ること等環境汚染の進行を防止するために必要な措置を講ずることを命令し得ること、? 既存の化学物質がPCBのような性状を有する疑いが濃くなったときは、特定化学物質の指定に至らない間においても、その製造、輸入又は使用の制限に関して必要な勧告をすることができること等を同法では規定している。
なお、本法の採決に際してなされた衆・参両院商工委員会の付帯決議の趣旨に従って、既存化学物質について安全性の総点検を早急に行う必要があるため、通商産業省は財団法人化学品検査協会に48年度から補助金を交付して施設の拡充を図り、その分解性及び蓄積性の試験を行わせることとしている。また、49年度から、厚生省において毒性等の試験を行うとともに環境庁において環境中での汚染が憂慮される化学物質について追跡調査等を行うこととしている。
既存化学物質のうち、化学構造等から安全性の確認が必要と考えられる物質について、早期かつ計画的にその安全性の総点検を実施することとしている。