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第2節 

1 環境アセスメント

 各種の地域開発、公共事業等を進めるに当たっては、これらの開発や公共事業が環境に悪影響をもたらさないよう未然の防止策を講ずる必要がある。このための方策としては、地域開発や公共事業の実施に当たって、あらかじめ、これら開発や事業の環境に及ぼす影響の内容、程度を十分チェックする環境アセスメントを実施することが環境保全対策上極めて重要である。
 このような考え方は、47年6月の閣議了解「各種公共事業に係る環境保全対策について」において政府の方針とされ、その後この方針に従って事前の環境影響評価が推進されてきたところである。また、48年度においては、第71回国会で成立した各種法律の中に環境アセスメントの考え方が、具体化されることとなった。
 その一つは、48年10月に成立し、11月2日から施行された瀬戸内海環境保全臨時措置法における規定である。この法律により瀬戸内海沿岸に立地する工場の特定施設の許可申請に際しては、当該特定施設が環境に及ぼす影響についての調査の結果に基づく事前評価に関する事項を記載した書面を添付しなければならないこととなった。この書面は、3週間公衆の縦覧に供されることとなっている。
 その二つは工場立地法である。コンビナート等の立地に際しては、通商産業省が中心となって40年度から産業公害総合事前調査を行ってきたが、これが「工場立地に伴う公害の防止に関する調査」として制度化され、これに基づき届出、命令、勧告等の規制が行われることとなった。
 その三つは、公有水面埋立法である。今回の改正により埋立免許の基準に環境保全に関する配慮が適切であることという要件が加えられたほか、主務大臣が行う一定の埋立免許の認可に際しては、環境庁長官の意見を聞くこととされた。これにより今後の埋立てを行うに当たっては、環境影響に関する事前の評価を行うことが制度として必要となってこよう。
 このように我が国においても環境アセスメントの考え方が様々な形で具体化されつつある。しかし、環境アセスメントという考え方がごく新しいこともあって、その方法については、現在十分確立されていない段階にある。このため、その手法の開発が急務となっているが、この点に関し、48年度においては、次の調査研究を行った。
 その一つは、工業開発等の地域開発についての環境影響評価手法に関する研究である。これについては地域開発に伴う環境影響及びその防止策等に関する評価上の判断項目(チェックリスト)の作成を目的とした環境受容能力調査の実施、大気汚染の各種予測手法、土地利用上の問題点の検討、解析を行うとともに従来のシミュレーション分析の対象とされていない公害要因について苦情発生例からの検討解析を目的としてコンビナート地域等を対象とした環境汚染事例等収集調査を行った。
 その二つは、都市型大気汚染に関する環境アセスメント手法の研究である。これは、複雑な都市型大気汚染の機構を解明し、それに対する有効な改善対策をたてるとともにこのための調査の方法を環境アセスメント手法としてまとめることを目的としたものである。48年度においては、専門家25人をもって構成する都市型大気汚染防止対策調査委員会を設置し、このなかに更に環境アセスメント調査小委員会を設けて、延べ7回にわたって調査計画の検討を行い、これに基づき、札幌、川崎、広島の3都市を対象に、大気汚染に関連の深い都市活動として、主にエネルギー消費、交通、廃棄物処理の三つを取り上げ、都市型大気汚染の現状をは握するための調査解析を行った。
 その三つは、航空機、新幹線鉄道、高速道路、港湾建設等に係る環境アセスメント手法の開発である。これに関し、48年度は運輸省においてこれらの公共事業の基本計画から事業の実施に至る各段階において考慮すべき環境への影響に関する事項、その他の基礎的な調査を実施した。
 また、環境庁においては、空港周辺地域、新幹線沿線地域の騒音発生状況並びに土地利用、人口等の実態調査を行った。更に、高速道路については、高盛土、低盛土、高架、切土の道路構造別の車種別交通量、走行速度、騒音の大きさ等の実態調査を行った。
 その四つは、水質変化予測に関する調査研究である。これは、水の浄化作用、水域の水利用目的、発生汚濁負荷及び環境に関する地域住民等の要求等を主な要因としてとらえて、それをもって水質の変化予測に関するシステム化を目指すものである。このため、48年度においては、システムの予備的検討として関与因子の検討及び各因子のは握方法に関する検討を行うとともに浄化作用に関する研究として水域形態別の浄化作用の定量化に関する調査検討等を行った。
 その五つは水の自浄能力調査である。海域及び湖沼の環境容量を設定するに当たっては、その流入汚濁負荷量のは握が必要不可欠となるが、このためには、河川流域に立地する工場、事業場等からの汚濁負荷が河川から海域に達するまでに沈殿、希釈拡散、生物学的酸化等の作用により浄化される量を求める必要がある。48年度においては、河川全体をマクロ的にとらえてこの浄化率を求めるための調査を行った。
 その六つは、公害防止計画策定上緊急な解明を必要としている項目についての手法を確立し、指導基準を設定するための調査として、? 水質汚濁負荷量削減アロケート手法の確立に必要な調査、? 広域的な地域相互間の影響度をも考慮に入れた地先海域等の水質影響予測手法の確立に必要な基礎調査を行った。
 その七つは、温排水の拡散予測手法の開発である。発電所等の新増設については、排出される温排水の量が極めて多く、その影響が問題となっているがこのため温排水の拡散予測手法に関する調査検討を行った。
 その八つは、道路建設の森林生態系に及ぼす影響の調査である。これに関しては、48年度は、47年度に引き続き亜高山針葉樹林帯及び暖帯照葉樹林帯を調査地域として道路建設が森林生態系に及ぼす影響を多面的に調査し、路線の選定、施行の過程で自然環境の改変を最小限にとどめる方策を検討した。

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