5 国際的動向への対応
「かけがえのない地球」を守るための第1回国連人間環境会議の開催から既に2年近くの歳月を経たが、この間、国連、OECD等の場における多国間協力とアメリカ、ソ連、オーストラリア等との二国間協力を通じて各方面で成果をあげてきた。
すなわち、国連関係では、有害物質を含む廃棄物の海洋投棄の規制、船舶による海洋汚染防止のための規制の強化、絶滅の危機に瀕する野生動植物の国際貿易上の規制等に関する条約が締結された。また、国連環境計画管理理事会では広範にわたる環境問題を取り扱う国連環境計画等が検討され、WHO、UNESCO等においても専門的立場から健康保護基準に関する検討、人間と生物圏に関する事業計画の実行がなされてきた。OECDにおいては、環境委員会を中心に汚染者負担の原則(PPP)の具体的適用問題等の検討が進められている。また、二国間関係では、日米間における廃棄物、下水処理問題、光化学大気汚染問題等に関する意見交換、日ソ・日豪間における渡り鳥条約の締結等があげられる。
こうした国際協力の進展とともに今後、我が国は、各方面において国際的動向に対応した施策の展開を必要としている。
第1は、条約による新しい規制に対する国内の対応の問題である。1973年11月に採択されたIMCO(政府間海事協議機関)の海洋汚染防止条約において油に対する規制の強化、油以外の有害物質等の規制、船舶の構造・設備に対する規制の強化を図ることにしている。また、1972年11月に採択された有害物質を含む廃棄物の海洋投棄の規制に関する条約においては、水銀、カドミウム等有害物質を含む廃棄物の海洋投棄は、少量の水銀、カドミウムを含む廃棄物のコンクリート固型したものを3,500m以深の海洋に投棄する場合に5年の猶予期間が認められたほかは、条約発効後は全面的に禁止されることとなった。廃油等の廃棄物の不法海洋投棄等の問題は、第2章149/sb1.2>においてもみたように国内的にも大きな問題となっているが、その規制については、こうした国際的な動向を十分考慮に入れて、積極的に海洋汚染の防止を図るよう努める必要がある。
第2は、開発途上国の環境保全問題に対する我が国の対応である。
昨年10月開催されたECAFE(アジア極東経済委員会)政府代表者会議において同委員会の事務局長が言明したように、開発途上国の環境問題は、開発によって生ずるのではなく、むしろ上水の供給難、下水道の欠如、貧弱な住宅、病院、衛生施設等貧しい居住環境に起因する場合が少なくない。我が国も開発途上国の環境問題に関するこうした実情を踏まえこれら諸国の各種の開発に対する経済協力を進めるとともに環境保全に関する技術援助を推進していかなくてはならない。
本年2月、第72回国会に提出された国際協力事業団法案においては、同事業団の業務として、開発途上国の生活環境施設の整備等社会開発事業に対する経済協力を行うこととされており、今後、この方面における成果が期待されている。
また、開発途上国において我が国企業が活動する場合には、当該国における公害規制体制が必ずしも十分整備されていない場合であっても、環境汚染問題をひきおこすことのないよう十分留意し、このための指導を我が国の企業に対して実施していかなければならない。
第3は、各国の環境政策の相異による国際貿易上の調整問題である。
環境規制が汚染発生商品の規制に及ぶとき、二国間の規制の強弱によって、規制の強い国の制度が非関税障壁を構成するかどうかの問題を生ずる。我が国の環境保全の確保という基本的態度を維持しつつ、こうした環境政策の相異による貿易上の問題については、OECD環境委員会の場等を通じて厳しい規制を必要とする我が国の現状が理解されるよう関係諸国と十分話合い、摩擦を最小限にとどめるようにすべきであろう。