2 蓄積性汚染の防止対策
蓄積性汚染問題に対処するため、48年6月、政府は水銀等汚染対策推進会議を設け、魚介類の安全基準の設定、全国調査の実施、排出規制の強化、汚染魚種の漁業水域における漁獲自主規制措置の指導、被害漁業者及び関連中小企業者等に対する低利融資措置等の対策を講じてきた。
今後蓄積性汚染を防止するため、我々がまず取り組むべき課題は、これらの蓄積性有害物質に対する排出規制を徹底させることである。このため、既に水質汚濁防止法等に基づき、排出規制が行われており、また、これを担保するため、工場からのこれらの物質の排出状況を監視する体制も整備されつつある。蓄積性有害物質の排出に関し、今後特に注意しなければならないことは、蓄積性汚染の特性に十分配慮し、生物濃縮されても危険が生じないような水準以下の排出レベルを維持することである。このため、蓄積性有害物質による汚染メカニズムの解明等に関する調査研究を今後とも進め具体的な対策を講ずる必要がある。
工場及び事業場は、排出規制を遵守し得るよう排煙や汚水の処理をより高度に行ったり、根本的には生産工程を転換させる等の措置を講ずることが必要である。苛性ソーダ工場の水銀関連作業工程については、48年12月末までにクローズドシステム化を完了し、更に50年9月までに所要設備能力の3分の2について隔膜法への転換を終わり、52年度末までに原則として全面転換を行うこととしている。PCBについても、既に47年6月までに生産が中止されており、その使用も感圧紙等の開放系製品及び熱媒体、コンデンサー、トランス等の閉鎖系製品ともに新規に製造される製品への使用は禁止されており、現在使用されている製品については、その廃棄の際に回収に万全を図ることとされている。
PCBをはじめとする有害化学物質の規制については、国際的にも大きな関心が寄せられており、例えばOECDにおいては、48年2月にPCBについて、48年9月には水銀について加盟国が共同で規制措置をとることを勧告した。また、アメリカ、スウェーデン等においては有害物質を規制する法律を制定する動きをみせている。
我が国においては、昨年9月に成立した「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき、新規化学物質が製造又は輸入される前にその難分解性、生物濃縮性、慢性毒性等を審査し、環境汚染のおそれがある新規化学物質は、その製造、使用等を規制することとしており、今後はこれにより環境汚染を未然に防止することとしている。
次に、排出規制の強化に対応して蓄積性有害物質を処理施設等で処理した結果、これらの物質を含むスラッジ、灰じん等の廃棄物が生じることが多く、その処理が問題となってくる。これに対処するため、今後は、まず、これら蓄積性有害物質を含む廃棄物が生じないようこれら物質の生産、使用等の段階で回収、再利用等を行うための技術開発や体制整備を進めるとともに最終廃棄物の処分を環境汚染のおそれがないよう適正に行うための処分用地の確保が必要となる。
PCBについては、48年12月現在で回収PCB約6,200トンがPCBを製造した2工場において貯蔵されているが、これらについても、地域住民の不安を解消の上早急に処分することが望ましい。
以上のような対策を今後とも推進することにより、蓄積性有害物質の環境中への放出を未然に防止することが必要であるが、これとともに公共用水域の水質、底質、魚介類、農用地の土壌、農作物等の汚染状況を常に監視していかなければならない。特に、蓄積性有害物質は、濃縮性、蓄積性等の特性を有するため、生物汚染の動向をは握することが重要であり、このため、生物指標を用いた環境サーベイランスシステムの確立等が望まれる。流通市場における魚介類、農作物等の食品についても、蓄積性有害物質に関し今後とも引き続き検査を実施していくことが必要である。
最後に、既に環境中に放出されている蓄積性汚染物質については、早急にその除去や封じ込め等の対策を講ずることにより、環境汚染を防止しなければならない。
水銀汚染については、水銀等汚染対策推進会議の決定に基づき行われた環境調査の結果、48年8月に定められた底質中の水銀の暫定除去基準値を超える値が検出された水俣湾、徳山湾及び酒田港においては、早急に除去対策を講ずることとしており、また、水銀その他の有害物質等により環境汚染が生じている太牟田湾及び大牟田川においても、これらの汚染物質を除去するためしゅんせつ事業に着手している。なお、除去作業に当たっては、二次汚染が発生しないよう汚染底質のしゅんせつ又は封じ込めの方法、しゅんせつ汚でいの保管、処分の方法、作業中の環境汚染の監視等について十分検討することが必要である。
PCB汚染については、47年の全国環境調査等の結果、100ppm以上のPCBが検出された全国29か所のうち、26か所の底質については、既にしゅんせつ、封じ込め等の汚染除去対策が完了し、残り2か所については、現在除去事業を実施中であり、他の1か所についても除去事業を計画中である。カドミウムによる汚染農用地については、農用地土壌汚染防止法に基づき、現在、農用地土壌汚染対策地域に指定された地域のうち、5地域において、客土事業等の土壌汚染防止事業が実施されている。
蓄積性汚染を除去するためには、今後相当の資金や技術を投入しなければならないが、汚染された環境を原状に回復することは、次世代に対する我々の重要な責務であることを自覚し、蓄積汚染除去事業を早急に、かつ、計画的に推進しなければならない。