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第1節 

1 環境汚染と健康影響

 環境汚染による人の健康に対する影響は、人が健康を維持し、日常生活を営むために、いろいろな形で体内に取り込む大気、水、食物ときには放射能等の影響によって起こるものである。これらは広い意味での環境に属するものと考えられるが、それぞれの取締法があるので、公害対策基本法においては、その対象を「事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音、振動、地盤の沈下及び悪臭」に限定している。
 これらの環境汚染による健康影響のあらわれ方は汚染物質に対して短時間に濃厚暴露した場合を除いて、ほぼ一定している。
 第1段階は、汚染物質の刺激に対して、生体側は知覚過敏または鈍麻のような生理機能の亢進または低下で反応する。この段階は生理機能の範囲内での反応であるから汚染物質に対する暴露力がやめば生理機能は可逆的に回復する。また、精密な検査機器を駆使しなければ影響を適確に把握することは困難であることが多い。第2段階はこれらの生理機能例えば、呼吸機能、肝機能等が確実に低下し、放置すれば病的状態に移行するおそれのある段階である。しかし、汚染物質に対する暴露が中止され、治療等適切な措置が講じられれば旧に復しうる。ときには暴露の中止のみで時間をかければ回復することもある。この時点では、ある程度臓器組織の器質的障害を確認しうる。第3段階は、病的状態であって器質的障害が認められる。暴露が中止されて医療が十分行なわれれば、旧に復しうるが、暴露がなおも継続すれば疾病を形成する。
 最近、汚染物質による慢性疾患とか中毒とともに関心がもたれてきているものに、発癌性、催奇型性そして突然変異性(染色体異常)に関する影響がある。これらについては1972年ストックホルムにおける人間環境会議の専門部会においてもその研究の進め方等について検討がなされ、わが国においても今後長期間にわたって研究をつみかさねていく必要がある。

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