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第7節 

2 PCB汚染対策

(1) 概要
 47年4月26日、衆議院公害対策並びに環境保全特別委員会において「ポリ塩化ビフエニール汚染対策に関する決議」がなされた。また、時を同じくして、4月27日の事務次官等会議の申し合せ事項として“PCB汚染対策推進会議”の設置が決定された。同会議の構成委員は、環境庁をはじめ、経済企画庁、科学技術庁、厚生省、農林省、通産省、運輸省、建設省、労働省の関係局長からなつている。
 そして、4月28日には、第1回の推進会議が開催され、総合対策として行なうべき事項とその担当省庁の決定が行なわれた。第2回推進会議は、5月29日開催され、「PCB汚染防止総合対策の推進について」がまとめられた。
 8月14日には、第3回推進会議が開かれ、PCBの食品等に関する暫定規制値の設定に伴う当面緊急を要する対策が決定され、さらに12月21日の第4回推進会議では、PCBの汚染防止対策の進捗状況と今後の見通し等について審議が行なわれた。
(2) 具体的内容
ア PCBおよびPCB使用製品の生産、輸入使用および回収処理
(ア) PCBおよびPCB使用製品の生産・使用規制
 PCBおよびPCB使用製品の生産および使用規制について通商産業省では以下のような指導を行なった。
 PCBの生産については、三菱モンサント化成(株)は47年3月、鐘渕化学工業(株)は同年6月生産を中止し、また両者とも同年6月末をもって販売を中止した。
 PCB使用製品のうち、感圧紙については46年2月末、その他塗料等の開放系製品については、46年末までに生産中止を指導し、閉鎖系製品についてもコンデンサ等の電気機械器具は47年8月末、熱交換器は47年6月末で回収に万全を期することができるもの以外は生産中止するよう指導した。
 PCB使用製品のうち開放系製品については、46年末までに生産が中止され、製品在庫についてもその後回収を指導した。閉鎖系製品については、回収に万全を期することができるもの以外は、今後新たな生産を中止するとともに、使用する場合には回収処理方法を確立し、万全の措置を講ずるようユーザーに対し指導した。
 また、既に使用されているものについては、その管理を強化し、さらに廃棄の際のPCB回収処理体制の確立等万全の措置を講ずるよう指導した。
 PCB使用機器の輸入については、輸入業者に対し、47年9月1日以降原則として輸入を中止するとともに、PCB使用機器を止むを得ず輸入せざるを得ない場合は、当該機器の最終ユーザーと協力し、両者一体となって、当該機器の廃棄の際のPCB回収および処理に万全を期しうるような体制をとるよう指導した。
 PCBの熱媒体としての使用については、PCBを使用した加熱機および熱交換機の放置自粛を要請するとともに、その後、使用状況の調査を行ない、47年12月のPCB取扱工場の汚染状況調査の結果、一部使用工場に汚染がみられたことに鑑み、48年12月までに代替すべきことを指導した。
(イ) PCBおよびPCB使用製品の回収および処理技術の内容
 通商産業省では、感圧紙や電気機器に関し、学識経験者、関係官庁、関係業界等により構成される処理対策委員会を設けたほか、PCBおよびPCBを使用した製品の回収、処理について、それぞれ回収体制の整備、処理技術の開発を推進した。
 液状PCBについては、47年12月末現在で約2,500トンの回収が行なわれている。48年12月末までに熱媒体を代替品に転換するよう指導が行なわれているので、今後回収は促進される見込みである。
 PCBを使用した感圧紙については、47年12月末現在で感圧紙1,100トンが回収されている。
 これらの回収されたPCBおよびPCB使用製品を適切に処理する方法を開発するため、液状PCBならびにPCBを使用した感圧紙およびトランス、コンデンサの完全燃焼あるいは熱分解に関する研究、生物分解処理法に関する研究等を進めている。
イ PCB汚染の実態調査およびメカニズムの解明ならびに分析方法の開発
(ア) PCB汚染の実態調査
? 水質および底質のPCB汚染実態調査
 環境庁、通商産業省、運輸省、建設省および各地方公共団体が水質については、全国1,084地点、底質については、全国1,445地点について昭和47年5月から12月にかけて調査を行なった。
 その結果は第4-7-3表のとおりであるが、公共用水域中の水質のPCB濃度は低いが、PCB取扱い工場周辺の公共用水域の底質がかなり汚染されていることが明らかになった。
 今後の対策としては0.01ppmを越えるPCBの汚染が認められる公共用水域については、これに流入するPCB取扱い工場および故紙再生工場の排出水の再点検を実施し、必要に応じ工場内排水溝の清掃、PCB使用機器の転換、故紙の選別の徹底等の措置を講ずる。
 100ppm(乾燥固形物重量)以上のPCBの汚染が認められる底質(ヘドロ)については、直ちに汚染範囲等を明らかにするための詳細調査を行ない、早急に浚渫(封じ込めを含む。)等の除去対策を講じ、また100ppm未満の汚染底質については昭和48年度詳細調査を実施し、別途に実施中の底質中のPCBが生物に及ぼす影響に関する調査研究の結果をまって除去の必要性を検討することとしている。
? 土壌および農作物のPCBの汚染実態調査
 環境庁および各地方公共団体が土壌については、全国88地点について、農作物については、全国37地点について、昭和47年7月から12月にかけて調査を行なった。その結果は、第4-7-4表のとおりである。
 今後の対策としては、農用地の土壌のPCB濃度については、現在のところ土壌中のPCB含有量と農作物のPCB吸収との関連、生育阻害の状況、土壌中の行動等明らかでない点が多いので、とりあえず、10ppm以上のところについては、さらに細密な調査を実施するとともに、その結果必要とする場合には所要の対策を検討するとともに、農用地の土壌のPCB濃度が10ppm未満のところについても今後とも必要な監視を行なうこととしている。
? 魚介類のPCB汚染実態調査
 環境庁、農林省および各地方公共団体が全国の110水域、599試料について、昭和47年5月から12月にかけて調査を行なった。その結果は第4-7-5表のとおりである。
 今後の対策としては、暫定的規制値を超えるPCBを含有する魚介類が検出された水域については、早急に精密検査を実施するとともに、精密調査の結果に基づいて、関係都道府県は、水産庁の指導のもとに関係者と協議し、汚染魚介類の種類と汚染水域を定め、暫定的規制値をこえた魚介類が食用に供されないよう魚介類の生産、出荷に対する自主規制を指導し定期的監視を行なうことにしている。
(イ) PCB汚染のメカニズムの解明
 環境庁は、食物連鎖等によるPCBの生物濃縮の実態を把握し、汚染度判定のための指標生物を設定するため、現地モデル水域において各種生物の汚染実態調査およびその評価解析を行ない、また農林省は、土壌から農作物への移行蓄積のメカニズムをポット栽培試験等により解明するとともに、家畜、魚類について飼料、水から生体への蓄積性等を解明するための研究を行なっている。
(ウ) PCBの分析方法の開発
 生体組織、乳肉食品、水道原水に関する統一的分析方法については、従来までの研究により確立したので、現在、科学技術庁、通商産業省において、大気、水質(底質等を含む。)、土壌、農作物、食品等に関する統一的分析方法を早急に確立することとしている。
ウ PCBの排出規制
 工場排水等については、環境庁が47年7月17日に「PCBの排出等にかかる暫定的指導方針」を定め、工場等が遵守するよう行政指導を行なっている。
 その内容は次のとおりである。
? 廃油処理施設、し尿処理施設、下水道終末処理施設等を有する特定事業場
 排出水に含まれるPCBの濃度を処理原水に含まれるPCBの濃度と比較して「定量限界(0.01ppm)」をこえて変動させてはならない。
? その他の特定事業場
 排出水中のPCB濃度を取水口における用水に含まれるPCBの濃度と比較して「定量限界(0.01ppm)」をこえて変動させてはならない。そして、さらに分析方法の確立をまって排出基準が設定されることになっている。
 工場等からの排気ガスについては、環境庁が47年12月22日に「PCB等を焼却処分する場合における排ガス中のPCBの暫定排出許容限界について」を定め、PCBの焼却施設から排出される燃焼排ガス中に含まれるPCBの量を
? 最高値 0.25mg/m
3
(液状のものは0.15mg/m
3
)
? 平均値 0.15mg/m
3
(液状のものは0.10mg/m
3
)
 にするよう行政指導を行なっており、さらに分析方法の確立をまって、排出基準が設定されることとなっている。
 なお、今回排ガス中のPCBの排出許容限界が定められた趣旨は、回収したPCBを可能な限り分解消滅させることにあり、PCBが分解しないような焼却炉による焼却は認められない。
エ PCBの人体影響対策
 生体内の代謝および毒性に関する調査研究が、厚生省によって進められている。また、労働省では、PCBの代替品の毒性についての調査研究を進めている。
 昭和47年8月24日に厚生省により、食品中に残留するPCBについての暫定的規制値が設定された。また、同日農林省により飼料に関するPCBの暫定的許容基準が設定された。これらの内容は次のとおりである。
 魚介類
 遠洋沖合魚介類(可食部) 0.5ppm
 内海内湾(内水面を含む。)魚介類(可食部) 3ppm
 牛乳(全乳中) 0.1ppm
 乳製品(全量中) 1ppm
 育児用粉乳(全量中) 0.2ppm
 肉類(全量中) 0.5ppm
 卵類(全量中) 0.2ppm
 容器包装 5ppm
 魚粉(荒かすを含む。)その他の動物質飼料 5ppm
 配合飼料 0.5ppm


 食品については、検査の結果、暫定的規制値を超えるものを発見した場合は、直ちに当該食品の供給者に対する生産行政にも十分反映させ得るよう関係部局と密接な連携を保つとともに、当該食品の販売の自主規制等を指導するほか、当該食品を摂食しないような措置ならびに廃棄物処理に際しては環境等の再汚染を防止する措置を行なうこととし、飼料については、その取り扱う飼料が暫定的許容基準をこえている場合は、当該飼料の販売をとりやめ、すでに販売しているものにあっては、回収処分することとしている。
 母乳汚染については、厚生省において昭和47年7月から8月にかけて、全国の113地区671例の産婦の母乳について調査した結果、農村地区の1例を除く670例の母乳からPCBが検出されており、全乳あたりのPCB濃度別分布は第4-7-6表に示すとおりであり、最高値は0.2ppm、平均値は0.035ppmであった。
 地区別にみると漁村地区、都市住宅地区が高く、農村地区は、これにくらべて低かった。
 また、地域別にみると、東日本地域にくらべ西日本地域の方が高く、西日本の中でも、瀬戸内海周辺地域に高い傾向がみられた。
 今後の対策としては、? 母子の健康状態の観察に十分な考慮を払うと同時に妊婦および授乳婦の保健指導を行ない、? 現在、PCBの胎盤および母乳を通ずる乳児への移行ならびに人体への影響、代謝等の研究が進められているが、その成果を有効に活用することによって、妊産婦および乳幼児の健康診査ならびに保健指導の一層の徹底を図ることとしている。
 PCBによる労働者の健康障害予防対策として、労働省は、特定化学物質等障害予防規則(昭和46年労働省令第11号)を制定し、PCB取扱い事業場に対し、一斉監督指導を実施した。
 また、一部のPCB取扱い事業場に対し、作業環境気中PCB濃度の測定ならびにPCB取扱い労働者の健康診断を実施したところ、作業環境気中PCB濃度は、PCBが含浸タンクからもれた場所を除き、一般作業環境下においては、特定化学物質等障害予防規則で定めた抑制濃度0.5mg/m
3
以下であった。また、労働者のなかに皮ふ炎を生じているものが一部見受けられたが、血液、尿についての生化学的検査の結果、臨床的に異常は認められなかった。
 なお、PCBの取扱いを中止した事業場の関係労働者について、引続き健康診断を実施し、健康障害の有無の把握に努めるよう指導している。
オ 新規化学物質等の安全確保対策
 現在PCB代替品として使用されている化学物質については、毒性は少ないものと考えられるが、その毒性、分解性に関する研究およびPCB代替品取扱い事業場の実態把握を行なっている。
 さらに、PCB代替品を含めて化学品一般の安全性を確保するため、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」案を現在国会に提出しているところである。

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