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第6節 

1 農薬汚染の現況

(1) 概観
 現在、わが国で使用されている農薬は、有効成分の種類にして300以上で、登録銘柄数も5,000以上にのぼっている。その主なものは、有機りん系、カーバメート系、有機塩素系化合物等の殺虫剤、有機硫黄等の殺菌剤であり、そのほかにも除草剤、刹そ剤、植物成長調節剤がある。このうち、わが国において食品や環境を汚染することにより、国民の健康に被害を生じるおそれがあると指摘された主な農薬は、有機塩素系殺虫剤である。
 これまでに国内で消費された有機塩素系殺虫剤ではBHCが最も多く、DDT、アルドリンがこれにつづいている。わが国で使用されたBHCの大部分は、有効成分であるγ-BHC(リンデン)のほか、β-BHC等の異性体を含有するものであり、このうちβ-BHCにより汚染問題が生じた。
 汚染問題が生じたのは、これら農薬が長期間食品や環境中に残留する性質を有するためで、現在これらの農薬は使用禁止または厳重な使用制限をうけている。
 さらに有機塩素系以外の農薬についても、食品を通じて人体に蓄積し、慢性毒性を及ぼすおそれが考えられ、水産動植物等生活環境への被害が考えられるなど、農薬汚染問題の複雑かつ多様性がうかがわれ、個々の農薬についての安全性評価が要求されているところである。
(2) 農作物の汚染
 厚生省が食品衛生法に基づき食品規格として農薬残留基準を定めた当初は、それ以前にすでに土壌中に含まれていたディルドリン、DDTにより基準以上のこれらの農薬を含む農作物に稀にみうけられたが、最近では基準以上の農薬を含む農作物の流通は報告されていない。
(3) 畜産物の汚染
 45年から46年にかけて牛乳や牛肉中にβ-BHCなどBHC体各種異性が検出された。これはBHCに汚染された「いなわら」を牛の飼料として使用したことが主な原因であつたが、農薬取締法の改正によつて農薬の使用が禁止されたことにより、牛乳中のBHCの残留濃度は低下した。一方、厚生省は46年6月に牛乳につきβ-BHC、ディルドリン、DDTの暫定許容基準を定めたが、最近はこれらの農薬を基準をこえて含む牛乳の流通は見られない。
(4) 母乳の汚染
 46年11月から47年2月にかけての厚生省の調査結果によれば、調査対象母乳のすべてから、β-BHC、DDTが、またその約70%からデイルドリンが検出されたが、46年1月から3月にかけての調査の結果にくらべれば濃度は低下の傾向にある。
(5) 農用地の汚染
 44年から45年までは有機塩素系殺虫剤のうち、BHCは水田および畑地で、アルドリン、ディルドリン、エンドリンは畑地で使用され土壌中に残留する結果となった。しかし、農薬取締法の改正に伴う使用規制措置により、農用地におけるBHC、アルドリン等の残留も逐次減少の傾向をたどっている。

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