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第2節 

1 地盤沈下の概況

 地盤沈下の歴史は古く、東京と大阪においては、昭和初期にはすでに顕著な沈下が確認されている。
 その原因についてはこれまでに多数の説が出されてきたが、長期間にわたる観測と研究の積み重ねの結果、無視しうる程度の自然的な地殻変動等を除けば、地下水を採取したために地下水位が低下し、それに伴って地層が収縮する現象であることが明らかになっている。
 このことは、太平洋戦争末期から終戦直後にかけて、地下水の汲上げがほとんど停止した時期に、東京や大阪における地盤沈下がほぼ停止した事実によっても実証されているが、最近における代表的な地盤沈下地域の例をみても肯定される(第4-2-1図)。
 わが国の地盤沈下地域は、戦前には東京、大阪およびそれらの周辺地域に限られていたが、最近では程度の差こそあれ全国的に多数分布している。これらの地盤沈下地域を示せば第4-2-2図および参考資料10に示すとおり、31都道府県に及ぶ46地域である。
 これらの地域が地盤沈下地域とされるのは、主として水準測量(土地の標高を定めるための測量)の繰り返しの結果、通常起こりうる自然の地殻変動等を上廻る土地の低下が認められるためである。したがって、首都圏南部地域等のように、毎年定期的に広範囲にわたって地盤沈下量の測定を目的とした水準測量が行なわれている地域の他は、建設省国土地理院の行なっている全国的な一等水準測量の結果等によって部分的に地盤沈下が検知される程度なので、沈下の程度や範囲が正確にわかっているわけではない。参考資料10に示した数値は一応の目安を与えるものである。
 第4-2-2図に示した地域のうち、地盤沈下の進行程度が比較的激しく、すでに各種の被害を生じている地域としては、首都圏南部、濃尾平野、青森平野、七尾等の各地域があげられる。かつて著しい沈下を経験した阪神および新潟平野地域においては、一般の地下水や水溶性天然ガスに伴う地下水の採取規制等の効果が現われ、最近では一部地区を除いて沈下が終息しつつある。その他の大部分の地域においては、まだ地盤沈下の進行が初期の段階にあり、被害も軽微であるか認められない程度であるが今後激化する恐れは大きく十分な警戒が必要である。
 地盤沈下の原因が、無視し得る程度の自然的な地殻変動等を除き、地下水(一般の地下水のほか水溶性天然ガスを含むものおよび温泉がある。)の採取に帰せられることはすでに述べたが、このように最近になって多数の地盤沈下地域が生じたのは、産業の発達や生活程度の向上等に伴って水需要が増大しそれに応じて各地で地下水採取量が増大したためであると思われる。地下水の用途には種々のものがあり、たとえば淡水資源としても、工業用、水道用、農業用、冷暖房設備、水洗便所、洗車設備、浴場、し尿処理施設、プール等の施設用、消雪用等様々である。
 これらの用途にわが国で使われている地下水の量は正確に把握されているわけではないが、最近1年間の使用量は、工業用に56億m
3
/年、上水道用に29億m
3
/年、農業用に33億m
3
/年、その他用に9億m
3
/年程度と見積られる。

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