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第1節 

4 水域分類別水質汚濁の状況

(1) 河川
ア 大都市またはその近郊を貫流する大河川、例えば木曽川等は大都市の重要な上水道源である。これらの中にはかなり汚濁の進行している河川もあるが比較的早くから排水規制および下水道の整備の努力がなされており、ようやく改善のきざしがみえ始めた。しかしながら鶴見川のように宅地開発のテンポ等が著しく、未だ悪化の傾向をたどっている河川もある。
イ 都市内中小河川
 東京、大阪、名古屋等の市内河川、例えば目黒川、立会川(東京)、土佐堀川(大阪)、堀川(名古屋)等は共通して、一般的には河川流量が少なく、水質もBOD値で10ppmを越える箇所が大部分であり、魚介類の生息し得ない死の川となっている。また長年の汚濁物質が河床に堆積し、大きな悪臭発生源になっていることが特徴的である。このような河川は地方の中核都市である福岡市(那珂川)、高松市(詰田川)、京都市(鴨川)、和歌山市(和歌川)等においてもみうけられ、最終的な水質改善は下水道の整備に待たなければならない。
ウ 地方の大河川
 一般的に地方の大河川は流量が多く、エで述べるような大きな汚濁負荷を有する工場が立地していない限り、BOD値で1〜3ppm程度の水質を維持しており、利水上とくに大きな支障はない。しかしながら大河川では下流部に都市が位置し、上中流部に比較して下流部では水質が悪化しているのが一般的なパターンである。
 代表的な河川としては、最上川、信濃川、九頭竜川、江の川、吉野川、筑後川等がある。このような河川では流況により水質が変動するケースが多く水質の経年変化を正確に把握することは難しいが、環境基準の類型指定、排水規制等により、水質はほぼ横ばい状態、あるいは部分的に改善のきざしが現われているといえよう。
エ 流域に大きな汚濁源を有する河川
 地方の大河川でありながら、特定の工場または工場群からの排出水により、水質が著しく汚濁している河川がある。また、その地域の特殊な産業により季節的に汚濁する河川がある。
 前者の代表的な河川としては、北上川、渡良瀬川、阿武隈川、加古川等があり、後者は常呂川、網走川、川内川等がある。
 これらの河川で共通した特徴は全水系のうち工場等の立地している附近の水質がとくに汚濁していることと、水産業等に大きな被害を与えていることである。
 これらの河川では工場排水が主要汚濁源であるので、排水規制の強化によりかなり改善されることが期待される。
 わが国の主要河川における汚濁源と被害状況を示したものが第3-1-5表である。


(2) 湖沼
 湖沼は、自然の状態においても、窒素、リン等の栄養塩類が流入することによって、湖水中の生物が繁茂成長し、さらに生物体内に移行することによって、湖水中に蓄積され、累進的に水質が悪化するところのいわゆる富栄養化が進行する。
 この湖沼の富栄養化は、不可逆的であるといってよく、一度富栄養化すれば、その後に汚濁源を排除しても湖沼の流水停滞性からして容易にもとの状態にもどらないことがその特徴である。この点において、湖沼の水質汚濁は河川とは異なった側面をもち、湖沼の大きな弱点となっている。
 最近のわが国の湖沼の水質汚濁状況についてみると全般的に汚濁が進行している傾向にある。
 比較的山間部に所在し、大きな流入汚濁源もなく、貧栄養湖の特徴である透明度の大きさを誇っていた十和田湖や洞爺湖等は最近のレジャーブームによる観光開発により、局地的ながら、かなりの汚濁が進行し、透明度が低下しているものも見受けられる。こうした汚濁により貴重な観光資源が失われようとしているこの時点で、早急に湖沼保護の抜本的な対策を講じなければ、取りかえしのつかないこととなるであろう。
 また、湖沼は重要な水源でもあり、その代表的な湖沼としては首都圏における霞ヶ浦、近畿圏の琵琶湖等がある。
 このような水源となり得る湖沼は比較的都市部近郊に位置しているケースが多く、湖周やこれに流入する河川の流域における宅地開発、産業の活発化に伴って家庭排水、工場排水が増大し、富栄養化のテンポが自然の状態に比較して著しく促進されている。その一例として、富栄養化の重要な指標であるアンモニア態窒素の経年変化を琵琶湖についてみれば第3-1-6表のとおりであり、年を追うごとに富栄養化が進んでいることがわかる。
 湖沼の富栄養化現象が進行するとプランクトン、藻類が異常発生し、これに起因すると思われる異臭(かび臭)が季節的に発生し、上水道用水に大きな被害を与えている。このような現象は琵琶湖水系では40年頃から、霞ヶ浦水系では45年頃から生じており、年々深刻化している。この異臭をなくすには、現在では活性炭ろ過による方法しかなく、浄水単価が著しく増加している。
 また、プランクトン、藻類の異常発生は水道のろ過池の閉塞障害を起こし、浄水操作をさらに困難にしている。
 そのほかの富栄養化による被害として、児島湖では「ほていあおい」が異常に繁茂し、これが海域に流出し、のりひび等にかかり、操業に支障をもたらす等の被害が発生している。
 さらに、貧栄養湖にはマス等が生息しているが、富栄養湖になると汚水に強いコイやフナが繁殖し、大幅に魚種が変化するという問題もある。


(3) 内湾
 近年における臨海工業地帯の拡大および産業活動の増大ならびにこれに伴う都市化と人口集中により、臨海工業地帯の地先海域は非常に汚濁され、それに接続する瀬戸内海、伊勢湾、東京湾等の内湾、内海も広範囲に汚濁される結果となり、赤潮の多発化、長期化をもたらしている。
 しかし、最近は種々の汚濁防止対策が講ぜられているため、瀬戸内海、東京湾、伊勢湾等を除くその他の水域では汚濁の進行が鈍化し、水質の状態はやや好転しつつある。
ア 東京湾の水質汚濁状況
 東京湾の水質汚濁は、近年における都市化の一層の進展と京浜工業地帯等の高密度の工業発展により、年々深刻化の一途をたどっている。
 汚濁源が集中しているのは、これら京浜、京葉工業地帯および荒川、隅田川、多摩川等の都市河川流域である。これらの地域の汚濁負荷量は、東京湾に流入する総負荷量の約90%を占め、またこのうち、河川から流入する負荷量は55%と高い。従って、東京湾の水質は、横浜から川崎、東京を経て千葉市に至る地先海域が最も汚濁しており、CODの年平均値は4ppmを越え、東京湾内で10ppm以上のところがある。これら沿岸部を除く富津崎より内部の中央部および富津崎と観音崎を結ぶ線以南の大部分ではほぼ2ppm以下となっている。
イ 伊勢湾の水質汚濁状況
 伊勢湾内の汚濁水域としては、名古屋港、四日市港、衣浦港を中心とする地先海域があげられ、これらの海域では石油化学、鉄鋼、機械等の工場が立地し、これらの工場排水と都市下水により水質が悪化している。とくに名古屋港内はCOD7ppm程度と水質汚濁が著しい。しかし、名古屋港や四日市港は、41年当時に比して水質はやや改善されており、これらの水域を除いた中央部では平均COD2ppm程度、知多半島以南では、COD 2ppm以下である。
ウ その他
 前記のほかに漁業基地としての八戸港、塩釜港、鉄鋼業を含む工業港としての釜石港、鹿島港、日本海側の商業港としての新潟港の水質汚濁状況をみると、47年の平均水質(COD値、新潟港のみBOD値)は、いずれも環境基準に適合しており、八戸、釜石および新潟の各港は41年当時より水質は改善されている。また、塩釜港および鹿島港の水質については、44年当時に比して改善されたとはいえないが、46年度と比較してやや改善のきざしがみえる。

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