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第1節 

1 水質汚濁の概況

 水質汚濁による被害は、水俣地区や阿賀野川の水銀中毒事件、神通川流域におけるイタイイタイ病等の深刻な健康被害にはじまり、瀬戸内海等における赤潮による水産資源の被害、都市内河川の悪臭の発生等による環境の悪化、飲料水の質的な低下等枚挙にいとまがない程にわれわれの日常生活を脅かしつつある。
 こうした水質汚濁は、戦後、とくに昭和30年代以降の種々の経済発展計画に基づく急速な産業の進展によるところが大きく、さらに都市部においては、人口の急激な集中とこれに対応する下水道等の社会資本整備の立遅れに起因すると考えられる。
 最近のわが国の水質汚濁の状況を示したものが、第3-1-1図第3-1-2図および参考資料8である。これによれば、41年の年間平均水質と47年の年間平均水質を比較してみると60カ所中汚濁が進行していると思われる箇所が28か所、改善方向もしくは横ばい状態にあるのが32か所である。また、44年の年間平均水質と47年の年間平均水質を比較してみると68か所中改善方向に向っている箇所が32か所、横ばい状態にある箇所が15カ所、汚濁が進行していると思われる箇所が21か所となっている。
 全国的には、水質汚濁はようやくピークに達したものと思われ、一部では改善のきざしが見受けられる。
 しかしながら、大都市の市内および近郊河川はいぜんとして、極めて汚濁の程度が著しい。また、停滞性、閉鎖性を有する湖沼、内湾においては汚濁が進行している箇所が多く、改善対策を講じても、容易に元の水質に改善することは難しい。このような水域において、汚濁が進行することは、重大な問題として今後とも十分注目しなければならない。
 その他の地方の大河川においては、排水規制の効果がようやく現われはじめ、改善方向に向っているものがあり、全体的には現状維持または好転の兆候がみえはじめたといえよう。
 さらに、地域的に眺めると、首都圏、中部圏、近畿圏に所在する都市およびその周辺の水域の汚濁が著しく、人口の増加傾向にある地方中核都市や産業の集積の大きい新産業都市および工業整備特別地域がこれに次いでいる。
 また、汚濁の態様については、依然として有機汚濁が大部分であるが、原子力発電所、火力発電所からの温排水、あるいはダム築造に伴う濁水の長期化等の問題も生じ、新たな社会問題となっている。
 また、公共用水域におけるカドミウム等の有害物質による汚染状況を45年度および46年度に調査したものが、第3-1-1表である。
 この結果によると、環境基準を越える割合が45年の1.4%から0.6%と大幅に減少しており、とくにカドミウム、総水銀、ひ素において顕著である。
 さらに、最近、とくに問題となっているPCB(ポリ塩化ビフェニール)による環境汚染の実態を調査した結果、(第7-2-3表参照)水質の汚染は比較的少ないが、底質は相当汚染されている場所もあることが明らかとなった。また、魚介類にも汚染が認められていることもあり、今後、その挙動について十分監視しなければならない。

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