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第1節 

2 汚染物質別の大気汚染の状況

(1) いおう酸化物
ア 汚染状況の推移
 いおう酸化物は、その大部分が化石燃料の燃焼に伴って発生しており、とくに燃料としての重油の中に含まれるいおう分が燃焼に伴ってガス化することにより発生する。
 近年におけるわが国の石油系燃料消費量の増加にもかかわらず、いおう酸化物の濃度は、昭和42年度〜43年度を境に横ばいあるいは減少の傾向を示してきている。とくに従来汚染の著しかった東京、川崎、大阪など大都市地域では明らかに減少傾向を示している(第2-1-1表)。これは、大気汚染防止法(以下「法」という。)による規制の強化および低いおう原重油の輸入の増大、重油脱硫の実施等の燃料の低いおう化対策、排煙脱硫等の発生源の設備改善等が徐々に成果を示してきたことによるものである。
 しかしながら、汚染の改善傾向が現れてきたとはいえ、大都市地域においては環境基準からみて、なお汚染状態が継続しており、また、富士市、大阪市および周辺都市等一部地域において、未だ高濃度汚染を示している地域もあるので、今後さらに施策の強化を図っていかなければならないものと考える。
(ア) 環境基準適否の推移
 いおう酸化物の環境基準の適否状況の推移を都市別・測定局別にみると第2-1-2表のとおりである。年々増加してきた測定局のなかには、汚染の進行していない地域に設置されたものも多く含まれているので、この表からはただちに環境基準適合都市が多くなったとはいえないが、不適合都市あるいは不適合測定局は測定局の急激な増加にもかかわらず増加傾向を示していない。なお、昭和46年度にあっては、45年度より不適合都市数および不適合測定局数とも減少している。
(イ) 年平均値の推移
 昭和40年度に測定を開始して以来、測定場所を変更せず、毎年継続して測定を行なっている測定局は17局である。これらの測定局は純然たる工業地域に設置されていたものではないが、いずれも多数のいおう酸化物発生源があるわが国の代表的汚染地域である大都市に設置されているものである。また、いおう酸化物自動測定局が普及しだした42年度から継続測定を行なっている測定局は62局、44年度からのものは173局である。
 これらについて年度別単純平均値をとると第2-1-3図第2-1-5図のとおりであって、いおう酸化物濃度の低下傾向がうかがわれる。とくに、第2-1-1表および第2-1-3図にみられるとおり、従来から汚染の著しかった大都市においてその改善度が顕著である。
 また、45年度と46年度の2年間継続測定を行なってきた275測定局における測定結果をもとに各測定局の年平均値の増減状況をみても第2-1-3表のとおり改善傾向がうかがえる。
イ 汚染の現況
 昭和46年度におけるいおう酸化物の全国測定結果は、参考資料3のとおりであるが、年間測定時間が6,000時間以上に達した測定局は、177都市、474測定局である。
(ア) 環境基準に適合する都市
 46年度において、地域内のすべての測定局がいおう酸化物の環境基準に適合している都市は145都市(参考資料4参照)である。このうち、前年度は環境基準に不適合であったが、46年度に新たに適合することとなった都市は17都市であり、過去(44年度以前)に環境基準に不適合であったが、46年度に適合している都市は11都市となっている(第2-1-6図)。
(イ) 環境基準に適合しない都市
 地域内の全測定局のうち環境基準に適合していない測定局をもつ都市は32都市(第2-1-6図および参考資料3参照)であり、全測定局所在都市の18%をしめている。そのうち、過去において環境基準に適合していたが、46年度に初めて環境基準不適合の測定局をもつこととなった都市は、八戸、秋田、豊中および岩国の4都市であるが、これらはいずれも増設した測定局の測定結果が環境基準に不適合となっているものである。また、46年度に初めて測定局がおかれ環境基準不適合都市となったところは、磐梯、草加、戸田、一宮、刈谷、瀬戸および笠岡の7都市である。
 また、環境基準に適合しない測定局が、地域内に2局以上ある都市は第2-1-4表のとおり11都市である。
 これらの環境基準に適合しない都市における46年度の環境基準不適合測定局は60局である(参考資料4参照)。これらの不適合測定局を環境基準の各項目ごとに分類すると、いおう酸化物に係る環境基準においては、1時間値の1日平均値が0.05ppm以下である日数が、総日数に対し、70%以上維持されることという項目が最も不適合率が高くなっている。
 過去に高濃度を測定した地域について、昭和46年度における測定結果に基づき総合的に判断すると、大体において環境基準を満たす程度に達したところは、堺市、神戸市であり、徐々に減少しているが対策にまだ努力を要するところは、東京都、横浜市、四日市市、北九州市等である。また、改善されてきてはいるものの未だ非常に高い濃度が測定されており、改善に更に一層の努力を要する地域は、川崎市(南部)、富士市、名古屋市(南部)、大阪市、尼崎市であるということになろう。


(2) 浮遊ふんじん
 浮遊ふんじんとは、一般に、大気中に長期間存在する粒子状物質のことをいい、原燃料等の物の燃焼、加熱あるいは物の破砕、選別、たい積等の過程によって発生する。昭和47年1月に浮遊粒子状物質に係る環境基準が設定された。浮遊粒子状物質とは、浮遊ふんじんのうち粒径10ミクロン以下の大気中に浮遊する粒子状物質(浮遊ふんじん)をいうものとされている。
 これまで、浮遊ふんじんの測定については、光散乱法による自動計測が一般的方法となってきており、この方法による測定結果によると、浮遊ふんじんの汚染状況は次のとおりである。
ア 汚染状況の推移
 浮遊ふんじんの測定結果を経年的にみれば第2-1-5表のとおり、全般的には44年度頃から低下の傾向を示してきており、この傾向は46年度も続いている。
 この理由としては、法等によるばいじんの排出規制と相まった石炭系燃料使用量の減少、電気集じん機等発生源における防除設備の性能の向上と設置の進展のほか、公害防止協定等による抑制等によるものと考えられる。
 昭和42年度に測定を開始して以来、測定場所を変更せず、毎年継続して測定を行なっている測定局は17局、44年度からのものは35測定局である。これらについて年度別単純平均値をとると第2-1-7図および第2-1-8図のとおりであって、浮遊ふんじん濃度の低下傾向がうかがわれる。
 また、45年度と46年度の年平均値の測定局別濃度分布を比較すると第2-1-6表のとおりであり、45年度と46年度を単純に比較することは測定局数が相違するのでできないが、年平均値が0.101mg/m3以上の測定局は、測定局数が46年度の方が多いにもかかわらず減少しているところから、この表からも全国的な測定結果は全般的に低下傾向を示しているといえる。
イ 汚染の現況
 昭和46年度における浮遊ふんじんの全国測定結果(測定時間6,000時間以上の測定局)は、参考資料5のとおりであって、測定対象都市数98都市、測定局数は216局である。
 浮遊ふんじんの測定値には粒径10ミクロン以上の粒子も入っているので、この測定値を直接環境基準と比較することはできないが、日平均値の最高値が0.1mg/m
3
をこえたことがない都市をあげると、室蘭、七ヶ浜、塩釜、三郷、滑川、敦賀、富士宮、松江、新南陽、徳山および川内の11都市であり、測定を行なっている都市の約11%にすぎない。また、測定局別では216測定局中24測定局(12%)である。
 また、1時間値の最高値が0.2mg/m
3
をこえたことがない都市は、三郷、松江および新南陽の3都市であり、測定局別では室蘭(日鋼アパート)、三郷(市役所)、市原(国設)、富士(勤労青少年会館)、松江(国設)、新南陽(市役所)、新居浜(新居浜工業高校)の7測定局である。したがって、測定局のある大半の都市は浮遊ふんじん対策の一層の強化を図ることが必要とされているところといえよう。
 年平均値の濃度の高い測定局を示せば、第2-1-7表のとおりである。また、年平均値0.1mg/m3以上を2以上の測定局で記録した都市は第2-1-8表に示す10都市である。
 以上のような整理によって、浮遊ふんじんについては、安中市および堺市のような金属製錬工場をもつ地帯の測定局に高濃度汚染がみられ、横浜市、京都市、大阪市およびその周辺都市に比較的高濃度の測定局がみられる傾向にあるということができよう。


第2-1-8表 年平均値0.1mg/m
3


(3) 窒素酸化物
 窒素酸化物は一般に一酸化窒素(NO)および二酸化窒素(NO2)の総称であって、窒素酸化物の環境測定は、一酸化窒素と二酸化窒素をそれぞれ測定し、その測定値を合計したものを窒素酸化物(NO+NO2)として算出している。なお、窒素酸化物の測定は、ザルツマン試薬を用いる吸光光度法によっているが、その測定値の補正係数(ザルツマン係数)については、窒素酸化物等に係る環境基準についての専門委員会報告では、0.72を使うと提案されているが、わが国では、従来からザルツマン係数を0.5としているので、以下ザルツマン係数を0.5として示してある。
ア 汚染状況の推移
 窒素酸化物は、物の燃焼に伴って必然的に発生するものであり、燃焼条件によってその発生量は大きく変化するが、200〜2,000ppmが発生する。したがって、現在まで自動車以外のものについては、規制措置が行なわれていない関係上、燃料使用量の増加に伴い、窒素酸化物による大気汚染は進行する傾向にあるものと考えられる。
 この経過を経年的に把握することは、全国的に常時監視測定局がまだ十分な設置をみていない関係から困難であるが、数少ない二酸化窒素の測定結果について経年変化を追ってみると第2-1-9表のとおりであり、また、昭和43年度から継続測定を行なっている8測定局の年度別単純平均値は第2-1-9図のとおりである。この表および図からみる限り、45年度まで漸増はうかがえるが、45年度から46年度にかけては、その傾向は定かではない。
 なお、窒素酸化物対策は、改善見通しのある程度立ったいおう酸化物対策に代って、今後の大気汚染問題においてもっとも重要なものとなっている。
イ 汚染の現況
 昭和46年度における二酸化窒素の全国測定結果(測定時間6,000時間以上の測定局)は、参考資料6のとおりであって、測定対象都市数22都市、測定局数は34測定局である。
 年平均値についてみると、年平均値0.072ppm以上を示した測定局は、川崎(川崎保健所)のみである。
 日平均値の最高値についてみると、年間を通じて日平均値の最高値が0.029ppm以下の測定局は、1測定局もみられない。これを0.072ppm以下のものとしてみると第2-1-10表の7局が該当する。
 (注) 0.029ppm(ザルツマン係数0.5で補正)は、窒素酸化物に係る環境基準についての専門委員会報告で常に維持されるべき濃度条件について、1時間値の24時間平均値として提案された0.02ppm(ザルツマン係数0.72で補正)に相当する。
 また、法第23条第1項に定める緊急時の措置の発動要件に該当する濃度である1時間値が、0.5ppm以上となったことがある測定局は、千葉(市役所)のみである。


(4) 一酸化炭素
 一酸化炭素による大気汚染の主たる発生源は、自動車の排出ガスである。したがって、その汚染の程度、あるいは自動車に対し汚染防止のため行なわれる規制の効果を把握するには、交通量のはげしい道路際において一酸化炭素濃度を測定し、その経過をみることが必要である。しかし、道路際における一酸化炭素濃度の経年変化は、第2-1-11表のとおり、その測定局がきわめて少数であるため全般的な傾向を概観することはできないが、都内3か所の道路際の測定局における一酸化炭素濃度は昭和39年以来漸増したが、45年には初めて減少し、46年にも引き続き減少傾向を示している。また、45年度および46年度に測定された、名古屋、大阪、神戸、北九州の各市の交通のはげしい道路際で測定された一酸化炭素濃度の測定値も第2-1-12表のとおり、前年度に比較するとほぼ横ばいの傾向にある。これらのことを考え合わせると、自動車排出ガスに対する規制の効果が現れてきているのではないかとうかがわれる。
 環境基準の適合状況をみると、道路際の測定局のデータをもって当該地域全体の汚染を判断するのは必ずしも適切ではないが、昭和46年においては、都内3か所の道路際の測定局では、第2-1-13表に示すとおり、大原測定局を除き環境基準に適合しており、大原測定局についても環境基準の不適合率は大幅に減少している。
 次に、非道路際の一般環境大気測定局の一酸化炭素濃度の経年変化についてみると、第2-1-14表に示すとおりであり、44年度から減少傾向を示していたものが、46年度においてはほぼ横ばい傾向を示している。


(5) オキシダント
ア 汚染の推移
 オキシダントは、光化学反応による大気汚染の状態を示す一つの指標として近年非常に注目されてきている。オキシダントの測定局は昭和46年度から増加してきているが、新しい測定局が多いので経年変化をみることはできないが、昭和43年度から継続測定を行なっている2測定局の測定結果を示すと第2-1-15表のとおりであり、この表からみる限り汚染の進行は認められない。しかしながら、オキシダントは長時間の低濃度の慢性的影響もさることながら、現在では、1時間なり数時間の高濃度による急性的な影響が問題となっているものである。
イ 汚染の現況
 昭和46年度におけるオキシダントの全国測定結果(測定時間6,000時間以上の測定局)は、参考資料7のとおりであって、36測定局(19都市)で行なわれたが、このうち法第23条第1項に定める緊急時の措置を必要とする濃度である、1時間値0.15ppmをこえた測定局は33局である。
 法第23条第4項に定める緊急時(いわゆる重大緊急時)の発令要件としては、1時間値0.5ppm以上であることとしているが、わが国では46年度までこの値を記録した測定局はない。
 次に、1時間値の最高値が0.3ppm以上を示した測定局は、川崎(川崎保健所)の0.35ppmおよび和光(市役所)の0.30ppmの2測定局である。
 なお、1時間値の最高値でもっとも低い値を示した測定局は、大阪(国設)および吹田の0.12ppmである。
 光化学反応による大気汚染が問題となるような都市で測定局が置かれているところについては、1時間値0.5ppmをこえるような異常な高濃度もみられない代りに、全測定局36局中33測定局が、法第23条第1項に定める緊急時の発令要件の1時間値0.15ppm以上の濃度を記録している。
 オキシダントの主成分であるオゾンは自然界において発生し、その濃度は1時間値で最高0.05ppm程度とされているが、オキシダント濃度が年間を通じて1時間値0.05ppm以下の測定局が1局もないところから、光化学反応による大気汚染の存在は否定できないといえよう。


(6) 炭化水素
 炭化水素は、光化学反応による大気汚染の起因物質の一つとして重要な物質であり、最近においてその測定が始められたところである。
 昭和46年度における炭化水素の測定は、一般環境大気測定および自動車排出ガス測定局を合わせて、13測定局であり、測定局が非常に少ないので、これらの数値から評価を加えることはできない。
 参考として、3年以上継続測定が行なわれている2測定局の測定結果を示すと第2-1-16表のとおりである。

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