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第1節 

1 大気汚染の概況

 一国あるいは一都市の大気汚染の状況は、その国あるいはその都市における生産・消費活動の状況とくにそれらの活動に使用される原燃料の質、量などの社会的条件と深い関係があるが、他方、当該地域の自然条件とくに風・雨などの気象条件とも密接にかかわっている。
 さらに今日では、これらの条件のもとで生じる大気汚染に対して、各地で行政的な制御がなされていることを考慮すると、大気汚染の現状は、大気汚染に対する諸施策の進展の程度としてみることもできる。
 わが国の大気汚染については、国民の諸活動の主たるエネルギー源となっている石油、石炭等の化石燃料や鉱石等の原料の燃焼等に伴って発生するいおう酸化物、浮遊ふんじん、窒素酸化物および一酸化炭素による大気の汚染が重視される。さらに近年各種の汚染物質が太陽の紫外線の作用をうけて、光化学的な反応を起こすことにより、二次的に生成されるオキシダント等による大気汚染がとみに注目されている。
 これらの汚染物質による大気汚染の状況については後述のようにいおう酸化物など改善の方向がみられるものがあるが、総じて環境汚染の程度は高いレベルにあるといえよう。これは、わが国が一般的に大気汚染にとって有利な気象条件にあるにもかかわらず、狭い国土で主として化石燃料をエネルギー源として、めざましい生産活動等が行なわれていることに起因していると考えられる。
 このようなわが国の汚染の状況を知るうえで、諸外国の状況と対比することも一方法であるが、諸外国の測定データの収集が不足していること、測定方法が必ずしも同一ではないことなどからきわめて困難である。
 しかし、ちなみに、アメリカの環境白書に示されているデータの範囲で、わが国とアメリカの主要都市の大気汚染の状況について代表的汚染物質ごとに比較してみると、第2-1-1図のとおりである。
 同図で明らかなように、窒素酸化物はアメリカにおいて高く、いおう酸化物および浮遊ふんじんは日本において高くなっている。
 こうした両国の大気汚染の状況の差異の背景として、まず両国の主要燃料の差異(アメリカ:天然ガスの比重が高い。西海岸はもともと天然ガスが多い。日本:大部分が中近東からの石油燃料)が考えられねばならない。窒素酸化物については、測定方法の違いが両国間の汚染データの差に大きく反映しているといわれているが、窒素酸化物のように本格的な対策技術がまだ実用化されていない汚染物質については、両国の各都市における燃料消費量の違いが大気汚染の差となって現れていると考えられる。
 しかし、アメリカにおいては、発生源の大気汚染防止対策として早くから集じん装置や排ガス処理装置の設置など各種の対策がすすめられていたことを考えると、わが国のいおう酸化物、浮遊ふんじんによる大気汚染の現状については、低減の方向にあるものの、なおいっそう改善する努力が要請されているといえよう。
 逆に、東京とロスアンゼルスの高濃度オキシダントの月別発生日数をみると、第2-1-2図のとおりであり、両都市の高濃度オキシダントの発生状態に大きな差異があることがわかる。
 すなわち、ロスアンゼルスでは年間を通じて発生しているのに対して東京では4月から10月までであり、発生日数もロスアンゼルスの方がはるかに東京を上回っている。
 このように発生日数や発生期間に大きな差異があるのは、両都市の大気汚染の態様が異なることも原因の一つであるが、両都市の気象状態が、かなり相違していることがおもな原因であると考えられる。
 次に、わが国における主要汚染物質について昭和46年度の測定結果に基づき、近年の汚染傾向を概観してみる。
 いおう酸化物(SOx)については、全般的にみて昭和45年度に引きつづきその汚染はさらに減少の傾向にあり、これまでの排出規制の効果が現れてきたことがうかがえる。とくに、従来汚染の著しかつた東京、川崎、大阪等の地域においては、明らかに減少傾向を示してきている。しかしながら、なお一部の地域においては改善はみられるものの、いまだ高い汚染状態にあるところもあり、施策の強化が必要とされる。
 大気中に浮遊する比較的粒径の小さい粒子状物質である浮遊ふんじんについては、全般的に改善の傾向にある。
 窒素酸化物(NOx)については、現在まで自動車以外のものについては規制装置が行なわれていない関係上、燃料使用量の増加に伴い汚染が高まることが考えられ、現時点においては、測定局が十分整備されていないこともあり、全般的な汚染の傾向を把握することは困難であるが、主要都市におかれた測定局のデータでみる限り漸増傾向は否定できない。
 一酸化炭素については、全般的な汚染状況を概観することは困難であるが、交通ひん繁な道路際の測定局の濃度は、年々増加の傾向にあったが、45年度からは減少傾向を示し、46年度のデータもそれを引きついでいる。

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