前のページ 次のページ

第3節 

1 地域開発の推移と現状

 わが国30年代の高度経済成長の担い手となった企業は生産拡大の場となる新しい工場用地を求めて進出し、各地において所得向上をもたらすと同時に既存の工業地帯の汚染を一層増大させ、新規開発の地域にはそれまで存在しなかった環境破壊を生み出していった。第2-3-1表は、過去ほぼ10年間における県民所得の増加、工場進出数、推定汚染負荷量の増加について、都道府県別に最も大きいものから順に5位までならべたものである。ここでは汚染の増加を示す一つの指標として、工業出荷額から推計したいおう酸化物の推定排出量の伸びをみている。これは、環境中の汚染物質濃度と直接結びつくわけではなく、また多くの汚染因子のうちの一つをとりあげたという限界はあるが、大勢としての汚染の増加を示す指標と考えれば、県民所得の向上の度合が高い値を示している埼玉県、千葉県などが、同時に工場進出や汚染増加の著しい県となっている。
 ここでは、地域開発の推移とそれがもたらした環境破壊の進行を工業開発に着目してみることとしよう。
 まず、わが国の土地利用形態を全体としてみると、第2-3-1図におけるように、森林原野が全国土面積の71%を占めているのに対し、平地は、わずか19.4%にすぎない。しかも、このうち農用地が16.2%を占め、残り3.2%の部分を宅地、工場、道路用地等として利用している状態にある。工業開発は、このような国土の条件のもとで行なわれてきたわけで、工業開発のための新規用地は、第2-3-2図にみるように、既存の宅地、農地、原野の転用のほか、埋立てによるものもかなりの部分を占めている。
 こうした新規工業立地は、大消費地を背後に控えた既存の大工業地帯の周辺地域や、海上運送の条件など立地条件の良好な臨海部において主として進められてきた。工場用地は、35年から45年にかけて6.2万ha増加したが、このうち、埋立てによるものが9800haと約15.7%を占めている。
 その結果、わが国の工業地域は、従来の京浜、中京、阪神、北九州の四大工業地帯から鹿島、千葉、四日市、水島などの臨海工業地帯の建設によって東西に結びつき、太平洋ベルト地帯といわれる一大工業地域を形成するに至った。
 この間の事情を産業基盤投資状況や事業所の設置状況でみよう。
 工場進出の前提となる道路、港湾、工業用水道等の産業基盤に関する行政投資の実績は、第2-3-3図にみるとおり、太平洋ベルト地帯に集中しており、33年度から45年度までの間において関東臨海、東海、近畿臨海地域の三大圏で全体の53.7%を占めており、北海道、東北、南九州地域と際だった対照をみせている。また、事業所数も、第2-3-2表のとおり、三大圏を中心に増加してきた。
 しかも、こうした太平洋ベルト地帯における新規工業開発は、集積の利益を求めて、大型装置産業とその関連産業が有機的連携を保ちつつ集団的に立地するコンビナート方式をとるものが多く、これによりわが国産業の生産力は一層高まった。
 全国工業出荷額に占める太平洋ベルト地帯の割合を関東臨海、東海、近畿臨海および山陽地域についてみると、30年においてもすでに68%を占め、40年には73%、45年には72%とやや鈍化傾向をみせているものの、いぜん集中化状況は解消していない。とくに、わが国の大気汚染または水質汚濁に対する寄与率の大きい5業種(いおう分の寄与率の高い鉄鋼、窯業・土石およびBOD負荷量の寄与率の高い紙・パルプ、食料品、化学)のこれら地域における出荷額の伸びをみると、第2-3-4図にみるように全国の伸びを上回って拡大し、これら地域の全体に占める割合は、昭和30年には58%だったものが、45年には70%に大きく上昇している。
 このようにコンビナート方式を挺子とする太平洋ベルト地帯の生産能力の飛躍的集積は、これら地域における都市化による過密を生じさせるとともに、深刻な環境汚染問題を引き起こした。
 第2-3-5図は、いおう分の単位面積当たり負荷量と人口密度の関係が30年から44年にかけてどう変化したかを試算したものである。これによると、関東臨海とか近畿臨海とか人口密度の高い地域ほど、汚染因子負荷量が高く、しかもこうした地域では、なお、人口密度の増加と単位面積当たり負荷量の増加とが同時に進行している。
 関東臨海地域でみると可住地1km
2
当たりのいおう分負荷量は、30年4,600kgから44年37,000kgに増加しているものと試算される。

前のページ 次のページ