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第2節 

2 企業活動と環境汚染

(1) 企業活動と環境汚染
 次に、ミクロ的な観点から、企業活動と環境汚染との関係をみてみよう。大気汚染(いおう酸化物)、水質汚濁(BOD負荷量)について、発生源別の汚染負荷割合を試算したものが第2-2-4表であるが、これによると、工場、発電所などの企業活動によるものがその大部分を占めている。
 また、騒音についてみると、その発生源は多種多様であるが、苦情件数では第2-2-5図のように工場騒音が最も多くなっている。工場騒音が公害をもたらす原因としては、機械等の発生音量が大きいこととか、整備不良の機械の使用、建物構造の不備等があげられるが、住居と工場が混在または近接している現今の土地利用状況にも原因があるといえる。
 地盤沈下についても、その原因のほとんどが、工業用、ビル冷暖房用に企業が地下水を汲み上げるか、企業の天然ガス採鉱に伴って地下水をも採取するために地下水位が低下し、それに伴って地層が収縮して生じたものである。全国で最も大きい地盤沈下が生じている千葉県の場合、46年12月現在の県の調査によると、月量約100万トンの地下水のくみ上げが行なわれており、工業用水が41万トンと全体の約4割をしめている。
 廃棄物については、東京都についてみた場合第2-2-5表のとおり、1人当たりに換算した1日当たりの産業廃棄物の排出量は、1人当たりゴミの排出量の約10倍というぼう大なものとなっている。しかも、都道府県からの報告によると、事業場自らによる産業廃棄物の処理は必ずしも、適正に行なわれていないことが指摘されている。
 このほかにも、悪臭については、石油化学工業、紙・パルプ製造業、食料品製造業、畜産業等が大きな汚染源となっており、また、土壌汚染については、主として鉱山、工場等から排出された排水、ばい煙等に含まれる有害物質が長期的に農用地の土壌を汚染することにより生じている。
 企業活動に伴って汚染因子が発生することは、物理的には不可避的なことであるが、これが環境中に放出されるのを防止できず、環境悪化の大きな原因となっているのは、さきにみたように市場経済の中で、環境資源消費のコストが内部化されなかったことによるわけである。このことは、過去の企業の公害防止投資が不十分であったことからもうかがえる。
 企業の公害防止投資比率は、第2-2-6図第2-2-6表にみるように、最近では、大企業でみる限り10%程度とアメリカの公害防止投資比率と比べても、かなりの水準を示してきているが、過去においては低水準であり、とくに鉄鋼、石油化学、紙・パルプ等の環境資源多消費型の産業の公害防止投資までが、低い水準にとどまっていた。
 また、企業の中でもとくに中小企業は、近年においても技術面、資金面等からの制約により公害防止投資は立ち遅れているとみられ、大企業との格差でみると、第2-2-7表のとおり、工業出荷額の格差に対して、公害防止投資比率の格差はさらに大きいものとなっている。こうした中小企業の立ち遅れは、第2-2-7図のような理由によるものと考えられる。技術面では、中小企業に合った安価で高性能の防止機器の改良・開発が不十分なこと、資金面では、公害防止機器が一般的に他の機器に比べて機能集積度の高い商品であるため、かなり高額にのぼる資金負担を強いられること、また、用地面では、公害防止装置は概して大型のものであるために、防止施設を設置するスペースが確保できないこと等の様々の制約要因によるものと考えられる。


(3) 環境汚染と企業責任
 各種公害の発生の主因が企業活動にあり、企業の責任を指摘する国民の声は高まっている。公害問題の原因に関する世論調査によれば、第2-2-8表のとおり、公害問題を引き起こしたのは、「企業の責任感の不足」によると考えているものが最も多く、しかもその割合は41年には33%であったものが46年には50%と半数に達している。
 一方、企業側においても、各方面にわたる深刻な環境汚染の実態に直面し、経営者の意識においても変化がみられ、現実の対策においても、その公害防除努力はようやく本格化しようとしている。
 NHKの行なった一流企業100社の社長に対するアンケート調査によって公害問題に関する経営者の意識の変化をみると第2-2-8図のとおり、45年当時は、半数近くが公害の発生をやむをえないとしていたが、47年では経済成長を抑えても公害防止に努めるべきだとしている者が6割となっている。
 また、汚染防除対策の面でも、さきにみたように、公害防止投資比率は、47年度、製造業および電力の1,236社平均で10.4%の水準にまで高まり、公害防止関連の研究開発投資および技術研究者の数も、逐年増加をみせ、46年には大企業2,823社平均で総研究費ないし、総研究者数に占める割合でみてそれぞれ6.3%および9%となった。海外からの技術導入件数に占める公害防止関連技術の割合も30年度までの平均2.4%から46年度には5.2%となった。
 また、地方公共団体と企業が締結する公害防止協定も、企業が地域社会と協調し、その地域の地理的社会的状況に応じた対策を講じていくものとして、汚染防除に対する企業の一つの対応とみることができるが、この公害防止協定については、47年10月現在で38都道府県、461市町村の合計499団体に対し、3,202事業所が締結しており、45年10月現在と比較すると、最近2年間で2,348事業所の増加をみせている。
 過去の環境汚染を一刻も早く除去し、新しい汚染を未然に防止していくためには、企業の公害防除努力の推進が要請される。そして、こうした企業の公害防止努力への志向は、根本的には、外部不経済である環境汚染の防止コストを経済の中に内部化していく方策によって担保されなければならない。

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