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第3節 

1 人口・資源問題と環境問題

 世界各国の民間科学者、経営者、経済学者などの集まりであるローマクラブは、47年1月「成長の限界」と題するレポートを発表した。このレポートでは、人口、天然資源、環境汚染等の関係についての計量的な分析に基づいて、限られた空間の中で、幾何級数的な人口の増加が続けば、資源の枯渇と環境汚染の激化が進行し、人類は重大な危機を迎えることになろうと警告している。この報告は、これまで人間社会の進歩として考えられてきた諸々の人間活動の拡大が、資源、環境面での限界に直面しつつあるということを強調し、人類の成長、発展のありかたについて見直そうとするものだった。
 このローマクラブの報告によっても示されているように、人口・資源問題と環境問題は密接な関連をもっており、この関係についての最近の認識の高まりは著しい。
 確かに、世界人口は近年著しく増加しており、各種資源消費量の伸びも著しい。各種資源の消費量を総合的にあらわすものとして、エネルギー消費量をみると、ここ15年間に約2倍の増加となっている。これは、世界人口の絶対数が増加していることに加えて、生活水準の向上を反映して一人当たりのエネルギー消費量が増加していることが、全体としてのエネルギー消費量の拡大を加速化しているためである(第1-3-1図?)。世界の人口は、17世紀まではほぼ200年ごとに倍増したといわれているが、18世紀半ば以降は約140年で倍増し、次の約70年でまた倍増して今日約36億人に至っており、長期的にみても増加テンポは加速化してきている。
 わが国の場合も同様である。とくにわが国は、戦後の経済の高度成長の中で、一人当たりのエネルギー消費量はこの15年間に3倍以上にもなり、全体のエネルギー消費量はこの15年間に3.5倍になっている(第1-3-1図?)。
 また、わが国の場合は、他の諸国に比べて相対的に稀少な大気、水、国土といった環境の制約の中で、相対的に著しく高密度の経済社会活動が行なわれてきたことが、環境問題を発生させやすくしている。第1-3-1表は、わが国と主要先進国について、可住地面積当たりのGNP、資源消費量等の経済社会の活動レベルと、人口当たりの環境に関連する資源の現存量とについて比較したものである。まず、可住地面積当たりの人間活動レベルを主要先進国と比較すると、GNP、エネルギー、石油消費量、電力生産のいずれの指標をみても、わが国は著しく高水準になっていることがわかる。その反面、こうした高密度の人間活動が営まれているわが国に与えられている環境関連資源の絶対量は非常に限られたものになっている。例えば、可住地面積、森林面積、水資源(年間降水量)などを他の先進国と比べると、わが国の場合は一人当たりでみたこれらの資源の量は概して少ないことがよみとれる。
 全世界においても、わが国においても、限られた環境の中で、このように人口が増加し続け、その一人一人がより豊かな生活を望んできたことが、人間活動の水準を高め、資源消費量を増加させ、ひいては環境との摩擦を強めてきたわけである。
 大気、水などの環境資源の絶対量を人為的に左右することはむずかしい以上、物質的に豊かな生活水準を得ようとする生産、消費等の人間活動の拡大と、清浄な大気、水といった環境資源の喪失とのジレンマは、世界各国、とくに先進諸国の共通の悩みとなっている。また、こうした人間活動と環境との摩擦が、これら人間活動の基本的要素である諸資源の消費そのものから生じてくるところに、その悩みの根は深いわけである。
 資源消費の拡大は、さまざまな経路を通じて多様な環境問題を引き起こしている。資源の採取から最終的な利用に至るまでに生じてくる環境問題は、第1-3-2図のように図式化できよう。
 まず第1に、資源の採取に伴う環境問題である。石炭等の鉱物資源、天然ガス、地下水等の地下からの資源の採取は地盤沈下の大きな要因となっている。また、鉱山からの鉱物資源の採取、精錬の過程においても、排水による水質の汚濁、土壌の汚染、精錬によるばい煙等の環境問題が発生している。さらに、すでに採掘活動を停止した鉱山からも、ひ素等の有害物質が流れ出し、周辺住民の健康被害を引き起こしている例もみられる。
 森林のようにそのもの自体が自然循環の中にあり、自然環境保全機能を有しつつ、木材生産という経済的資源利用が行なわれるものについては、自然環境保全機能と経済的機能の調和が保たれる必要がある。このような森林資源については、造林等によつて資源の再生産が可能であるが、森林の転用のように恒久的に森林状態が失なわれるもので、適切な管理を欠く等無秩序に行なわれるものについては、大気の浄化能力を低め、緑の喪失等の弊害をきたしている。
 第2に、資源の輸送からくる環境問題もある。例えば、年々原油・重油の海上輸送量は増大しているが、これらタンカーからのバラスト水等の排出からもたらされる海洋汚染も問題となっている。
 第3に、最も大きな問題は資源の利用に伴う環境破壊である。その最大のものはエネルギー源としての燃料消費から発生する大気汚染因子の発生である。また、プラスチック等の処理問題にもみられるように、ほとんどすべての資源の消費、利用は、環境への負荷を高めている。
 このように、人間活動の拡大にとって不可欠の要素である資源消費の増大は、環境問題の発生と密接に関連しているが、近年環境問題の重大性が認識されるようになるにつれて、資源の利用のあり方そのものを変えることによって環境問題に対処しようとする動きがみられるようになってきている。
 こうした対応の第1にあげられるのは、環境汚染をもたらさないような資源利用への転換である。例えば、いおう酸化物による大気汚染に対処して、近年は低いおう分の重油、天然ガスなどを使用する例が増えてきている。わが国の輸入原油中のいおう分の推移をみると、近年次第に低下してきており、41年度に1.99%だったものが46年度には1.56%に低下している。
 第2はクローズド・プロセス技術の採用、資源の再利用の動きである。
 資源の生産から消費に至る過程から汚染物質を出さないようにすれば、環境との摩擦を引き起こさずにすむ。また、資源の再利用は、資源の消費量そのものを節約することとなり、さきにみたような資源消費の増大からくる環境問題の発生をなくす方向に作用する。例えば、アメリカにおける試算によれば、同じ鉄、紙を作るにも、鉄鉱石から作るのと回収鉄を再利用する場合、パルプから作るのと故紙を再利用する場合では、いずれも再利用による方が原料、エネルギー等の資源消費量が大幅に節約され、環境汚染因子の排出そのものも大きく減少することが示されている(第1-3-2表)。

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