前のページ 次のページ

第1節 

1 環境汚染の現段階

 環境汚染は、いまや人類共通の最大の課題となった。
 「われわれは、歴史の転回点に到達した。いまやわれわれは、世界中で環境への影響に対し一そう思慮深い注意を払いながら行動しなければならない。無知、無関心であるならばわれわれの生命と福祉が依存する地球上の環境に重大かつ取り返しのつかない害を与えることになる。」
 昨年6月、ストックホルムで開かれた国連人間環境会議は、その人間環境宣言で、このように環境汚染に対する挑戦ののろしをあげた。
 わが国においても近年における環境問題に対する認識の高まりは著しく、各方面において種々の汚染防除対策が推進されてきた。しかし、わが国の環境汚染の現状をみると、対策の進展によって一部では改善の傾向がうかがわれるものの、依然として汚染が進行している面もみられる。
 大気汚染は、全国的な傾向として、いおう酸化物、一酸化炭素、浮遊ふんじんは改善傾向にあるものの窒素酸化物、光化学オキシダントは依然として汚染濃度の増加傾向が続いている。水質汚濁は、一部地方河川で改善のきざしがみえはじめたが、大都市河川や内湾、湖沼の汚濁は進行している。
 こうした環境汚染の状況を反映して、公害による健康被害は、公害病認定患者に限ってみても、47年度末には大気系8,737人、水質系728人となっている。また、財産被害は、その態様が多様であり全国に広がるため、その把握は困難な面があるが、以下のような点からみても被害の進行が察せられる。すなわち、水質汚濁による農業被害面積(農林省調べ)は、45年度19万4千haと推定され、40年当時を53.4%上回った。漁業被害額(水産庁調べ)は、46年度183億円以上に及ぶものとみられるが、これは、46年の漁業総生産額(沖合・遠洋漁業および捕鯨業を除く。)の3.8%以上に相当するものである。また、瀬戸内海の47年の赤潮発生件数は前年を23.3%上回る164件に及び、全国の海洋汚染発生件数も47年は2,283件となり前年の1,621件を大きく上回った。
 こうした環境汚染の脅威は、地方公共団体に対する住民の公害苦情件数の増大からもうかがうことができる。地方公共団体の公害に関する苦情受理件数は、毎年増加してきており46年度は、合計8万件となっている。
 以下においては、まずわが国の環境汚染の推移と現状について、ややくわしく考察してみよう。

前のページ 次のページ