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第9節 

1 地方公共団体の公害対策

 昭和45年度末の第64回国会において、公害対策については積極的に国民の健康を保護し、生活環境を保全する観点から取り組むものとして、公害関係法体系の抜本的な改正整備が行なわれ、46年7月には公害関係施策の一元的な実施を図るため環境庁が設置された。
 このような国の動きに対応し、地域住民の健康と生活環境・自然環境を守り、直接住民の福祉をあずかる立場にある地方公共団体も、地域における総合的な公害対策を推進する責務を有するものとして、公害防止条例の改正・自然保護条例の制定、公害担当組織の拡充等、活発な動きをみせている。
 とくに、公害関係法改正整備に伴い都道府県知事に公害に係る監視体制の権限が大幅に委譲されており、公害対策行政については、地方公共団体に多くの期待がよせられている。
(1) 条例の制定状況
 公害防止条例は、地方公共団体の公害防止に対する基本的姿勢を示すものであり、また、地域の具体的な公害対策について総合と補充と調整を図るものとして、重要なものであるが、まず都道府県についてみると、全団体が公害防止条例を制定している(第6-9-1表)。
 国における公害関係法の抜本改正や施行令の制定に伴い、その適正な実施のため各都道府県は条例の改正を進めており、その重点は、?上乗せ基準の設定(地域の自然的・社会的事情に応じて必要があると認めるときは、条例で国の一律基準を上回る厳しい基準を設定する。)、?規制対象の拡大(条例により法律の規制対象項目以外の項目についても規制する。)、?立地規制(特定施設の立地を許可制にする。)等があげられるが、これまでの公害防止条例をより地域に密着させ、しかも公害の未然防止を強力に展開できるよう内容の整備が行なわれている。
 また、地域住民の意識は、快適な日常生活の阻害要因としての公害問題とともに、自然環境保全という、より基本的な方向へと向けられ、自然保護条例の制定という形で、地方公共団体の施策をうながした。これについては、45年10月の北海道自然保護条例、46年3月の香川県自然保護条例等がその先駆となった。
 昭和47年3月末までに自然保護条例を制定している道県は、21である(参考資料第12表参照)。その内容は、自然保護の立場から各種保護地区を指定し、指定地域における一定の行為等を規制する方式をとっている。
 次に市町村の公害防止関係条例の制定状況をみると、46年10月1日現在124団体が条例を制定している。45年7月15日現在70団体であったことからすれば、公害防止に対する市町村の意欲の高まりを如実にうかがうことができる。
 市町村条例においては、従来騒音防止条例等が大勢を占めていたが、46年には公害防止条例・公害対策条例が実に77市町村において制定されるにいたっている。
 また、公害対策にとどまらず一歩進んで環境保全の立場から環境保全条例を制定している市町も7団体ある。
 市町村の公害防止条例は、都道府県におけるそれにくらべて規制権限等の制約もあるが、公害防止・環境保全に対する市町村の姿勢を示すものとして大きな意義を持つとともに、実際に効果をあげているものも少なくない。なお、市町村における公害防止協定の締結は、(3)で述べるように公害の未然防止対策において重要な位置を占めているが、最近では、条例上に公害防止協定に関する規定を設け、公害防止協定の締結を企業者に義務づけることによって、協定を条例で明確に位置づけ、さらに協定上立入調査検討の規制権限を有する旨を明示することにより、公害防止における市町村の規制権限を確保するという間接的規制方式を採る動きもみられる。代表的なものは千葉氏の「公害防止協定の締結等に関する条例」である。


(2) 公害担当組織
 昭和46年10月1日現在、公害専門局部課(室を含む。)を有する地方公共団体は、46都道府県、255市、16町で、45年7月と比較して9県、146市町が増加している(第6-9-2表)。
 また、上記以外で公害専門係(「班」を含む。)を有している地方公共団体は、992団体(282市、606町、104村)で、45年7月と比較して9県の減少(係から課に組織を拡大したことによる。)、537町村の増加となっており、多数の地方公共団体が組織の拡充・強化を図ったことが知られる。


(3) 公害防止協定
 公害防止協定は、昭和27年に島根県で初めて締結され、その後39年12月横浜市と電源開発株式会社との間に結ばれた協定が「横浜方式」として一つの典型となったが、これにならって公害防止協定を企業と締結する地方公共団体は年々相次ぎ、公害の未然防止のための手段としては全国的にポピュラーなものとなった。
 46年10月1日現在、公害防止協定を締結している地方公共団体数は、30都道府県、256市町村、計286団体で、相手方企業は、1,708企業となっており、45年7月15日現在に比較すると地方公共団体数で、180団体、相手方企業数で1,212企業の増加をみせている。
 このように地方公共団体において、公害防止協定が相次いで締結される理由として次のような点があげられる。?公害防止協定により、公害規制法規を補完することができる。?公害防止協定により、当該地域社会の地理的・社会的状況に応じたキメの細い公害防止対策を適切に行なうこともできる。?公害防止協定に将来の具体的公害防止の目標値を設定することが多く、企業にこの達成のための具体的な公害対策または公害予防技術の開発を促進させる効果をもっている。?企業側からみても、立地するに際して地域住民の同意を得なければ、操業が不可能となっている最近の実態にかんがみ、住民の同意に代えて、地方公共団体と公害防止協定を締結する例が多く、その必要性は高くなっている。
(4) 公害対策予算
 46年度の地方公共団体の公害対策費は、当初予算で4,382億円で45年度の決算額3,735億円と比べると、647億円、17.3%の増加であり、地方公共団体の公害対策への意欲の高さがうかがわれる(第6-9-3表)。
 増加額の最も大きなものは、建設事業費で3,894億円、45年度決算と比べて443億円、12.8%増加しており、増加額の68.5%を占めている。なかでも、最もウェイトの高い下水道整備事業費は2,951億円で、45年度決算と比べて681億円、30.0%と大きな伸びを示している。その他の建設事業費としては、緩衝緑地整備等の大気汚染対策(219億円)、学校移転等の騒音、振動対策(199億円)、産業廃棄物対策(129億円)、等が主なものである。
 中小企業等の公害防止施設整備に対する補助金、貸付金は238億円で、45年度決算と比べて142億円増加し、ほぼ2.5倍と大幅な伸びをみせている。
 なお、地方公共団体の公害防除施設に対する融資制度は、中小企業近代化資金、中小企業高度化資金を利用して融資を行なっている都道府県も多いが、単独で融資助成措置を行なっている場合も多い。都道府県にあっては45団体で、市町村においても105団体において措置を行なっている。
 人件費、監視測定機械器具購入費等の経常経費は200億円で、45年度決算と比べて38億円、23.5%増加している。

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