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第5節 

2 公害苦情の処理

(1) 公害苦情相談員制度
 公害問題は、地域住民に密着したものであるから、地方公共団体が公害に関する住民の苦情陳情を処理しているが、近年、その申立ての数は、急激に増加しつつある。
 また、公害に関する苦情陳情が公害紛争の前段階的な性格を有するものであることから、これを早い時期に適正に処理することは、将来より深刻な、より大規模な形態をとって現われる公害紛争を未然に解決する機能を果しているといえよう。
 このような公害苦情処理の重要性にかんがみ、公害紛争処理法においては、地方公共団体の苦情処理体制の整備充実を図るとともに、地域住民からの公害に関する苦情の相談窓口を統一する目的をもって公害苦情相談員制度を設けている。すなわち、都道府県および人口25万以上の市(昭和45年国勢調査で50市。沖縄復帰後は、那覇市が加わり51市。)には公害苦情相談員を必ず置くこことし、その他の市町村は、当該地域の公害の実情に照し、必要に応じて、これを置くことができるものとした。これに基づく全国における公害苦情相談員の設置状況は、第6-5-3表のとおりである。
 もとより公害苦情の処理は、地方公共団体が当該地域の実情に応じて行なうものであるが、公害苦情相談員となる職員の養成、その配置等地方公共団体共通の問題があることにかんがみ、公害紛争処理法の一部改正により、46年7月1日から中央公害審査委員会が地方公共団体の公害苦情処理について指導等を行なうこととなり、公害苦情相談員制度の一層の充実強化を図ることとなった。
 公害苦情相談員の任務としては、おおむね次のようなものがあげられる。
ア 公害苦情相談の受付窓口となること。
イ 相談員自ら相談人、関係人に対し助言、あっせん指導等を行なうこと。
ハ 公害苦情の情報を迅速、的確に関係部局に連絡し、問題解決の推進力になること。
 公害苦情相談員は、広範多岐にわたる公害苦情について、これらの任務を十分果たす必要があるが、現状ではこのような職員を養成することおよび増大する苦情申立てを迅速に処理するのに必要な数の職員を十分確保することは、多くの地方公共団体にとって、困難な点が少なくない。今後、この制度を充実させ、実効性を高めていくにあたっては、とくに、これらの点に注意を払う必要がある。


(2) 公害苦情の状況
 45年度における地方公共団体の公害に関する苦情の受理件数は、63,443件であり、前年度の40,854件に比べて22,579件増加し、倍率で1.55倍となり、ここ数年で最高の伸び率を示した。このように45年度に苦情件数が大幅に増加したのは、同年度が実態面における各種公害の激化という事実を背景として住民の間に公害撲滅意識が急速に盛り上り、地方公共団体をはじめ行政機関にその対策を求めるに至ったこと、また、行政機関の側においても、公害苦情相談員を設置する等住民の公害苦情を解決するために積極的に対策を講ずるようになったためと考えられる。
 公害の種類別にみると、騒音、振動が22,568件で全件数の35.6%を占め、例年のとおり、最も多い。次が悪臭の14,997件、全件数の23.6%、大気汚染の12,911件、全件数の20.4%となっており、以下、水質汚濁、その他の順となっている。対前年度増加率でみると、水質汚濁が1.91倍で最高であり、以下、悪臭の1.88倍、大気汚染の1.71倍、その他の1.40倍となっている(第6-5-4表)。
 次に都道府県別の受理件数をみると、東京都、大阪府がそれぞれ14,208件、9,348件で絶対数が多いばかりでなく、人口当たり件数(人口10万対)もそれぞれ124.5件、122.7件と高く、大都市の公害の深刻さを反映している(第6-5-5表)。
 また、都道府県単独、政令市(人口25万以上の公害苦情相談員必置の市)、その他の市町村別の人口当たり件数(人口10万対)の全国平均をみても都道府県単独の7.4件、政令市64.0件、その他の市67.4件、町村21.8件で、都市部の件数が圧倒的に多い(第6-5-6表)。都道府県単独の受理件数が低いのは、公害苦情が、一義的には、住民に最も身近かな市町村に申し立てられるからだと考えられる。

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