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第2節 

4 その他の自然保護対策

(1) 風致地区
 都市の風致を維持するため、都市計画法に基づき風致地区が定められている。これは自然的要素に富んだ土地について良好な自然的景観と建築行為等との調和を図る制度であり、風致地区内における規制については、都道府県または指定都市の条例により定められており、建築物の建築、宅地の造成等を都道府県知事または指定都市の長の許可にかからしめるなど必要な規制を行ない、都市の風致の維持を図っている。なお、昭和45年度末現在、風致地区は全国で678地区約13万7,400ヘクタールが指定されており、昭和46年度においては、金沢市、徳島市、宇都宮市等において、区域の拡張を行なった。
(2) 都市公園
 今日環境問題の一つとして、自然保護対策と併せて、都市における緑とオープンスペースの急速な減少が重要な課題となっている。昭和30年代以降の急激な人口、産業の都市への集中は、一方で市街地内部の寺社境内地、あき地等の身近かなオープンスペースの喪失を持たらすとともに、他方で市街地周辺部の山林、原野等の無秩序な蚕食をもたらし、都市環境の悪化をまねいている。それに加えて大気汚染、騒音など直接生命をむしばむ公害も増加している傾向にある。
 このような情勢において、都市における緑とオープンスペースとりわけその中核となる都市公園を確保し、新たに建設することは、現代の緊急課題であるのみならず、国民の8割が都市に生れ育つこととなる次の世代に対するわれわれの基本的責務であるといわねばならない。
 都市公園は、都市を緑化し、都市公害を緩和し、災害時の避難場所を提供するばかりでなく児童、青少年の健全なレクリェーションの場や市民のコミュニケーションの場を与える等の多目的機能を有する基幹的な生活環境基盤施設である。
 しかるにわが国における都市公園の現状は、都市公園法制定当時(昭和31年)の約14,000ヘクタールから昭和46年度末においては、約25,000ヘクタール(推計)と漸増をしているものの、急速な都市化への対応が著るしく遅れており、都市計画区域内人口1人ありの公園面積2.8m
2
と欧米の諸都市たとえばニューヨーク19.2m
2
/人、ロンドン22.8m
2
/人などと比べ、かなりの低水準にある。
 昭和46年度は、児童公園など住区基幹公園および総合公園など都市基幹公園の整備に重点を置くとともに、河川敷地の公園化を促進するなど、国費64億8,100万円(補正後)を持って公園事業を実施した。またこのうち国営公園は、武蔵丘陵森林公園の整備を継続して行ったほか、新たに飛鳥地方の歴史的風土を保存するため、飛鳥国営公園の整備に着手した。


(3) 近郊緑地等
ア 首都圏近郊緑地
 首都圏においては、「首都圏整備法」により既成市街地の近郊で、無秩序な市街化を防止し、計画的な市街地の整備と緑地の保全をあわせて図る区域として近郊整備地帯を指定しているが、この区域において良好な自然環境を有する緑地を保全し、適正な都市環境を維持するとともに、地域住民の健全な心身の保持増進と、公害および災害の防止に資するため「首都圏近郊緑地保全法」に基づき、現在までに16ヶ所約1万2,500ヘクタールを首都圏近郊緑地保全区域(第4-2-24表)として指定している。また、さらに追加指定のための広範囲にわたる適地調査を行なっている。
 なお、近郊緑地保全区域においては、建築物の新改築、土地の形質の変更等緑地の保全に影響を及ぼす行為について届出制とするほか、とくに保全をはかるべき必要な地区については都市計画の「近郊緑地特別保全地区」として決定することができることとなっており既に6地区約370ヘクタールを決定している。
 この地区については、一定の行為について許可制とするとともに、行為の規制により土地の利用に著しい支障をきたした場合に土地の所有者の申し出により土地を買入れることになっており、昭和45年までに買入れた土地は約45.0ヘクタールである。また昭和46年度においては、国費6,800万円を地方公共団体に補助して、約1.2ヘクタールの土地を買い入れた。
イ 近畿圏近郊緑地
 近畿圏においては、「近畿圏整備法」により、圏内において文化財の保存、緑地の保全または観光資源の保全、開発を行なう区域として、昭和47年3月現在21区域約91万ヘクタールの保全区域を指定している。そのうち、市街地化の特に著しい既成都市区域の近郊における保全区域内の樹林地(池沼等を含む。)については、住民の健全な心身の保持、増進または公害、災害の防止を図るため、「近畿圏の保全区域の整備に関する法律」により、近郊緑地保全区域として6区域約8万ヘクタールが指定されている。この近郊緑地の保全に影響を及ぼす行為について届出制とするほか、特に重要な地区については都市計画に「近郊緑地特別保全地区」として決定することができることとなっており、既に5地区594ヘクタールを決定してる。この地区については一定の行為について許可制とするとともに行為の規制により土地の利用に著しい支障をきたした場合に土地の所有者の申出により土地を買い入れることになっており、昭和45年度までに買い入れた土地は、約6.9ヘクタールである。なお、保全区域については府県において保全区域整備計画を作成し、区域内の整備の基本構想、土地の利用に関する事項、文化財の保存、緑地の保全または観光資源の保全、開発に関連して必要とされる施設整備の大綱を定め、区域の整備保全を図ることとしている。
 近郊緑地保全区域の指定状況は第4-2-25表のとおりである。
ウ 中部圏保全区域
 中部圏においては、「中部圏開発整備法」に基づいて、観光資源を保全し、若しくは開発し、緑地を保全し、または文化財を保存する必要がある区域を保全区域として指定することとなっており、昭和43年11月に、主に観光資源の保全に関連する18区域約122万ヘクタールを指定した。昭和46年度においては、保全区域整備計画作成基本方針を決定し、土地利用現況調査と並行して、保全区域整備計画の作成に着手した。
 また、都市整備区域およびその周辺において、近郊緑地として必要な保全区域に関する基礎資料を得るため、伊勢湾周辺地域広域緑地系統計画調査を実施した。


(4) 古都における歴史風土の保存
 京都、奈良、鎌倉等の古都において歴史的意義を有する建造物、遺跡等が周囲の自然的環境と一体をなして古都における伝統と文化を具現しおよび形成している地域を保存するため、古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法に基づき、現在までに京都市等8市町村において約1万4,000ヘクタールの歴史的風土に保存区域を指定し、さらにこの区域のうち、特に必要な部分を構成している地域、約4,000ヘクタール(37地区)を都市計画の「歴史的風土特別保存地区」として指定している。歴史的風土特別保存地区においては、建造物その他の工作物の新築等歴史的風土の保存に影響を及ぼすおそれがある行為を、府県知事の許可にかからしめるとともに、土地の買上げを行ない、また、この地区以外の歴史的風土保存区域においても、それらの行為を府県知事に届け出るなど、必要な規制を行なっている。
 昭和45年度までに買い上げを行なった土地の面積は、約41.7ヘクタールであり、昭和46年度には地方公共団体に国費約4億3,200万円を補助して、約7.3ヘクタールの土地を買入れた。
 なお、飛鳥地方については、昭和45年12月の「飛鳥地方における歴史的風土および文化財の保存等に関する方策について」の閣議決定に基づき区域の拡張を行なうとともに、国費約6億2,500万円(事業費約7億8、500万円)で環境の整備を行なっている(第4-2-26表)。


(5) 史跡、名勝、天然記念物
ア 史跡等の保存整備
(ア) 全国的見地からみて重要な歴史的記念物については、文部大臣がこれを史跡に認定することができることとなっている(昭和47年3月31日現在の指定件数876件)。指定された土地については、その土地の利用規制との調整措置としての民有地の買上げおよび買上げた土地の遺跡の性格、内容に応じた整備等の保護事業を行なっている。これらの事業は、地方公共団体が行ない、国がこれを補助することとしているが、昭和46年度は、史跡等の土地買上げとして、大宰府地区史跡群(福岡県)多賀城跡(宮城県)等57件、史跡等の整備として一乗谷朝倉氏遺跡(福井県)、和歌山城(和歌山県)等35県等の補助を行なった。また、地方的に、城跡、古墳等の遺跡が集中的に存在しており、歴史的風土を形成している地域について、主要な遺跡を整備するとともに資料館等の施設を置いて歴史、考古資料、民俗資料等を収集、展示し、文化財の一体的保存と普及活用を図るため「風土記の丘」の建設を行なっており、昭和46年度は吉備路風土記の丘(岡山県)ほか2件の補助を行なった。
(イ) 奈良盆地南部にある飛鳥、藤原地域は、日本の古代国家の発生の地であり、現在も宮跡を中心とする貴重な遺跡が多く往時をしのばせるに足る自然的、歴史的環境を残している。近年この地域への開発の波及が問題となり、国全体としての保存施策が検討された結果、昭和45年12月には、「飛鳥地方における歴史的風土および文化財の保存等に関する方策について」の閣議決定があり、これによって文化庁は、文化財保護法による遺跡の史跡指定の促進、遺跡の発掘調査の推進、史跡指定地の土地買上げおよび整備等を行なうこととし、昭和46年度から本格的な事業に着手した。また、かっての奈良の都の宮城跡である平城宮跡については現在約120ヘクタールが特別史跡として指定されており、国費による宮城内の民有地の買上げおよび整備を進めている。
イ 名勝、天然記念物の保護
 わが国の自然を記念する動植物および一定の地域のうち重要なものについては、文部大臣がこれを名勝または天然記念物に指定することができることとなっている(昭和47年3月31日現在の指定件数名勝211件、天然記念物848件)。文化庁では近年の自然に対する開発の波及に応じて全国にわたっての自然の状況を知るため昭和42年度から年次計画で、全国天然記念物緊急調査を実施し、この結果に基づいて植生図と動植物分布地図を作成するとともに、毎年度保護されるべき動植物等の豊富な地域について特別調査を実施し、総合的見地での体系的な自然保護施策を行なうこととしている。昭和46年度には北海道ほか9件の緊急調査、北海道サロベツ原野の特別調査および沖縄における天然記念物調査を行なった。
 また、絶滅の危機にある動物および破壊の著しい自然地域については、これを回復するための保護増殖事業として動物に対する給餌、人工増殖、湿原回復措置等を実施している。昭和46年度においては、19件の保護増殖事業に対し補助を行なった。

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