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第5節 

1 赤潮の発生状況と最近の特徴

 赤潮は、海域におけるプランクトンの急激な増殖による海水の呈色現象をいうのであるが、かなり古くから赤潮が発生していることが知られている。しかし、当時の赤潮は発生水域が局地的であり、継続日数も短期間であって、魚類等のへい死する事例があっても、漁業への影響が大きな問題としてとりあげられたわけではなく、むしろ自然現象の一つとして考えられていた。
 戦後においても、赤潮は大阪湾および広島湾の一部に小規模に発生していた程度であるが、鉱工業生産の伸長等に伴って、年ごとに工業地帯の地先海域等で、その発生回数が増大するようになった。
 とくに、昭和40年以降は、赤潮発生水域の広域化、発生回数の増大、発生期間の長期化の傾向がみられるようになり、昭和45年には、赤潮発生水域は瀬戸内海、伊勢湾および東京湾等の内海、内湾の全域に及んでおり、各所で養殖魚介類のへい死等大きな漁業被害を生ずるにいたっている(第2-5-1図)。しかも、赤潮を構成するプランクトンの優占種は、汚染度の高い水域に発生する海産ミドリムシである場合が多く、広範かつ大規模な漁業被害の発生をもたらしている。
 とくに、瀬戸内海においては、漁業生産は、わが国の沿岸漁業生産の約25%を占めるばかりでなく養殖業においては約45%を占め、集約的な漁場利用がなされており、それだけに赤潮が漁業へ与える影響も大きい水域である。瀬戸内海における昭和46年の赤潮の発生状況をみると(第2-5-1表)、赤潮の継続日数および延発生日数ならびに漁業被害を伴う赤潮発生件数の比率の低下等がみられるものの、発生件数が前年に比べて1.8倍となり、前年に引きつづき発生水域の広域化および頻発化の傾向がみられたばかりでなく、これまで赤潮発生の例をみなかった日本海沿岸の油谷湾にも赤潮が発生しており、今後における赤潮による水産被害の増大等が懸念されるにいたっている。
 なお、昭和46年において漁業被害を伴う赤潮発生件数の比率が低下したことについては、魚介類の生息環境にとくに悪影響を及ぼす海産ミドリムシが優占種になった事例が少なかったことに加え、関係漁業者による赤潮発生の通報組織の確立、各県の指導による養殖漁場の選定の適正化および養殖または蓄養施設においてアテレーション、換水施設を整備したこと等によるものと考えられるが、瀬戸内海沿岸の主要工業地帯について水質規制が実施され、その効果があらわれたことも少なからず寄与したものと推定されている。

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