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第3節 

1 光化学反応による大気汚染の現況

(1) 光化学反応による大気汚染
 工場、自動車等の発生源から排出された窒素酸化物や炭化水素が紫外線の作用をうけて複雑な二次生成物を形成する。その二次生成物のうち、オゾン、パーオキシアシルナイトレート(PAN)等の酸化性物質をオキシダント−総酸化性物質−と総称しているが、これらがある気象条件のもとで、視程を悪化させるスモッグ状態を起し、眼の刺激、のどのいたみ等の被害を生ずるとされている。このスモッグがいわゆる光化学スモッグと呼ばれているものである。
 わが国においては視程を悪化させるスモッグの発生とは無関係にオキシダント濃度のレベルにより光化学スモッグ注意報、警報等が出されている。またその警報発令時にオキシダントによると思われる目の刺激、のどの痛み等の粘膜刺激症状を主体とした被害届の大部分が報告されていることから、わが国においてもスモッグの発生の有無にかかわらず、光化学反応により生じた汚染物質による大気汚染が生じていることは事実と考えられる。このような意味から現段階では光化学スモッグという表現より光化学反応による大気汚染という表現の方が適切であろう。
(2) 光化学反応による大気汚染の歴史
 光化学反応による大気汚染は、最初ロスアンゼルスで見い出された。1943年頃よりロスアンゼルスでは、スモッグ発生時に視程の悪化、目に対する刺激、植物被害、臭気、ゴムの亀裂等の影響が現われた。これらの影響は、決して一つの汚染物質によって起るのではなく、幾種かの既知又は未知の大気中における光化学反応生成物によって起ることがわかってきたが、なお、その発生機序等に未解明な点が多く残されている。
 わが国では、昭和45年7月18日東京都杉並区の私立東京立正高校のグランドで運動中の女生徒43人が目に対する刺激、のどの痛み等を訴え、なかには呼吸困難、四肢のけいれん等のはげしい症状を訴えるものがでたということで、これがいわゆる光化学スモッグによるものではないかとされた。この事件以後、いわゆる光化学スモッグによるとされる眼の刺激症状を主とした被害が東京周辺地域で報告された。
 さらに46年の夏期に入ると、東京周辺のみならず、大阪湾地域、愛知県等においても被害届が報告され、その発生地域が拡大している。
(3) オキシダント濃度の現況
 オキシダント濃度は、中性ヨウ化カリウム又は中性臭化カリウムを用いた比色法又はクーロメトリ法によるオキシダント測定器で、全国各地で測定されている。
 オキシダント測定器は、国設大気測定局8カ所、都道府県および政令市で設置している地方大気常時監視測定局52カ所(以上、47年1月現在)自動車排出ガス測定局35カ所(46年3月現在)に設置されている。
 東京および大阪の国設大気測定局の44年以降の測定結果を第1-3-1表、第1-3-1、2図に示した。
 オキシダント濃度の1時間値の年間平均値については、両測定局においてとくに顕著な経年変化は見られないが、1時間値の最高値は、東京測定局において年々上昇する傾向を示している(第1-3-1表)。
 月別平均値の変化は季節的に顕著な変化は認められないが(第1-3-1図)、一方、月別の1時間値の最高値については、夏期に高いことがわかる。
 なお、東京測定局においては冬期にもオキシダントの濃度がかなり高い値を示している。46年度においても、冬期のオキシダントの高濃度日が出現しており、これが夜間に発生する傾向にある。これは現在のオキシダント測定法では主としてオゾンが測定されるが、このほかに窒素酸化物の一部もあわせて測定されてしまうので、この影響が大きな原因であると考えられている。大気汚染防止法では大気が著しく汚染され、または汚染するおそれのある場合には、緊急時の措置を講ずることとしているが、その条件としてはオキシダント濃度の一般緊急時の発令基準は、1時間平均値0.15ppm以上および重大緊急時の発令基準は0.50ppm以上と規定している。45年および46年の各地のオキシダントによる緊急時の発令状況は第1-3-2表に示すとおりである。
 このほか地方公共団体では、緊急時対策要綱等により、独自に警報基準を定めてそれらの基準値以上になると、広報活動を通じて一般住民に対するオキシダントの高濃度発生の通知をし、さらに発生源に対する協力要請を行なっているところもある。


(4) 被害届出の現況
 光化学反応による大気汚染による被害状況は、現在地方公共団体で被害者の届出により集計されており、正確な実態の把握は困難である。
 第1-3-2表は各都道府県に届けられた被害数を集計したものである。各地の被害届出者の大部分は、小・中学校の学童であり、その被害症状のほとんどは、目の刺激、のどの痛み等、軽度の粘膜刺激症状である。なお、被害者の中には少数ながら、胸の苦しみ、四肢のしびれ等の重篤な症状を訴え、入院治療を要するという事例が46年に入っても数例報告されているが、いずれの場合にも戸外でかなり過激な運動をしている際に発生したものである。これらが、光化学反応による大気汚染による被害かどうかについては、その事例発生時に当該地点で汚染物質の測定が行われていないことや、被害者の健康診断、精密検査等の検査によっても明確な結果が得られていないことなどからみて現在のところ光化学反応による大気汚染の影響とは判断できがたいとされている。

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