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第3節 

1 環境保全技術の現状

 技術革新は経済、社会の発展を促し、限られた資源からより高度な豊かさをもらすための打出の小槌である。巨大化する人間活動と限られた環境との間に生じているさまざまの環境問題を解決するために今後技術の果すべき役割は大きい。環境対策の面でも技術開発を大きな柱の一つとして数えることができる。そこで環境保全の見地からみて、わが国における現在の技術開発はどの程度進展しているのか、またどういう方向に向っているかをみてみよう。
 戦後の技術開発の中心は、生産関連技術であり、公害防止関連技術の割合は非常に低かったことがわかる。第3-3-1表は海外から技術導入件数に占める廃水、廃ガス処理、脱硫等の公害防止関連技術の割合をみたものであるが、昭和31〜35年度にはわずか1.4%にすぎず、36〜40年度でも2.4%である。
 これは、導入すべき優秀な技術がなかったということもあろうが、技術導入という面からみて、公害防止のための技術があまり重視されていなかったことも反映しているものといえよう。しかし、近年、環境問題に対する認識の高まりを背景に、公害防止関連技術の導入は増加傾向にあり、45年には全体に占める比率は5%弱となっている。
 政府の科学技術関係予算をみても、公害防止のための研究費はまだ少ない。第3-3-2表は政府の手になる環境汚染防止のための研究費とそれが政府の研究費全体に占める割合をアメリカと比較したものである。対象範囲の差などがあるため厳密な比較はできないが、これによれば、わが国の環境汚染防止のための研究費は絶対額でみて45年度にはアメリカの100分の1であり、研究費に占める割合はアメリカの2.0%に対して0.4%となっている。
 民間の技術開発状況も他の一般技術に比べて立ち遅れがみられる。第3-3-1図は、25〜41年度に技術導入を行なった企業が、その技術についてどのような研究開発状況にあったかを、公害・医療等の社会開発関連技術と一般産業技術に分けて比較したものである。これによれば、社会開発関連技術の研究段階については、「基礎研究も行なっていない」とするものが多く、「自主技術ですでに工業化していた」と答えたのはわずかであった。また、技術的格差についても遅れていると判断している割合が高かった。
 このように、これまでのわが国の技術開発は生産技術中心で、環境保全のための技術開発は相対的に立ち遅れてきたといえる。
 では、こうしたわが国の環境保全のための技術開発の現状はどうか、また、今後解決すべき問題点はどこにあるのだろうか。
 環境保全の技術は、ガソリン・エンジン車から電気自動車等への転換、クローズド・プロセスによる生産システムの開発など、既存の公害発生のプロセスそのものの根本的な変革、高煙突による大気汚染物質の拡散等の既存設備の改良、物理的、化学的、生物的処理等の廃棄物の処理技術、環境の汚染度の測定や監視のための技術に分けることができる。現在各方面で進められている技術開発およびそれが実現したものについて上記の分類方法でまとめてみると第3-3-3表のようなものになろう。
 このような環境保全技術について、民間部門での開発状況をみると、近年の環境汚染に対する規制の強化、認識の高まりに対応して急速な高まりをみせている。たとえば、自動車産業の公害関係研究費の推移をみると、環境問題がとくに問題となり始めた近年、急速に増加してきている(第3-3-2図)。内外両面から排出ガス対策の強化を迫られている自動車産業にとっては、環境保全面での技術開発の成否がその企業の死命を制することにもなりかねないといえる。
 また、工業技術院の調査によって、総研究費に占める公害防止技術開発研究費の割合、および総研究者に占める公害防止技術研究者の割合を業種別にみると、生産プロセスからの環境汚染が問題化している紙・パルプ・鉄鋼・電力、製品が環境の汚染をもたらす自動車産業、計測機器等を開発する精密機械産業などで公害防止技術開発に力を入れていることがわかる(第3-3-3図)。
 このように特定の業種についてみれば、公害防止技術開発の進展がみられるが、全体としてみると、公害防止技術費用や研究者はまだ十分とはいえず、ちなみに、全業種についてみると、技術開発費用の6%、研究者の11%が公害防止技術開発に向けられている現状である。

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