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第1節 

2 解決を迫られる諸問題

 政府を中心としてこれまで行なわれてきた環境保全対策は、上にみたように、当初の立ち遅れはいなめないが、その後、急スピードで進展し、いくつかの成果もみえはじめている。環境行政一元化の目的で、昨年7月に環境庁が発足し、本格的な行政にとり組む体制も整えられた。しかしながら、各種制度の強化、拡充がはかられてから日もまだ浅いだけに、今後なすべきことが山積しているのが現状であるといってよい。今後の問題点として指摘されるものには、以下のようなものが考えられよう。
 まず、第1に、広範な分野にまたがる調査や政策手法の開発をいかに進めるかという問題である。最近の、公害現象は一層複雑多様化の様相を呈し、たとえば、瀬戸内海の赤潮発生のような広域的な汚染とか、光化学スモッグのような原因の究明が困難な事象とか、さらには最近大きな問題となってきているPCB汚染問題とか、あるいは、プラスチック廃棄物問題のように、広範な分野にまたがった調査研究や政策手法を有機的に関連づけて行なうことを必要とする公害問題が増えており、これへの対処を考えなければならなくなってきている。
 第2は、環境汚染に対する事前予防政策の遅れの問題である。いうまでもなく、環境に汚染物質を排出してからそれを完全に取り除くことは、コスト的にも不利であり、技術的にも非常に困難である。したがって、まず、発生源段階で環境汚染の未然防止をはかることがきわめて重要であるが、今日においては、このような政策手法の開発はまだ緒についたばかりである。また、地域開発問題にあっても、近時新工業地帯での環境汚染が問題となっている実情は、工業開発プランを設計する段階で環境分析を十分に行なってから工業化を進めるという考えに基づく事前予防政策がまだ不十分であることを示唆するものであろう。
 第3に、生活環境関連社会資本の整備の遅れの問題である。近年の急激な都市化に伴って下水道、廃棄物処理施設、都市公園等の生活環境関連社会資本に対する需要は急速に伸びてきている。これに対応して、これら施設に対する公共投資の伸びも近年いちじるしくなってきてはいるが、過去の不足を埋め合せるとともに、ますます急増する需要をまかなうという二重の困難性のために、生活環境関連社会資本ストックはいちじるしく立ち遅れており、これを、拡大をつづける日本経済のなかで解決しなければならないという大きな課題に直面している。
 第4に、国際的視野からの政策展開を必要とするような国際的な動き高まってきていることである。
 すなわち、国連人間環境会議の開催とこれに伴う措置の実行である。とくに、先にみたように人間環境宣言に盛り込まれた認識は、今後の環境政策の根本理念となっていくであろう。
 また、OECD環境委員会で採択された環境政策の国際経済面に関するガイディングプリンシプルの中に、「汚染者負担の原則―いわゆるPPP」の考え方がみられる。これによれば、環境は無限のものではなく、一つの資源とみるべきであり、環境汚染コストは資源の最適な配分を達成するために汚染者が支払うべきものであるということになる。その具体的な細目については今後の検討に残されているが、同原則はOECD閣僚理事会で正式に採択されることのなろう。
 このような国際的動向は、各国の環境政策について検討すべき種々の課題をなげかけることとなろう。

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