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第3節 

1 ごみの増大に悩む都市

 東京都は、「地域で出るごみは地域内処理を」という考え方のもとに46年9月「ごみ戦争」を宣言し、以後その具体化を進めようとしたが、住民と交渉は難行し、現在なお解決の糸口を求めて苦悩を続けている。その他の都市でも、所得水準の上昇、消費水準の上昇に伴って、人口の増加以上にごみの量が増加している。たとえば大阪市では30年代の後半から人口の増加はみられないが、ごみの収集量はふえる一方で、こうした傾向は他の都市でも同様である。これは一つには大量生産―大量消費―大量廃棄というプロセスによって生み出されたもので、次々と現れる新商品、ニューモデルは既存の商品を陳腐化させ廃棄物を増加させていった。
 また、これに加えて最近では包装資材の伸びもいちじるしく(第2-3-3図)、ごみ増大の一因となっている。これに対しては、消費者の側から「過剰包装追放運動」などの動きが出てきている。
 また、単に量がふえたばかりでなく、処分の困難なごみの割合がふえてきていることも一層問題を大きくしている。
 その第1はプラスチック類である。戦後の技術革新の成果であるプラスチックは、軽くて、耐久性に富み成型も容易であるため広い分野に利用されている。このため35年に約10万トンだった生産量は、45年には約500万トンに達している。通商産業省の試算によれば、生産量の増大にタイム・ラグをもちながら廃棄量も急増してきており、45年には約200万トンを超えるプラスチックが廃棄されているものとみられる(第2-3-4図)。大都市のごみの組成の変化をみても、近年プラスチック類の混入率の上昇が目立っている。
 プラスチックの素材としての長所は廃棄物としての短所となった。すなわち焼却しようとすれば低温で融けるため炉内の格子や他のごみに付着して燃焼を阻害し、燃える際には高温を発するため炉を痛める。また、分解しにくく安定性が高いため自然の循環メカニズムのなかに組み込まれにくく、埋立てにもむかない。このように、プラスチック廃棄量の増大はその処理に極めて困難な問題をなげかけている。
 処理の困難なごみの第2は、粗大ごみである。粗大ごみは、テレビ、洗濯機、冷蔵庫等の家庭電化製品、ベッド、たんす等の家具、自動車等の耐久消費財からなる。家庭に入り込んだ各種の耐久消費財は、その耐用年数が過ぎれば廃棄されるが、こういったごみは大型で不燃物を多く含んでいるため、焼却、埋立て等の従来からの処理方法にはなじまないので、破砕、圧縮等の新しい処理技術の導入が必要となっている。
 耐久消費財は、普及率が低水準の場合には生産、消費の増加はそのまま保有の純増となるが、普及率が高まってくると、購入される一方では、中古品が廃棄されることになる。テレビについて、保有台数と国内向出荷台数から廃棄台数を推計すると第2-3-5図のように、30年以降現在まで約1,500万台以上が廃棄されているものとみられ、そのうちの多くの部分はここ数年のうちに廃棄されていることがわかる。
 このようなごみ処理問題の深刻化は、住民対住民の問題としてむずかしい問題をはらんでいる。ごみ処理の責任は、ごみの排出者である消費者がその一端をになうべきであるとの自覚が希薄であることが、ごみ処理問題をいっそう解決困難なものとしているとみられる。公共処理施設の立地に関連したトラブルも、このことが顕在化したものであるという一面を持っている。こうした問題は、これまでどちらかというと生産者対住民という形で起こっていた公害、環境問題に新たに、住民対住民という形の環境問題をひき起こしたという意味で、注目すべき現象といわなければなるまい。

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